準備は整った!
「ローグさん、お待ちしていました」
「お久しぶりです。例のものは?」
「もちろんですよ」
僕とクレイグさんの間にあるのは2つの大きな箱。その箱に視線を落としながら、お互いがニヤリとイヤらしい笑みを浮かべる。
知らない人が見たら気持ち悪く思うかもしれないけど、今日ばかりは許して欲しい。
「こんな衣装は私共見たことがありませんから苦労しましたよ?」
「それよりも。サイズは本当に大丈夫なんですか?」
クレイグさんに依頼した時、二人の服のサイズを伝えていない。前の世界でもよくある事だけど、服に使う素材やら加工の仕方で多少サイズが前後することがある。そして、それはこの世界でも同じ。
アイラとメアリーとは一緒に暮らしているのだから服のサイズを計ればいいのだけど、男の僕は女性の服に関しての知識があまりに少なくて、胸元周りに関してはどうやって測ればいいか分からなかった。
そんな僕に、クレイグさんは「それに関しては大丈夫です」と言い切ったのでお願いすることにしたのだけど、流石に安価な買い物ではないから不安はぬぐえない。
「ローグさん、私くらいになると触らなくても見ただけで分かってしますのですよ。何年ビーストパークの女の子に服をプレゼントしたと思っているのですかっ!?」
若干、本当に若干だけど、クレイグさんって見た目に反してただのスケベ親父なのではないのだろうかと、疑ってしまいたくなる。
「そ、それよりも中を確認してもいいですかっ?」
こういう時は話を逸らすに限ります。
興奮が止まらないまま「早く開けちゃってください」というクレイグさんの言葉に急かされながらも、ゆっくりと箱を開けていく。
「お、おぉぉぉお………」
僕が空けた箱はアイラの結婚式用のドレスが入った箱。
ウェディングドレスって言いたいけど、どちらかと言えばナイトドレスにフリルを付けた様なイメージで、肩から足元にかけて白から青にグラデーション。
次に隣の箱を空ける。
これはメアリーの。
深紅のドレスで二人共オフショルダー。ただ、メアリーのは肩回りは花をイメージして布を織り込んで縫ってもらっているから、アイラのよりもボリュームがある。
「どうですどうです? これならあの二人も大喜び間違いなしですよっ!」
「焦っちゃ~だめですよクレイグさんっ。それと、もう一つの物はっ?」
眼鏡をくいっと上げてニヤリとしたクレイグさんが「少々お待ちを……」と部屋を後にして、戻ってきた時には片手に納まる位の小さな箱を二つ、それを僕の前に置いた。
「ローグさんの言っていた通りの形に精霊石を加工させて頂きましたよ」
ぁ手に持った箱を開けると、虹色に光るローズカット状の石がはめ込まれた指輪。それと全く同じものがもう一つの箱に入っている。もちろん、サイズはクレイグさん自慢の眼力で。
「それとローグさん、これは私からのお祝いです」
指輪に見とれている僕に、どこから持ってきたのか両手で頭より少し大きい箱を持ってきた。
「なんです? それ?」
「いや~、以前ローグさんとお話している時に聞いた ” 花火 ” というものを作ってみたんですよ。これからの商売になるかもしれないと思って。一応、試作品は何度か上げて問題なかったのでよろしければ使ってください」
なんだかんだで、クレイグさんとは飲み仲間である僕。いつ花火の話なんかしたのか覚えてはいないけど、箱から目が離せなくなる。
「い、いいんですかっ!?」
この世界に来てから花火なんてものは一度も見たことが無い。前の世界だって花火を見るとすればボロアパートから見る位で、高層ビルや他のアパートから申し訳なさそうに顔を出す小さな花火だった。
これがテンションを上げずにいられるだろうかっ?
「いいんですよ。アイラさんにローグさん、それに
「ありがとうございますっ! 楽しませてもらいますっ!」
「いいえ、それと結婚当日はしっかりと務めさせてもらいますので安心してください」
「本当になにからなにまで……」
僕は歪んだ視界を隠す様に深く頭を下げ、箱を持ってアズールセレスティアへと足を向けた。
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