必ず結婚します 5《完》
リアルスニーキングミッション。
前の世界だとゲーム内で一喜一憂したこのミッション。
そう考えてくると、未だに腰をフリフリとしながら「そろそろいいんじゃないかしらっ!?」なんて口走っている人がゾンビに見えてくる。
アイラとメアリーに視線を合わせ、三人が同時に息を飲みながら頷く。
ひっそりと気配を殺しながら、祭壇から壁際へと移動。そこからはゾンビの視界から逃れる為、乱雑に散らかった椅子を盾にするように頭を下げ、ゆっくりと出口へ向かう。
足元に転がる石の破片、砕けた椅子の破片。物音を立てない様にしっかりと確認しながら一歩ずつ前へ。
そして、椅子の群れが途切れるところまで進んだ僕たちは、もう一度ゾンビの様子を確認する。
「まだなのっ!? もう限界よっ!?」
腰を振る速度が限界突破している。すでに目をぎゅっと閉じたまま顔を左右に分身させ、涎が飛散している状況。
こんな残念な女性がいていいのだろうか?
そんな疑問が頭をよぎるけど、椅子の途切れたいま、進むなら早くした方がいいだろう。
アイラとメアリーに視線で合図を送り、僕たちは立ち上がって足音を立てない様に歩を進める。
ただ、ゾンビの存在感が強すぎて、僕たちは今の今まで忘れていた。
「はっ! メアリー様っ! ご褒美はもう終わりなのですかっ!?」
───ティンティン。
メアリーが屈服させたはずの筋肉達磨。
来ていた服の殆どが鞭で切り裂かれ、所々覗く肉塊にはみみず腫れを超えて血が滴っている。それなのに、なぜああも恍惚とした笑みを浮かべていられるのか。既に理解の範疇を超えた存在が二体も同時に存在している。
そんな戦慄が頭をよぎると同時に、荒ぶるゾンビが覚醒してしまう。
ゾンビはキッと目を見開くも、未だ白目のまま。ただ、その眼は確実に僕たちを捉えていた。
「じらし過ぎよっ!!!!!」
吐き出した言葉と同時に地面を蹴るゾンビ。それと同じく僕も地面を蹴り飛ばす。
舌打ちを打ったメアリーが二回目のご褒美をティンティンに与え始めたのが横目に見えたけど、そこは見なかった事にしておこうと思う。
駆け出した僕は、自身の中に産まれる続ける恐怖を抑え込み、唇を突き出しながら突進してくるゾンビを強く睨みつける。
直後、僕の視界に1つの箱が映る。
僕とゾンビがぶつかるであろう場所に無造作に置かれた箱。それはクレイグさんから貰ったお祝い兼、試作花火。
ゾンビよりもそれに辿り着くため、僕は更に体を低くして突進する。
伸ばした手が硬い木箱に触れる。それを片手で握りしめ、今も肉薄してくるゾンビの顔目掛けて投げつける。
「僕からリーザさんへのプレゼントですっ!受け取ってくれないと放置時間倍ですっ!!」
「───倍っ!?」
尖っていた唇を戻し、僕の投げた箱と僕とを交互に見て迷う素振りを見せたゾンビ。
そして、箱を両手で掴み取った瞬間、箱の影に隠れるように動いた僕は箱目掛けて拳を振るう。
箱が弾け中に入っていた大玉花火が姿を現す。
それを拳で押し込み、ゾンビの胸元に押し付けて潰すと同時に、僕は目をギュッと瞑る。
連続する爆発音が鳴り響き、閉じた瞼の先からも激しい光の奔流が分かる。
すぐに振り返り、瞼を開けると僕の影か明滅してアイラたちの方まで伸びている。アイラ達も眩しかったのか、腕を目の前に被せてその場から動けずにいるのが見えた。
すぐにアイラ達のそばまで駆け寄り、今も尚教会内を埋め尽くす光と音の本流の中、僕はアイラとメアリーを僕の腕に座るように乗せ、教会を脱出する為に走る。
窮地を抜け出すまで、僕が止まることはなかった。
────その日の夜。
あの後、何とか逃げ延びた僕達はドラちゃんの元まで走り続け、集落付近の森まで向かった。
後は教会の人に婚姻名簿を渡し、それでこの世界での結婚は成立。それは後日折を見て僕だけで行くつもりだけど、今は焚き火を囲みながら、即席の葉っぱと獣の皮で作ったコップモドキに採れたて果実のジュースを絞って今後について話し合っている。
「ほんと……夢もロマンもない結婚になったわね」
「しょうがないよ……。リーザさんがあんなに必死だったなんて思わなかったもん……」
