後日談 ちょっといいかな?
アイラとの仲直りが済んだ数日後。
僕はロンドロンドへと向かった。
目的は宿泊などではなく、もちろんグールに会う為。
僕はアイラの気持ちを知ったと言うだけで、グールの話を何も聞いていないから。
一度グースともちゃんと話をしておこうと思って探してみたけど、結局分からなくて、メアリーに聞いてみれば「あぁ、彼なら前働いていた宿で腕を振るっているみたいよ?」と、なんでもない様に言った。メアリーの事だから事前に調べていたのかもしれないね。
ロンドロンドのカウンターでグールを呼んでもらい、僕は料理を提供するスペースにある椅子へと腰を落とす。
………何から話せばいいかな。
普通に話が出来ればいいんだけど、いきなり「アイラさんを下さい」とか言われたらどうしよう。譲るつもりは一切ないけれど、僕が冷静でいられなくなっちゃう気がする。
そんな僕のもとに、革靴が床板を叩く音が近付いて来る。
僕はその音のする方へ、動揺を隠しながら視線を送る。
「お久しぶりです。ローグさん」
僕をしっかりと見据えた鋭く上がった目。喧嘩腰とかではないと思うけど、覚悟を決めてると言うか自信に満ち溢れているというか……そんな目だね。
「グールさん、今日僕が来た理由は分かるよね?」
「ええ、アイラさんのことですね?」
軽い会釈のあと、反対側の椅子に腰を落とすグースさん。
背筋はピンッと伸び、胸を張っている。まさに威風堂々と言った感じ。
いやいやグールさん、人の奥さん寝取ろうとしたの分かってる?
ちょっとボルテージが沸々と上がっているのを深呼吸で抑えてから口を開く。
「まずは理由を聞いていいかな?」
「分かりました。その代わり、少し失礼な事を言うかもしれませんがよろしいですか?」
「うん、嘘とか変な気遣いはいらないから、素直に聞かせてくれると嬉しいね」
ここで変な気遣いとかあからさま嘘でもつかれたら話しに来た意味がないからね。自分の感情は切り離して考えなきゃ。
「まず、私はアイラさんが好きです。愛しています。一人の男としてアイラさんを幸せにできるのは自分だけだと考えています」
おおおおおぉぉぉぉぉぉー。言い切ったねぇ。
ナニコレ? 僕ではアイラを幸せに出来ないと? 喧嘩かな? 喧嘩売ってるんだよね? コレ?
ひーふー、ひーふー。
落ち着け落ち着け。何でそう考えてるのか聞かなきゃ意味ないからね、僕。しっかりしろっ。
「………な、なんでそう思ったのか聞いてもいいかな?」
「ローグさんは仕事とはいえ、アイラさんの傍にいないではないですか。それに、未だに結婚もされていないとか」
………間違っていないよ。言ってることは間違っていない。
だから僕たちはお互いをもっと知ろうって話になった訳で。
「そうだね。それは僕もずっと感じてたよ。でも───」
言葉を続けようと思ったけど、グールさんが頬を緩めたのを見て言葉が詰まる。そのすぐ後、グールさんは自分の手で自分の唇をそっと撫でた。
「そうです。だから仕事もずっと傍で見守ってあげられる自分の方が、アイラさんを幸せにできると思います。それに、彼女も私の気持ちに応えてくれました」
………あっ?
この目の前の男は何を仰っているんでしょうか??
「それはどういう事かな?」
「ローグさんは突然の事だったので気付いていないかもしれませんが、確かに最初は私から唇を奪いました。でも、その後に唇を押し付けてきたのはアイラさんです。それに、本当にアイラさんの幸せを願うなら、ローグさんよりも私が傍にいるべきだと思います」
「うん、思わないね」
即答で応えた僕を見て、「はぁ?」と言いながらいつもの堅苦しい顔を崩す。
ちゃんと話し合いが出来れば、なんて考えていた自分が甘いですよね。グースもアイラが好きで、譲りたくないのだけは伝わってきたよ。
だからと言って、譲るとでも思ったのかな?
「グールの言いたいことは分かったよ。でもね、僕は昨日アイラと話をしたけど、そんな話は出てこなかったね」
「それは言いづらいのでしょう。長年連れ添った相手でしょうし、私の知らない苦労などもされたのだと思います。それでも今は違います」
「違くないね。妻の言う事を信じない夫がどこにいるんだい? 思い込みでアイラを傷付けるのなら、僕は放って置く訳にはいかないよ?」
グールの目が見開いて喉が鳴る音が僕の耳まで届く。
「僕はアイラの望む事なら何でもしてあげたい。でも、アイラを傷付ける物があるなら、例えそれが僕だって許せない。僕が言いたいのはそれだけだよ」
話はこれで終わりだね。
恋愛は盲目なんて言うけど、僕も少し大人げなかったかなぁ。
若干体を引いたグールが額から一筋の汗を流して僕を見てくるけど、僕はそれを去り言葉にロンドロンドを後にした。
───3章 完
これまで読んで頂き、ありがとうございます。
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次章は短めですが、メアリーさん中心の話になっていきます。
ぜひお楽しみください。
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