パオーンを超えてワオーン?

* あまりに短いので本日二回目の投稿です。


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 「………アイラ」

 「なぁに??」

 「僕、クレイグさんが困ってた意味が分かった気がするよ」

 「そうだねぇ~、これはちょっと予想外だったかも」


 結局、クレイグショップから近いという理由で《ロンドロンド》にチェックインした僕たちは、念願の食事に手を付け、そしてスプーンを落としそうになった。


 肉はパサパサ、野菜はシナシナ。

 何度も咀嚼をするも、味が出てこない。

 味付けはそこそこなのだけど、素材の味が全くと言っていいほどになかった。


 「……あれだね、これはアイラの料理が売れる訳だよ」

 「う~ん……、たまたまじゃないかな? だって私、普通に作ってるよ?」

 「………でもさ」


 僕はアイラに辺りを見渡す様に促す。

 ロンドロンドの中にある飲食スペースには僕たち以外にもたくさんの利用客がいる。中には「ぷはーっ」と木製のコップを一気に煽り、満足げな顔で食事を進めている人や、黙々とお皿に手を伸ばす人たち。僕たちの様に更に手を伸ばすのに躊躇うような人はいない。


 「う~ん……なんだろうね??」

 「……とりあえず、明日は急いで借家の契約しに行かない?」

 「ずっと宿って訳にはいかないもんね」


 まずいって訳でもないので、とりあえずは修行僧の様に口へと運んでいく。

 パサパサはササミ、シナシナは湯でキャベツ。そう思えば美味しく感じる……はず。今だけ馬鹿舌になってっ。


 僕は何とか食べきり、手が止まりそうになっているアイラの皿も半分は僕の胃に納めたあと、僕とアイラは二人部屋へと戻った。


 この世界で初めての宿は八畳くらいのスペースで、ベットが二つとナイトテーブルが二つ。それだけ。ビジネスホテルよりは広いけど、設備はそれ以下。本当に寝るだけといった感じだ。


 「う~ん……、ちょっと暇だねぇ」

 「まぁ……何も無いからね……」


 一つのベッドに二人で横たわり、アイラは僕の腕に頭を乗せている。


 ゴロン。


 「やっぱりここが落ち着くね♪」


 アイラが転がる様にして僕の胸へと頭を乗せる。

 時刻は夕方で、水浴びをまだ済ませていない僕とアイラな訳で、普段から感じる香りに、少し汗ばんだ匂いとが混ざり合って僕の心を突く。最近の密着度を考えればそろそろ慣れてもいいんじゃないか、僕。


 「あれぇ~、ローグ、ちょっとドキドキしてる?」


 ずりっと顔を上げ、上目使いに僕を見てくるアイラ。

 危ないですアイラさん。もう少し体をずらされると当たります。僕のパオーンに。


 「さて、水浴びに行こ?」


 積極的なのは見習うべきだけど、僕の心が持ちません。自重してください。こんな薄壁の宿でワオーンする訳にはいかないのですっ。



 


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