やっぱり異世界も権力でしたっ


 三人の時間が止まっています。


 パンはアイラが作った物じゃないけど、中身は全部食べ慣れた味で作られていた。さすがにアイラは自分が作った物だし、僕だって十年以上食べてきた味だから間違えるはずがない。


 友里がバッとカウンターから身を乗り出してアイラの手を掴む。


 「今すぐ私と契約しましょっ!!」


 口から涎が出てるように見えますよ、黄金のセレスティアさん。


 この世界で商人をしていて、前の世界でもバリバリ仕事をしていた友里だからしょうがないのかもしれないけど、始めて見る友里の顔に若干引いています。僕。


 「えぇ……クレイグさんとも契約してるし……」

 「分かりましたっ! じゃあ一緒に行って契約内容を確認しに行きましょうっ!」


 アイラの掴んだ手をそのままにカウンターを飛び越えた友里がアイラを連れて店を出ていく。


 「………もったいないから食べてから行こ」


 置いて行かれたのにいじけてるわけじゃないよ? もったいないもん。



 残っていたサウザンドバーガーを胃袋にしまい込んでアイラたちと合流すると、すでに商談室で椅子に腰を掛けていたクレイグさん、アイラ、友里の三人がいた。


 いたのだけど、この店のオーナーであるはずのクレイグさんが頭を抱え、友里が圧という圧を体から放っている所だった。蛇が友里、カエルがクレイグさんだ。

 二人の世界を構築している横でオロオロとしているアイラに手招きをする。………オロオロアイラは心に焼き付けておこう。


 「で、どうなってるの?」

 「細かい話は分かんないんだけど……二人で ” きょうどうけいえい? ” をしないかって話みたい」

 「共同経営って……、僕たち完全に置いてけぼりだね……。それにしても、クレイグさんのあの様子は?」

 「えぇっと………」


 モジモジアイラさん頂きました。


 ……じゃなくて。


 なにをどう説明していいのか分からないと言った様子のアイラと、この現状をどう受け取っていいか分からない僕。


 「ではこの内容で。希望は既に伺っていますのでベースはこちらで進ませて頂きます」

 「は、はぁ……」


 こんなにも頼りなく見えるクレイグさんを見るのも初めてだけど、商会同士の会談というよりは上司と部下と言った方が近いんじゃないだろうか?


 友里が去り際にアイラの手をもう一度握りしめ、さっさと部屋を出ていく。僕はその背中が見えなくなと、クレイグさんへと視線を移す。


 「どうなったんですか?」

 「はぁ……とりあえずこちらにお掛けください」 


 僕たちを椅子に座る様に促したクレイグさん。

 僕とアイラが椅子に腰を掛けると近くを通りかかった従業員に飲み物を用意するように頼んでから「まずは……」と口を開く。


 「お二人がご希望していた家に関してですが、クルスさんがご用意するそうです」

 「「………えっ!?」」


 あれ? さっきまで建てられないと言っていたはずでは?


 「驚かれるのも無理はないですよね……。こういった申し出が来ても、いつもなら躱せるのですが……流石に相手がクルス商会となると私では………」


 テーブルの上で組んだ両手におでこを乗せて溜息を吐き出すクレイグさん。その仕草で表情は見えないけれど、どうみても落ち込んでいると言った感じだ。


 「クレイグさん、その前に一ついいですか?」

 「えぇ、なんなりと」

 「あの森の付近は家を建てられないって言われたばかりなんですが……」

 「あぁ、それですか。確かにそこら辺の商会では無理でしょう。許可が出たとしても三年から五年はかかるでしょうし」

 「じゃあなんで??」

 「それもクルス商会だから………というよりは、黄金のセレスティアだからと言うのが適切かもしれません」


 友里と出会った時もそうだったけど、クルス商会となるとクレイグさんの腰が一段と下がるのはなんでだろ?


 そんな僕の疑問をよそに、クレイグさんがポケットから一枚の虹色硬貨をテーブルに置く。


 「お二人もなじみ深くなってきたと思いますが、この世界の通貨です」

 「はい。それだと1万クルスですよね?」

 「そうです。少し前にお話しした《神童》の話を覚えていますか?」

 「有名な商人だってことくらいは聞きましたけど………」

 「具体的な功績で言いますと、硬貨の仕組みを構築されたのが三歳、現在の物流の流れと運搬手段を確立されたのが五歳、そこからは各商会での運営までですね。細かいことを上げればきりがない程です」

 「まさか………それを?」

 「そうです。それが黄金・・きらめきセレスティアなんて名を頂いた理由ですよ」


 確かに前に世界でもキャリアウーマンと言った感じだったけど………。転生後の知識無双……みたいな感じだったのかなぁ?

 どっちにしても、そんな人から依頼が入れば無下にはできない………のかな。


 「そこまでの功績があれば王国としても放って置くなんて愚は冒しませんからね、確か今でも精霊国の国王、デウス王の一人娘とも懇意にされているはずです」


 精霊国はこの世界、ユースティティアの中心に位置する国で、世界でただ一人の王が在籍する国だったはず………はず。


 「それって、実質クルスさんに何か言われれば命令と一緒なんじゃ……」

 「さすがにそんな理不尽なことはしないと思いますが………、一人娘を溺愛していると噂の王であれば、娘に頼まれればどうにでもするでしょうね」


 転生も拒否権無しなら、お店を開くのも拒否権無しとな?

 僕はドMじゃないんだぞっ!!


 てか結婚してる余裕あるっ!? 僕とアイラのベイビーは!?




 

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