転生先で結婚しようと思ったけど、なかなか上手くいきません。 ~僕もスペック崩壊起こしてる?~

Rn-Dr

第一章 かる~くいこうよ。

プロローグ 1


 世の中とは、なぜこうも理不尽なんだろうか?


 そんな考えを持ったのは産まれて初めてだった。いや、僕だって世界に理不尽が溢れているのは知っているよ?


 それでも、僕の暮らしている日本は世界的に見ても平和な方だったよね??


 「ロクっ!! ねぇロクっ!! しっかりしてよ!!」


 と、いつもならフワフワとしているショートボブの赤い髪を、今は汗でベタベタにして叫びながら僕を揺らす女性────来栖 友里くるす ゆり。僕の大事な女性で、あと半年もすれば結婚したいたはずの女性。


 彼女の魅力を伝えようとするなら、なかなかに時間が足りないけど、冷淡さを感じさせる時もある切れ長の目が弧を描いたときなんか、僕の心臓が止まるんじゃないかと思ったこともあるよ。僕の住んでいる六畳しかないオンボロアパートではどう見ても不釣り合いだ。


 そして彼女が呼んだロクっていうのは三栗谷みくりや ろく。つまり僕のこと。月の様な魅力をもつ彼女と比べればだいぶ霞んで見えてしまうけど、一応は普通中の普通というのが僕の売りではあるかな?


 とりあえずそんな与太話は置いておこうか。


 僕が何でこんな風に体を揺すぶられながら叫ばれているかと言うと、友里との自宅デート中に予定の無いお客さんがいらしてね、「金を出せっ!」なんて言いながら牛刀を振り回し始めたんだ。


 そのガタイのいいお客さんは、男の僕より女性の友里であれば人質として使えると思ったんだろうね。友里に向かって真っ先に駆け出すものだから慌てて前に飛び出たら運悪く胸にぐさり。必死だったからかな? 刺された時よりも今の方が痛いかも。


 そんな理不尽な中でも、僕を刺した男が動揺して去ってくれたのは不幸中の幸いだったね。だって僕の大好きな友里はこんな大きな声を出す程に元気があるじゃないか。


 っと、だから与太話は置いておいてっと。


 僕は彼女に言わなきゃいけない。


 ほら、心臓の音が小さくなっているし、さっきから友里の顔がぼやけて見えるよ。まるで昔よく遊んだ福笑いで見た様な顔になっちゃてるじゃないか。


 「友里、たぶん……無理みたい。………だからいいかな?」


 僕はそう言って、右手を友里の頬を撫でるように滑らせる。あったかくってぷにっっとしていて………。友里に言っていない僕の大好きな場所。


 「いやよ……」


 友里は今にも消え入りそうな声と一緒に僕の手を両手で包み込んだ。頬から伝わる熱と覆いかぶさる手の熱とで僕の手は幸せの真っただ中。………あっ、でも、僕の頬を濡らした温かいこれは………。


 「今までありがとう。僕は友里と傍にいられただけでこれ以上にない幸せだったよ。ちょっと……幸せ過ぎたのかもしれないね。………だから友里、絶対に幸せになって……ね…………」


 声もかすれてきて、僕が言いたかったことの2割にも満たない想いしか口に出来なかったけど、伝わってくれただろうか?


 「………ぇッ! ………クッ! ……ロ…………ねぇっ!!」


 もう友里が何言ってるかほとんど分からないよ。


 ………じゃあ………おやすみなさい。


 友里の人生に幸多からんことを。それと、24年間僕のことを支えてくれた人、傍にいてくれた人。本当にありがとう。


 心の中で何度もそう繰り返しながら、僕は閉じかけている瞼に抵抗することなく目を閉じた。




◇◆◇◆◇



 「えっと……僕は死んだはずだよね?」


 辺りを見渡す。月並みだけど、一応ほっぺもつねってみる。

 七色の粒が流れ星の様に空を流れ、見渡す限り草原が埋め尽くす場所。

 僕は気付けばそんな場所に一人で佇んでいた。


 「久しぶりの客人じゃないかぁ~。君は………うんうん」


 どこからともなく聞こえた声に辺りを見渡して見るけれど、周りには誰もいない。


 「ど、どちらさまですか?」

 「あー、そういえば君は僕の事が見えないんだったね」


 空を流れていた粒が僕の前に集まりだす。それはぼんやりとだけど子供の形を創った。


 「これで大丈夫だよね。じゃあ本題に入ろうじゃないか。君は普通の人達よりも心残りが強いようだね?」

 「……まぁ……そうでしょうね」


 頭に浮かぶのは最後に見た友里の顔。

 絶対に幸せになってね、なんて言ったけど、できるなら自分の手で幸せにしたかったし、それを分かち合いたかった。


 でも、やっぱり好きな人には笑っていて欲しいし、何よりも僕の場合は金銭的な余裕も時間的な余裕も持っていなかった。あの日も残業を何とかやりくりして作った時間だった。


 友里はそれでも構わないと言ってくれるのだろうけど……。


 「そうだろうとも。じゃぁもっかい人生歩んどく?」

 「もしかして………異世界転生パターンですか?」


 今までの人生で中二病を患わない者などいるだろうか。そして一度は絶対に願っちゃうよね。


 「まぁそんなところだね。その代わり、一つだけ条件があるんだよ」

 「条件??」

 「君は次に送る人生で心残りだけは残さないこと。それだけさ」


 それって結構難しくないだろうか?


 「その条件は守れそうにないんですけど」

 「えっ!? なんで!? どうして!?」

 「だって僕の心残りは友里と一緒に居られなくなったことが一番の原因でしょうし………」

 「友里って好きな人とかだったのかなっ!? じゃぁ全く問題ないってっ!! あっちだって女の人いっぱいいるし、なんなら人族じゃなくて獣人とかもいちゃうしよりどりみどりだからっ! ねっ! 行きたくなっちゃったでしょっ!? お願い行くって言って!!!」


 子供の形をした七色の塊が、見事な土下座を披露している。必死過ぎやしませんか? 


 なんだろ、転生かもって聞いて心躍ってたんだけどな……。こういうの見ちゃうとちょっと心配になりません?


 「拒否権は?」

 「無理だし無しだしありえないっ!!」


 今までのやり取りは一体何だったのだろうか。結局のところ、僕には選択肢なんてないんじゃないか。


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