持つべきなのは信頼だね


 ひとしきり空の旅とドラちゃんを愛でたあと、僕たちは街に入ってこられないドラちゃんの住まいを探した。あんまり首都から近すぎても他の人に不安を与えちゃまずいし、かといって遠すぎたら僕とアイラが心配で首都で暮らせなくなってしまうだろう。


 首都から少し距離があったけど、静かな森があったのでそこにドラちゃんの家を作る事にした。僕たちが住むような複雑な家じゃなければ一時間もあれば作れる。


 僕は木こりを始め、アイラはみんなのご飯を作る。ご飯を食べ終えると僕は木こりに戻り、手持無沙汰になったアイラはドラちゃんと一緒に遊んでる………もとい、ドラちゃんに遊ばれている。


 ………アイラが笑っててくれるなら、うん。


 ドラちゃんの木を崩れない様に積み重ねただけの家を作り終え、僕たちはそこから徒歩で首都へと向かう。


 辿り着いた頃には空は赤く染まっていた。

 赤く染まった門の前には警備兵が両側に二人。クレイグさんに作ってもらっていた通行所を提示すると、問題なく首都ティーグへと入る事ができた。


 「おぉぉぉ………」

 「わあぁぁぁ………」


 田舎者まるだし。

 二人して開いた口が塞がらず、辺りをじっくりと見渡す。


 だって通路が全部レンガで埋め尽くされていて、通路の端には様々なお店がギッシリ。行きかう人々の表情は様々で、それこそ人の数だけ何かあるのだと思わせる。集落では見られない光景だ。


 転生直後は石器時代? なんて疑問を覚えたこともあったけど、あったよ……文明 


 はぐれない様にアイラの手を取り、門から街の中心まで続く大きな道を歩きながら視線はあっちこっちと目まぐるしい。

 ざっと見た感じで、中心には屋根の半分が骨組みだけになっているドーム型建造物。そのドーム目掛けて四方にある門から道が伸び、その道と道とを根の様に小さな道が街のいたるところに繋がってるって感じみたいだ。


 クレイグさんから貰った名刺を見ながら進んだ先にあったのは見渡す中では一際大きな建物で、入り口の上に半円状の看板。その看板には《クレイグショップ》と丸文字で書かれていた。

 窓から覗いた店内は夕暮れ時と言うのもあってか、お客さんでごった返していている。なんかこういうのを見ると、夕暮れ時のタイムセールを思い出しちゃうよね……。僕、あれ苦手だったんだよな……。


 店内へと入ると、ガヤガヤと犇めき合い、熱量はスーパーのタイムセールを遥かに凌駕していて、窓から見た時には気付かなかったけど黄色い声も混じっている。


 僕たちは壁際を歩きながら熱量を避けてカウンターまで進み、ぼぉーっとお客さんを眺める若い店員さんへにクレイグさんに会いに来たと告げると、奥へと案内された。


 案内された部屋は商談にでも使っているのだろう。真ん中に大きなテーブルとそれを挟む様に置かれた四脚の椅子。テーブルの中央には花瓶に花が活けてある。


 とりあえず椅子に腰を落とし、アイラと話しながらクレイグさんを待つことにする。

 アイラは見たことの無い食べ物や野菜なんかに興味が湧いたらしくて、早く料理したいらしい。僕としてはこれからお世話になるであろ精霊教会の位置が気になって仕方なかったけど、まずは新しい生活に慣れることの方が大事だよね。


 新しい生活を思い描きながらアイラと話をしていると、二回のノックの後に麻袋を両手に抱えたクレイグさんが入って来る。


 「ローグさん、アイラさん、お待ちしてましたよ」


 クレイグさんがテーブルに持っていた麻袋を置き、二枚の名刺を横に置く。


 「お二人からお預かりしている硬貨のほんの一部になりますが、一ヶ月くらいなら問題なく宿に泊まれる金額です。一応、財産管理代行の手続きも済ませてはありますので、足らない場合はまた来て頂ければすぐにお渡しできますのでご安心ください」


 この世界では銀行が無いので、基本的にはどこかの商会と契約をして貯金をするのが一般的らしい。ちょっとファンタジー世界に憧れを抱いてた僕としては残念なことに、手をかざしたら自動的にお金が貯まる不思議なカードみたいな物はなかった。

 

 「何から何までありがとうございます」

 「いえいえ、お二人には命を助けて貰ったんですからこのくらいはさせてください」


 僕とアイラが本当に得た、財産は硬貨じゃなくてクレイグさんとの出会いだけどね。


 「それと本日から一週間ですが、二軒の宿を取ってあります。私の名前で話は通してありますので、お好きな方をお選びください」


 クレイグさんに有難うございますと伝え、二枚の名刺を引き寄せる。

 片方は《テストキャッチ》。もう一枚は《ロンドロンド》。

 どちらも店名の下には簡易的な地図が描かれている。


 「本当だったら他にも無数に宿はあるのですが、来週末には《武装大会》があるので他国からの観光客が集まってきていて、その二軒しか予約が取れなかったのですが………」


 クレイグさんから貰った観光案内を主に記した本に書いてあったことを思い浮かべる。確か世界一を決める大会で、優勝すると生涯働くことなく暮らせるのだとか……。その為に開催国は国を挙げてお祭りムードを作るのだとか……。


 「………あれ? クレイグさん、もしかしてなんですけど………」

 「はい、なんでしょう?」

 「……僕たちどこかで家を借りるか買うかで悩んでいたんですけど……そういったお店ってやってます?」

 「今週中でしたらまだ……。ただ借家ならまだしも、買うとなると年単位で話を進めるものですからすぐには厳しいかと思いますよ」

 「そうですか………」


 今週中に借家を決めておかないと宿代が大変な事になりそうだね。


 「ねぇクレイグさん。この二つってどっちがオススメ??」


 悩む僕の横では、二枚の名刺と睨めっこしていたアイラが口を開いた。


 「………どちらも評判が悪い訳ではないのですが………」


 困った顔を浮かべて言葉が尻すぼみになるクレイグさんに、僕とアイラは首を傾けるのだった。





 


 


 


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る