守れたよ………
「ではこれからの住居はまだ決まっていないと?」
「えぇ、これからティーグに向かう途中だったので、住居も働き口もこれからなんですよ」
あれから盗賊を縛り上げ、女性の乗っていた馬車の中で話をしている。
なんでも「恩をそのままにする訳にはいきませんので」という事で、半ば強引にと言った感じだよ。ちなみにアイラとドラちゃんはクレイグさんを呼びに行ってもらってる。御者も逃げて引きボアも動けないから移動手段がないからねぇ。
「それでしたらこちらを」
名刺サイズの木の板を差し出してくる。
《クルス商会 オンディーヌ統括管理者 メアリー・クルス》
「水の国からわざわざ風の国まで来たんですかっ!?」
水の国オンディーヌは水に囲まれた島国で、他の国に行くより大変だってクレイグさんに聞いたことがある。商人って大変なんだな……。
「えぇ、今回は仕事ではなく私用ですが、私もティーグへと行きますのでその時にはまたお礼をさせて頂きます」
来なくて構わないですよ? だって胃がキリキリマーイマイしちゃうから。うん。ぜっんぜん大丈夫ですよ?
口には出来ない想いを抱えながら白金ツインテール女子へと愛想笑いを浮かべていると、外からバッサバサと音が聞こえてくる。
僕はその場から逃げたい一心で馬車の外へと降り立つ。
「お待たせ♪」
ゆっくりと空から舞い降りたドラちゃんの頭を一撫でしたアイラが僕へと駆け寄って来る。
「ありがとうアイラ。……それにしても、アイラってよく商談とかできるね」
まぁクレイグさんだからというのもあるだろうけど、それにしたって僕はその場の空気で胃が痛くなりそうだ。
「そぉ? ローグなんかもっと上手くやってそうだけど……」
「いやいや、僕がアイラより上手くやれることなんて狩りくらいだよ」
アイラが首を傾げ、僕は「本当だよ」と付け加えておく。
「ローグさん、お待たせいたしました。襲われたというご婦人はどちらに?」
ローグが後ろの馬車へと向きなおると、既に扉は開開け放たれていて、クルスさんが馬車から降り立っていた。
「この度は急な話になり、貴殿にも大変なご迷惑をおかけした。良ければこちらを」
クルスさんがクレイグさんへと名刺を渡すと、クレイグさんも慌てて名刺を取り出して渡す。
「クレイグ商会……、確かここ数年で急成長した商会でしたか。これはまこと良き縁に恵まれているらしい」
「…………黄金のセレスティアでしたか……。お初にお目にかかります」
やたらと仰々しく、片膝まで地面に着けたクレイグさん。
僕とアイラは目を合わせ首を傾げる。
「そう呼ばれている事は知っているが、今回は助けて貰う身。そんなに畏まらないで頂ければ幸いかと」
「そう言う訳にもいきません。私も商人の端くれですから」
クルスさんが呆れたのか諦めたのか、小さくため息を吐き出すも、クレイグさんは片膝をつけたままで。僕たちは───。
「じゃあ僕たちはこれで失礼します。クレイグさんもまた後でっ!」
逃げるが勝ち。
あんな仰々しい態度を取らなきゃいけない人なら余計に、だね。
僕の胃が悲鳴を上げちゃうから。
アイラの手を取り、逃げる様にドラちゃんの背に跨って急いで飛び立つように促す。キュアァァァッと鳴いたドラちゃんが空へと勢いよく飛び立つ。
守れたよ、僕の胃。
────僕はこの時の出会いを、運命だと思う日が………来るのかなぁ?
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