必ず結婚します 3


 ちょっとおこです。

 今までも確かにイラっとしたり驚いたり、いろいろな感情を沸かせてくれた面々だけど、今日ばかりはおこです。


 今日は何の日?

 僕とアイラとメアリー、三人が正式な家族になる日ですよ。

 集落から出て、友里と出会って、そしてみんなのおかげで生計が立てられるようになって、やっと僕もお金を稼ぐことが出来て。


 「………それなのに、何処まで邪魔するつもりですかっ!!」


 僕は地面を蹴飛ばして、祭壇まで一気に駆け抜ける。通りすぎる騎士団の人達の首や鳩尾、腎臓を目掛けて拳やケリを放ちながら。


 祭壇に辿り着き、振り返ると一人も漏らさずに倒れているのを一瞥して、今も尚、扉の前で立ちふさがる三人へと体ごと視線を向ける。


 「今日という今日は一切許しませんっ! 僕は結婚するんだっ!!」

 「そうよっ! ローグは私と結婚するのっ!!」


 打てば響くとはこのことなのかな?

 僕の声に真面目に答えているのはなぜかリーザさん。


 「リーザさんじゃないって!! アイラとメアリーと結婚するのっ!!」


 と、僕は半ばキレ気味で叫んだ訳だけど、そんな事は仮装三人衆には関係ない訳で。僕が祭壇前まで来て足を止めてしまったことは致命的だった。


 「結婚してくれれば私の良さをしっかりと分からせてあげる」


 その声は僕の左耳、それも纏わりつくようなねっとりとした囁きが聞こえた。


 「───っ!? こんなとこでも力技ですかっ!?」


 騎士団序列二位。そんな人を前に、僕は婚姻名簿の前まで来てしまっている。

 さらに、遠くに見えるアイラとメアリーはこちらを一瞥するも、アイラにはグールが。メアリーにはティンティンが歩み寄っていた。


 「アイラさんっ! よく見てくださいっ! これでみんなが幸せになるんですっ!」

 「メアリー様、私は貴方に出会うために産まれて来た。今は分からないかもしれないけれど、そんな男よりも幸せにして見せると誓いましょうっ!!」


 グールとティンティンが眼前の女性に告げるのを視界に映しながら、それでも僕はすぐ横で、僕の手首を掴んだリーザさんのせいで助けに行けない。


 「つーかまえた♪」

 「今日は簡単にはいきませんっ!」


 僕はその場でオーバヘッドキックをするように体を動かして、リーザさんの顔面目掛けて足を振るう。この人は僕が殺す気で立ち向かったって勝てない人。なら、さっさと距離を取るしかない。


 「虐めるならベッドの上にしてっ!」


 意味不明な一言を放つリーザさんだけど、いくら変態ストーカーだとしても序列二位。僕の足を軽々と交わしながら、今度は僕の足首を掴み取る。


 すぐに掴まれた足を軸足にして、腰を捻って反対の足で顔面へ振るう───フリをして、僕のケリを受け止めようとしたリーザさんの手から力が抜けた瞬間、僕は振り始めた足で掴めれている方の足を蹴飛ばし、リーザさんの拘束から逃れる事に成功する。


 「リーザさんに勝てるとは思いませんけど、要は捕まらなければいいんですよね?」


 地面に着地した僕は、そのままリーザさんから距離を取ると同時にアイラたちへと近付く。


 「行かせないわっ!」


 再び僕へと詰め寄るリーザさん。だけど、以前戦った時の様に剣を使わずに素手で立ち向かってくるリーザさんの動きは、以前ほど洗練された感じはしない。


 ───これならっ!


 僕はリーザさんが伸ばした手を弾き、片足を地面へと突き刺す様に踏み込む。


 ────円舞 基礎の型 円陣。


 後ろに飛ばした体を急停止させて、その勢いを全て回し蹴りに乗せて蹴り上げる。


 その回し蹴りは見事にリーザさんの腹部にめり込み、そのまま教会の天井目掛けて吹き飛び、そのまま体をめり込ませたのかパラパラと砕けた石が僕の頭に振り注ぐ。


 「アイラっ! メアリーっ!」


 僕はすぐにアイラたちへと振り返る………が。


 「気持ち悪いいィィィィィーーーーーっ!!」


 ドンッ、そんな鈍い音と一度も聞いたことの無い叫び声を放ちながら、アイラがグールに回し蹴りを決め、そのまま教会の扉を突き破って外へと消えて行ったグール。ちゃっかりと、アイラの手にはグールの腰にあった剣を抜き取っている。


 「あんたに触れた鞭なんてもう使えないじゃないっ!!」


 アイラがグールを蹴飛ばした横では一度も見たことのない鬼のような表情で、ティンティンのティンティンに空気を裂くような鋭い音を放った鞭が直撃。一瞬、僕のティンティンもキュンッとしてしまうけれど、「おほぉぉぉおーーーーっ!」と叫びながら四つん這いになったティンティンを見ると、それも薄れていく。


 目の前の光景を見なかったようにアイラへと視線を戻すと、自分を抱き締める様に両肩を抱え、プルプルと震えていた。


 「アイラッ! 大丈夫!?」


 今もお楽しみ中? であろうメアリーは一旦置いておいて、僕はアイラへと駆け寄る。


 「───逃がさないわ?」


 囁くような声量なのに、しっかりと僕の耳に届いた声。僕は咄嗟に横跳びして避けると、僕が通るはずだった場所に人影が振ってくる。


 「私はローグと結婚するの。そんな簡単には逃がしてあげないんだから♪」


 降ってきたリーザさんの目はその言葉とは裏腹に白目を剝いていて、口は凶悪に弧を描いていた。


 そして、その後ろでは……。


 「あんたのせいでローグとの結婚が台無しじゃないっ!! どう責任を取るつもりっ!?」


 パンッ! パンッ!


 と空気を破裂させたような音と共に。


 「おほっ! いいっ! これはこれでいいいィ言いィィィィいっ!!」


 ………我を忘れたメアリーさんと、新しい世界の扉を開いたティンティンがいます。


 

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