誰が想像できたの!?
「………とりあえず落ち着いた?」
僕を挟むアイラとクルスさんが手に持ったティーカップをそっとテーブルに置く。
「ずっと落ち着いてるよ?」
「そうよ。ずっと落ち着いてるわ」
涼し気な顔を浮かべる二人に視線を配りながら、僕の頭からは煙が出始めている。
クルスさんが流した涙が嘘だなんて到底思えないし、向こうの世界の名前も言っていた訳だから本当なんだろうけど………。
「じゃあクルスさん、いくつかいいかな?」
「そんな他人行儀な言い方じゃなくても………。まぁいいわ。なんでも聞いて」
失礼だとは思うけど、もう少し実感が出来るくらいには確認しなきゃね。
「僕が友里と出会ったのは何処だったかな?」
「二十歳の時に呼ばれた共通の友人の結婚式場よ。ロクとの出会いが無ければ思い出したくもない思い出ね」
正解っ。
「僕の故郷は?」
「G県ね」
これも正解っ。
「僕の何がいいの?」
「ふふふ、懐かしいわね。《素直に受け取りなさいっ!》でしょ?」
懐かしそうに微笑むクルスさんの目が弧を描く。
最後の質問は当時の僕と友里にとって大事なやり取りだった。
瞳も髪の色も違うけど、弧を描いた目が僕の記憶の中の友里と重なっていく。
「……なんで僕だって分かったのさ?」
「簡単よ、あなたのスピリットパスは金色でしょ? 体も引き締まっているし身長も少しは伸びてるみたいだけど、思ったよりも顔が変わってないわよ」
「まぁ顔は確かに……。それよりも、金色だと僕なの??」
「あら? ここに来るまでに神様から聞いてないの?」
………神様? ちょっと僕の前にカモーン。
友里の話だと、金色のスピリットパスは転生者の証のようなものらしい。助けられた時には見間違いかと思ったらしいけど、ここに来てクレイグさんに探りを入れて確信を得たそうだ。
「それにさっきも言ったけど、私が何年探したと思ってるのよ……」
「そう言えばなんでここにいるのさ? 神様とかってことはまさかとは思うけど……」
「えぇ、あなたが殺されたから、葬式に出席したあとに自殺したの」
おっもぉぉぉぉ!! 激重っす!!
これにはアイラも驚いたのか、手に口を当てながらも目を見開いている。
「ちょっ、ちょっと!? 僕は幸せになってねって言ったのに!? なんで自殺してるの!?」
「だってロクのいない世界なんて生きてる意味ないじゃない。それをあの神は………縛り上げてロクと同じ場所に転生させろって言ったのに全然違う場所に転生させるのよ? 次に会う機会があったらただじゃおかないわ」
昔から男勝りというか……引くことを知らないというか………。
「と、とりあえずっ! 一旦ここまでにしよ? ねっ?」
確認は取れたけど、今の僕じゃ動揺の方が強すぎて冷静に判断できる気がしない。友里には悪いけど、少し落ち着く時間が欲しい。
「先日来たばかりだものね。じゃあ最後にメアリーって耳元で囁いてくれれば今日の所は帰るわ」
────バンッ!
僕が口を開くよりも早く、アイラが目の前のテーブルに両手を叩きつける。
「はいっ! アイラちょっと待ってっ!!」
アイラが口を開くよりも僕は立ち上がる。
「友里、流石にこんなこと僕でも想像していなかったんだ。だからね? 今日はお互い出会えたことを喜んで終わり。それでいいかな?」
「……もう少し感動的な再会を想像していたのだけど、そうね。今日はこの位にしておきましょう。それと……アイラさん?」
友里がアイラに向かってキッと睨みを利かし、アイラはそれを涼し気に見据える。
「私はロクの為にこの世界まで来たの。譲る気はないわ」
それだけ言い放ち、きびつを返す友里の背を見ることしかできなかった。
僕はどうしたらいいのだろうか。
残されるのも、残して去るのも辛いことなんだって理解している。だから素直に友里の気持ちは嬉しい。嬉しいけど………。
「ローグ、あの人が言ってた人……なんだよね?」
「うん、昔の話が通じるし……あの涙を見ちゃうと嘘だとは思えないかな」
「「……………」」
いつぶりだろうか。アイラとの会話にほんの少しとはいえ、間ができる。
「ねぇ、ローグ」
「なに?」
「やっぱりまだ忘れられない?」
アイラが僕のことを見ることなく、俯いたまま消え入りそうな声で聞いてくる。
だから、僕はアイラを抱き寄せる。
「忘れるとかそういうのとは少し違うかな。僕がローグとして生きてきた横にずっといてくれたのはアイラ、君なんだ。友里のことはどう受け止めればいいのか分からないって言うのが本音で、アイラへの想いが揺らいだり変わったりした訳じゃないよ。僕は今でも君とずっと一緒にいたいと思ってる」
「………ローグ」
いつも僕をおちょくったり遊んでいるアイラが、今は目に涙を貯めて僕の胸の中から見上げていた。
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