いきなりは困るよ、いきなりは


 ───翌日。


 「………ない?」

 「えぇ、残念ながら今ご紹介できる物件は一つも……」


 ここがティーグで不動産を扱っている商会で《ドーズ商会》。朝早くから見学とかできるかなと期待を込めて聞いてみれば、全滅だった。


 「私達も理由は把握できていないのですが、六年ほど前から移住する方々が年々増えておりまして、去年からは空き家の予約待ち状態が続いているんです」


 世間を学ぶって言うのも僕の目的ではあったけど、流石にリアルタイムな情報は新聞やテレビが無いと無理だよ。


 僕とアイラは対応してくれた店員さんに頭を下げ、店を後にする。


 さて、困った。

 このままの宿生活であれば、いつか僕は狼さんになってワオーンして追い出されるかもしれない。至急家を探さなければいけないというこの時に、なぜこうもタイミングが……。


 「ねぇローグ? 街の外に家を建てちゃだめなのかな?」


 ………それだっ!!


 「アイラ!! クレイグさんの所に行こうっ!」

 「う、うん」


 僕はアイラの手を取り、突撃お店訪問をする。


 先日話をした部屋へと案内されると、しばらくしてクレイグさんが顔を出す。

 すぐに街の外なら家を勝手に建ててもいいのか、どのくらいのお金が必要になるかなど、様々な疑問をぶつけてみることにした。


 「そうでしたかっ! それならばすぐにご案内しますねっ! えぇっと……まずは金額の問題から言ってしまえば、そちらは心配ありませんねっ」


 やたらと顔から笑みが零れ落ちているクレイグさんは、手元に置いてあった紙に何やら書き込んでいく。


 「こちらが私共で預かっているお二人の大体の資産合計金額。そして、こちらが家を建てる際の相場になります。家は設計や住設で変動しますが……」


 スッと紙を僕たちの前へと滑らせ、僕はそれに目を落とす。


 資産 1800万クルス

 相場 1000万クルス


 …………あれ?

 普通に一戸建て買ってもお金が余るの?


 「……ちなみにクレイグさん、普通に働いてる人たちの年収っていくら位なんですか?」

 「そうですね……、私共の様な商会主は日によって違いますが、当店で雇用している店員などですと……だいたい月に8万クルスと言ったところでしょうか? 年収ですとその十二倍になりますので96万クルス位ですね。これでもお二人のおかげで賃金の支払いは他よりも高いと自負していますよ」


 おっと。普通よりも高い賃金で年間96万と。

 そうなると僕たちの資産って普通の人の約19年分……?


 「1クルスが十だと思えば金銭感覚は掴めるはずよ」

 「あ~なるほど。じゃぁ96万クルスだから……円に直すと960万円くらいだ………と………?」

 「そう、物価や相場から見て、大体はそれであってるわ。ロク・・


 声のした方に視線を向けると、昨日助けたはずの金色の胃ブレイカーこと、メアリー・クルスさんが扉を開けて立っていた。


 「あなた、三栗谷 麓でしょ?」

 「えっと……クルスさん? 一体何を?」


 誰? なんで僕の前の世界の名前まで知ってるの?


 「その顔は正解みたいね」


 椅子に座ったまま、呆けている僕の眼前に来たクルスさん。僕を見下ろす目が怖いです。っていうかどんな状況ですかこれ?


 「えっ……」


 少しの間を置いて、クルスさんが僕に抱きつく。

 泣いているのか、頬には微熱、首筋には温かい吐息と雫が伝わって来る。


 「何年探したと思ってるのよ………バカ………」

 「えっ、えっ???」


 クルスさんは僕の肩を掴んで顔を僕の正面へと持ってくる。目が赤い、涙は滝の様に溢れてる。唇もわずかに震えていて……。


 「貴方の友里よ」

 

 はっ? えっ?


 「友……里? 来栖……友里?」

 「そうよっ、バカロク」


 そう言って、再び僕の頬に自分の頬を重ねるクルスさん。

 何故か走って逃げだすクレイグさん。


 ───カタッ。


 あっ………。


 「私のに何か御用ですか?」

 

 普段敬語を使わないアイラさんが敬語になっておりますればっ!!??


 クルスさんが僕の体から離れ、流れていた涙を拭う。


 「これは失礼。では譲っていただけませんか?」

 「冗談は死んでから言ってください」

 「もう一度死んでいますので」

 「ならもう一度お願いします」

 「その時はロクと一緒にと決めてますので」

 「私の夫です」

 「正式に……ではないですよね?」


 ナニコレ?

 どこの昼ドラ?


 てかちょっと、誰か僕に教えてっ!!!!

 


 


 

 


 


 

 

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