今日は二人だけで……
店内にある、お客さん用の円卓の片方に僕が座り、もう片方には俯いたままのアイラ。テーブルの上には拙いながらも、僕が準備しておいたハーブティーの入ったカップが二つ。メアリーはアイラを連れてくるなり「まだやらなきゃいけない事があるの」とアイラを残して立ち去った。
たった三日ぶりな訳だけど、初めて感じる緊張で僕の体はガチガチになっています。こんな重いピリピリとした空気、二人きりの時に感じるのは初めてだから。
「………ごめん……なさい」
重い口調で、口を開いたのはアイラ。
途切れ途切れのその言葉が、侍さんとの事を言っているのだとすぐに気付いた。
でも、それはもう僕の中で片付いた話で、それよりも聞かなきゃいけない事がある。
「大丈夫だよ、さっきお店にいる時に《私のローグ》って言ってくれたじゃん。僕はそれだけで充分だよ」
ほんと、あの時は人が一杯いるのにいきなりあんなこと言うから………思い出すと頬がポッポしちゃいます。
アイラもあの時の事を思い出したのか、顔を更に俯かせる。
「それより、僕はアイラの事がもっと知りたいな。正直に言っちゃうと、アイラとはずっと一緒に暮らしてたから全部知ってるんだって思ってた。でも、アイラに頬を叩かれて、まだまだアイラのこと知らないんだなぁ~って思ったから……」
未だに頬を叩かれた理由は分かっていないけど、あの時アイラが言った《ローグは私の気持ちっ、なんにも分かってないッ》に対しては簡単な話だと思う。
アイラのことを知った気になって、店が忙しくなって以前より会話が減っていたのにアイラが幸せならそれでいいって勝手に思って。
それは結局、全部僕の思い込みで、アイラの口から聞いたわけじゃない。その積み重ねが今回みたいなことに繋がったんだって、僕はそう思う。
「そんなことっ! ………そんなことないよぉ……」
バッと顔を上げるも、すぐにまた俯いてしまうアイラ。それでも、一瞬覗かせたアイラの目には涙が溜まっていて、僕は自分が座っていた椅子を持ってアイラの横へと移動する。
「……私だってローグのこと───ううん、
アイラからそっちの名前が出るとは予想していなかった。
僕は、あまり人の過去を知りたいと思ったことが無い。だってその記憶のどこにも僕はいないだろうし、過去の自分と今の自分が違う考えを持つように、相手もそうだと思っていたから。
「それは……まあ、そう……なのかな?」
「そうだよっ、だってローグがいた世界だと奥さんをいっぱい取るだなんて話、一度も聞いてなかったもんっ!」
………はいっ?
「もしかしなくても、メアリーから何か聞いた?」
「……うん。でも、教えてもらってローグのこと何も知らないんだって……私も思ってた。だからもっと教えて? ローグのこと、何でもいいから」
僕にすがる様に、胸元の服を両手で掴んで見上げてくるアイラ。僕はアイラの背に手を回して抱き寄せる。
「……うん、じゃあこれからもっと知っていこうよ。だからアイラも何か気になる事があったら教えて? 僕もちゃんと答えるから」
「うん……、うんッ!」
アイラの手が胸元から僕の背に滑るように移動する。
久しぶりに感じたアイラの体温と柔らかさは心地よくて、放したくない。
そんな風に思っていると、胸元でアイラが動くのが分かった。
「どうした───」
どうしたの? と聞こうと思っていたけど、目の前でアイラが目を閉じていて、顔は僕へと向いている。頬はほのかにピンクに染まっていて……。
いつもの僕をからかって遊んでいる風………じゃないよね。
何度目だろうか?
少なくても、僕からアイラにキスをするのは初めてな気がする。
僕は触れる程度に唇を合わせ、アイラの柔らかな感触と熱に未練を残しながらも理性が働いている内に唇を離す。
…………我慢……出来ない気がするのだけれど………。
「アイラ……」
「ローグ……」
僕は今、どんな顔でアイラを見てるのだろうか?
「今日は……メアリーさん、来ない……よね?」
「………鍵、閉めておこうか」
理性は勝てないかもしれません。
僕は店の入り口のカギを閉めて回り、座っているアイラを横抱きにして自室へと向かう。
メアリーがアイラに何を言ったのかは後々聞くとして、これからの時間は僕とアイラだけの時間。
あっ、この世界って避妊具ないんだっけ?
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* 作者より皆様にお願いがあります。
赤ちゃん作る時は計画的にねっ!
次回、後日談を挟んで次章へと向かいますので、よろしくお願いします。
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