いつ行く?
「ちょっと渡したい物があるんだけど……」
アズールセレスティアの店内。夕飯を食べ終わって一息ついた所で、僕はアイラとメアリーに声を掛けると二人共首を傾けて僕を見る。
すぐに持ってくると伝え、僕は自室に二つの箱を取りに向かう。
階段を上る足がまるで自分の足とは思えない。まるで棒でも動かしている様な感じがする。
二人共、僕の事を好きだと言ってくれてるし、アイラに限っては集落にいる時から将来を誓っている。あとはドレスと指輪を渡して「結婚しよう」、「うん」で終わるはずなのに、なんで僕はこんなにも緊張しているのかな?
僕は棒になった足のまま、二人の前まで戻ると、テーブルの上に二つの箱を置く。
「えっと……開けてもらってもいいかな?」
たどたどしかったかもしれない。それでもちゃんと言葉に出来た。
アイラとメアリーは不思議そうに箱を開けると、その場で目をまるくした。
「今まで待たせてごめん」
僕は頭を深く下げる。
待たせてごめんと言う気持ちも本物だけど、それと同時に心を押し上げてくる恐怖が声に滲む。やっぱり怖い物は怖い。
僕は自分に自信を持ったことがない……と思う。
前の世界でもそうだけど、外見も中身もパッとしない。それなのに、僕が今一緒に暮らしている二人はタイプは違うけれど才色兼備。
アイラは可愛らしさと母性が溢れる女性。サラサラの青い髪も笑顔も怒った顔も我儘を言った顔も全部が愛おしい。それに僕をずっと小さい頃から支えてくれて、転生したって知った今も変わらずに僕の事を想ってくれる。
………最近はメアリーのおかげでちょっとだけ新しい世界にも足を踏み入れそうな気はするけど、愛している。
メアリーは線の細い体つきとキリっとした目が美しい女性。
自分の努力なんて気にしないで、いつも僕の未来を気にしてしっかりと怒ってくれる。そして、いつも僕の横にいてくれる。
愛は与えるもので、リターンを求めないもの。そんな言葉がふと頭をよぎる。
僕は2人に対して何を与えられているのだろうか。
守ってあげたいって思っていても、足りない僕の頭じゃいつも気を使わせてばかりな気がする。
僕は頭を上げて二人に視線を向ける。
「今まで僕が二人の為に何かしてあげられたのか分からないけど、僕はアイラとメアリーとずっと一緒にいたい。僕が我儘を言っているのは分かってるんだよ? それでも……っ、それでも二人が良ければ、これからもずっと傍にいて欲しい」
何とか自分の気持ちを口に出来た……けど、これは恰好悪いのでは?
僕を見たままフリーズしている二人を見ると、そんな不安が胸をかき乱す。なんでもっと男らしく「僕が幸せにするから黙ってついてこい」的な言葉の一つも出てこないのか。
まあ、そんなこと言ったら僕じゃない気もするけど、大事な時くらい見栄を
もはりたくなってしまうのが男の子。それも愛しい二人を前にしてるのだから今日くらいは許してください、そして「うん」と言ってください。
そんな僕の心中を無視するかの様に、アイラとメアリーは首だけで視線を合わせてクスリと笑った。
「何を言ってるのよ。ローグは私に色々な物をくれたでしょ? それに前の世界で貴方に助けられてなかったら今の私は居ないの。それにこの世界でも私から逃げようと思えば逃げられたのに、逃げなかったでしょ?」
「そうだよねぇ~、メアリーさんに襲われて逃げないんだもん。今のローグなら逃げられたはずなのに~。───そ・れ・に、私はもう言う必要ないと思うんだけどぉ?」
「メアリー……、アイラ……」
僕の顔を見上げる様に体を前のめりにしたアイラと、いつものキリっとした目が弧を描いているメアリー。
最初はメアリーが言うような理由じゃなくて、ただ拒否しようとしても体が動かなかったって言うのが正しい。やっぱり死んでまで追いかけてくる友里の気持ちを跳ねのける理由が僕には思いつかなかったから。優柔不断……だっただけなのに、やっぱり大切で。
そんな僕を受け入れてくれたアイラも。
二人は僕にとっての人生なんだって本気で思える存在になっている。
「ローグっ、実は私達も用意してるんだぁ~♪」
「えっ?」
アイラがキッチンへと向かい、戻って来るとその手には中くらいの手提げバックを持っていて、僕の前で両手でもったそのバックを「はいっ♪」と言いながら差しだしてくる。
「ありが……とう?」
受け取ったバックの中に入っていたのは、真っ黒な革で作られたスラックスとダブルのスーツベスト。これだって僕の買ったドレスと同様でオーダーメイドだと思う。だってこの世界にスーツなんてものはないんだから。
「メアリーさんが《ローグは絶対に自分のことを忘れているから作りましょう》って教えてくれたんだよ♪」
「それと、アイラさんがローグになる前のロクと会いたかったって言うから、私達がいた世界の服をベースにしたの」
「メ、メアリーさんっ! それは言っちゃダメだってっ!」
顔を真っ赤にしてメアリーの肩をポカポカと叩くアイラ。それを嬉しそうに見ているメアリーと、僕。
幸せって、こういうのを言うんだろうね。
「それで、いつ精霊教会に行くのかしら?」
アイラを嗜めながら僕へと視線を向けたメアリー。
いつ行く? そんなの決まってるじゃないかっ!!
「明日でしょっ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます