おやおやまあまあ


 しこたまアイラに怒られたあと、やっと僕の話を聞いてくれるようになったアイラにスピリットパスのことを聞いてみた。


 「ローグってまだ開いてなかったの?」


 アイラの体から水色のやんわりとしたオーラみたいなものが体から溢れ始める。


 「スピリットパスは使える人が精霊を流してあげないと開かないよ?」


 大抵は両親が子共の体に精霊を流して開通させるんだとか……。アイラは女の子だから家の手伝いをするために早めにお母さんから流してもらったんだって。


 聞けば、僕の帰りが遅くて心配になったアイラが単身で森の中を探して僕と獲物をスピリットパスで体を強化して運んできてくれたらしい。


 僕の考えは何も的に当たっていなかったことがよーく分かったね。それよりもアイラが知っているんだったらもっと早く聞けばよかったよ。どうして何も疑問に思わなかったの僕は………。


 とまぁ、新たに刻んだ僕の無能さはどこかにポイっと捨てておいて、アイラから精霊を流してもらうことにした。


 僕は足だけを降ろしてベッドに座る形でアイラと向かい合う。

 両手の掌を上に向け、アイラが僕の手を優しく握る。


 「おぉ………」

 「分かる?」

 「うん、分かる分かる」


 アイラの手から何かが流れ込んでくる感覚、それが僕の体の隅々まで行き渡っていく。例えるなら、真夏に熱中症手前まで動いた後にキンキンに冷えた水を飲んだような安心感というか爽快感というか……そんな感覚だ。


 僕のたとえが上手くないのは気にしないでね。


 「それにしても…ローグの光って綺麗だねっ」

 「そう………なのかな?」

 「うんっ、金色の光って初めて見たよっ」

 「そうなんだ……。でも、アイラの水色も癒されるよね」

 「そう……かな?」

 「うん、僕は始めて見たけど………とても綺麗だと思う」


 アイラの髪よりも薄く、そして淡く包み込む光景。これで水の上を踊りながら悪戯っぽい笑みでも浮かべていたなら、本当の精霊だと言われても勘違いしてしまいそうだ。


 「……ありがと」

 「どういたしまして」



 アイラが去って行くのを見て、僕も早く体を治さなきゃいけないって強く思う。


 それから体から痛みが抜けるまでの数日間、僕は必死でスピリットパスに精霊を流し続けた。

 正直に言っちゃうと《精霊を流す》って表現があまりピンとこないけど、とりあえずはアイラのおかげで苦労すること無く体を光らせることが出来るようになった。


 アイラの話ではスピリットパスは筋肉と同じようなもので、繰り返し使用する事で成長するらしい。成長するとどうなるのかは容量を得なかったけど、アイラも両親から日ごろからスピリットパスを使う様には言われていたらしい。


 それを聞いてから、僕は二十四時間スピリットパスを使う様にしている。昔読んだ漫画で似た様なことかいてあったのを思い出したからっていうのが発端なんだけどね。

 ちなみに、スピリットパスは周りの大気を感じ取って体に取り入れる様な感覚だったよ。


 ………それにしても、なんで開通していない僕のスピリットパスが一瞬とはいえ光ったんだろうね??


 僕は数日ぶりの狩りに直刀二本を握りしめて近くの森まで来ている。


 転生前だったら自宅練習みたいな感じで鍛えたかったけど、食料のことを考えればそんな悠長なことは言ってられない。


 実践あるのみっ!


 刀を握りしめる手に力を籠め、僕は立ち尽くす。


 ────そして十時間が経過。


 「………あれ? 何で寄ってこないんだろう?」


 朝早くから森の中で立ち尽くした結果、僕はただ立っているだけで夜を迎えた。………足の裏痛い。


 こんな日もあるよね。また明日頑張ろう。

 そう考えて自宅へと向かう。


 「………あれ? 僕んちこんなんだっけ??」


 外観は何も変わってなどいない。けれど、家の周りを畑が囲んでいるんですけど。

 もちろん、朝家を出る時は何も無かったはず。


 「あっ、ローグっ! おかえりなさ~い」


 家の裏手からひょこっと現れたアイラがニコッとしながら手を頭の上で大きく振っている。見てて気持ちが良い笑顔だけど、この畑たちと何か関係があるのだろうか?


 「ただいま。それよりもこれはどうしたの?」

 「これ? あー畑のこと?」

 「そうそう。朝家を出た時は無かったと思ったんだけど………」

 「うんっ、だってローグを見送った後に作ったからね♪」


 はて? 集落の人間は他人の家まで手伝ったりはしないはずでは?


 「誰が作ってくれたの? お礼言わなきゃだよね」

 「えっ? これ私が作ったんだよ?」

 「………ん? アイラ一人で?」


 僕たちが住んでいる家は父さんたちが残してくれたもので、家族で暮らしているから土地面積で言えば三十坪くらいだろう。それを囲む様に作られた畑。


 それを一人で? アイラが? しかも一日で?


 「うんっ! もっと時間が掛かるかなって思ったけど、けっこう簡単だったよ」

 「………すごいね」


 僕は地面をつま先で突いてみる。すると、コンコンっと、どちらかと言えば固い土の感触が靴から伝わって来る。


 今僕が感じてることを一言で言うのなら、【奥さんよりも給料が少ない旦那の気分】と言えば伝わるだろうか?


 僕自身は結婚直前に殺されちゃったから何と言えないけど、友里も僕より収入面では格差をつけていたから、あのまま結婚していたらこのプレッシャーが押し寄せてきてたわけだね。


 結果だよっ、世の中結果を出さなきゃ生き残れないよっ!!


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