あれを必死という一言で済ませていいのだろうか。病気や呪いと言っても信じてしまいそうだった今日の光景に、僕はもう一度身震いをした。
「それよりもローグ?」
メアリーが体育座りをした状態で首だけを僕に向ける。
「どうしたの?」
言いながら、搾りたてのジュースを口に運ぶ。何せ疲れた体に採れたてのジュースが染み渡るのです。
「あなた、いつから放置プレイと目隠しが好きになったの?」
「ゲホッ、ゲホッ」
飲んだ直後、僕はそれを気管から追い出すために涙目になりながらむせる。
ひとしきりむせた後、反論するために視線をメアリーに向けると、何故かいたずらっぽい笑みを浮かべて、四つん這いで僕に向かってきています。
「ド、ドレスが汚れちゃうよ?」
「まさかそういうのも好きなのかしら?」
分かってて言ってらっしゃいます。確実に。
助けを求めようとアイラに視線を向けるも、口に手を当ててキョロキョロと。もちろん頬は真っ赤に染まっています。
「旦那様の趣味は妻として把握しなきゃ……ね?」
「そ、そ、そうかな?じゃあ私も………」
………ああ、いくらロマン溢れる結婚を目指しても、僕は僕はなんだと、改めて理解した夜でした。
────翌日の昼間。
僕は再び精霊教会を訪れている。
昨日の騒ぎのせいで巡回する騎士団員が多く見られたけど、革で作られた帽子を深く被り、
服装にも気を使って目立たないようにした結果、気付かれていないようだった。
教会内も掃除をするシスター達があちらこちらに見えるけど、チラホラとお祈りする人も見受けられるし、祭壇にもしっかりと神父さんらしき人が立っている。
僕は辺りに注意しながら神父さんらしき人の元まで近づく。
「昨日、ここの近くでこれを見つけました」
そう言って差し出すのは、もちろん婚姻名簿。
「おぉ……、これはありがとうございます。先日から探していたのですが見当たらなかったもので。せっかく記念すべき日を記録したものですから、しっかりと処理をせねばと心を痛めていたところなのです」
「それなら良かったです。しっかりと刻んであげてください」
「えぇ、えぇ。これでまた精霊の加護の元、新しい家族が誕生するのです。しっかりと刻ませてもらいます。貴方にも精霊の加護かあらんことを……」
深く頭を下げる神父らしき人に僕も軽い会釈を返し、急ぎ早にアイラたちの待つ森へと向かう。
「ただいま~」
やり遂げた達成感と、ほんの少しの罪悪感を大きな溜め息で軽くして、アイラたちに自分の帰りを知らせる。
「どうだった?ちゃんと受け取ってくれたの?」
メアリーの声に僕は大きく頷く。そう、これで僕達は正式な夫婦、家族になったんだから。
ただ……。
「本当に良かったのかなぁ……」
「私達の結婚をめちゃくちゃにしたんだもの。この位は平気よ」
今まで苦労して、やっと結婚出来た事を考えると、どうしても躊躇いの方が大きい。
そんな僕の意図を汲み取ったのか?メアリーが続けざまに口を開く。
「大丈夫よ、離婚自体は夫婦の同意があればすぐにできるから。それにもしかしたらリーザも筋肉達磨の事が好きになるかもしれないじゃない?」
そう、あの婚姻名簿には僕達以外にも新しく刻まれた2つの名前がある。
【リーザ・ティムティン。ラムウェルド・ティムティン】
僕は空を見上げる。
知らぬ間に結婚している二人の幸せ願いながら。
────5章 完
これまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。無事に結婚出来ましたっ!
約一ヶ月半、毎日投稿にお付き合い頂き、誠にありがとうございました。
本来はもう少し投稿する予定だったのですが、違う作品を書きたくなったことと、キリが良かったこともあって完結させることにしました。
これからも、楽しんで書いていければいいなと思っていますので、どうぞ応援よろしくお願いいたします。
最後ではございますが、評価・意見・感想等、思ったままにして頂けると幸いです。
本当にありがとうございました。
転生先で結婚しようと思ったけど、なかなか上手くいきません。 ~僕もスペック崩壊起こしてる?~ Rn-Dr @Diva2486
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます