第41話 お義父さん?

とある平日の昼休み。

外は雨が降っている。

台風が近づいてるとかニュースで言ってたな。


「う~疲れた・・・」


ここ数日はデスクワークが多かったこともあり腰が痛い。

気圧の影響とかもあるのかな。


でも頑張ったおかげで予定より早く進行しているから、来週はどこかで休みが取れるかも。最近忙しくて中々有休もとれなかったんだよね。


「小春、そろそろ昼飯に・・・って電話中か」


会議宅で資料のチェックをしていた小春に声を掛けようとしたけどスマホで誰かと電話をしているところだった。

会社で私用電話とか珍しいな。

と、電話を終えた小春が話しかけてきた。


「開成君。ごめん。今日の午後の取材なんだけど一人でお願いできるかな」

「ん?構わないけど、どうかしたのか?」


小春って遅刻とか早退って滅多にしないのに珍しい。

今の電話の絡みかな?


「うん。お父さんが職場で倒れて入院したってお母さんから電話があって・・・・早退して病院行ってこようかと」

「え!お父さんが?大変じゃないか。大丈夫なのか?」

「うん。詳しくは聞けてないけど命には別状ないって。

 多分お母さんが大げさに騒いでるだけだとは思うんだけど・・・」

「そんなのわからないだろ?早く行ってあげた方がいいよ」

「え?う うん。じゃぁ後の事よろしくね」


そう言って小春は編集長に早退を伝え病院へと向かった。

大丈夫そうとは言ってたけど何があるかわからないからな・・・




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「う~ん まさか開成に取材されるとはなぁ」

「おじさんには小さい頃からお世話になってますから僕も何だか気まずいですよ、、、」


今日の取材先は商店街の中程にある"バーバー寺田"だ。

昔ながらの床屋さんで、僕も小さい頃からお世話になっている店だ。

最近は時間が無くて横川の床屋に行くことも多くなったけど、店長の寺田さんが父さんの友人だったこともあり僕も通っていた。

まぁこの店に来るといつもお菓子くれたからというのもあったけど。


「でもそうだよな。あいつが交通事故で死んでからもう20年近く経つのか・・・

 そりゃ開成も大きくなるはずだ。お母さんも元気でやってるか?」

「僕ももう社会人ですからね。母さんも元気すぎるくらいに元気ですよ」

「まぁそうだな。お母さん大切にするんだぞ」

「はい」


父さんが事故にあったとき。

僕はまだ小さくて正直何が起きたのかわからなかった。

警察からの電話で母さんと一緒に病院に着いたとき・・・もう父さんは冷たくなっていて・・・それを見て母さんはただひたすら泣いていて・・・

後から来てくれた寺田のおじさんとおばさんは、憔悴した母さんを見て葬儀の手配など色々と助けてくれたんだよな。

今でもおじさん達には感謝している。


「じゃ、紙面のサンプルが出来たら持ってくるので楽しみにしててください」

「おぅ。カッコいい写真使ってくれよな」

「う~ん 補正はするけど・・・まぁそれなりにしかならないよ♪」

「開成も言う様になったなぁ」


世間話から入った取材も滞りなく終了。

取材と言いつつ何だか雑談の方が多かった気もする。

写真も沢山とらせてもらった。

建物も内装もだいぶ年季は入ってるけどおじさんもおばさんも自然な笑顔で人柄がわかるような写真が撮れたとは思う・・・多分。


取材を終えて店を出ると外は少し暗くなってきていた。

日も随分短くなってきたよな。


「直帰には少し早いかな・・・」


時間的に中途半端な時間だったので一旦帰社しようかと駅に向かって歩いているとポケットの中のスマホが鳴った。

"小春"からだ。どうしたんだろ?


[はい。開成ですけど]

[あ、開成君。小春です。取材の方は無事に終わった?]

[あぁ無事終了。今さっき店を出て直帰か帰社か悩んでたところだよ]

[そっか。お疲れ様。今日はゴメンね]

[いや大丈夫だよ。それよりお父さん大丈夫だったのか?]

[うん。お陰様で。最近忙しくて疲れていたみたいだから過労じゃないかって。点滴して今はもうすっかり元気になってるよ]

[そっか。確か営業さんだったよな。でも大事じゃなくて良かったよ]

[・・・・・]


どうしたんだ急に黙り込んじゃって。


[小春?どうかしたのか?]

[開成君って今から病院に来れたりするかな?]

[今からって・・・僕が?]

[うん。その・・・お父さんが開成君に会いたいって。駄目・・・かな?]

[いや全然平気だけど。なんでまた]


確かに小春と付きってるってことで挨拶には行ったけど"会いたい"って。


[その・・・・開成君にも久しぶりに会いたいって・・・お父さん開成君の事を凄く気に入ってたから。それに弟達も開成兄さんに会いたいって言いだして]


僕の事そこまで気に入ってくれてたんだ。

そう思うと何だか嬉しいな。


[そこまで言ってもらえると僕も嬉しいな。わかった川野辺総合病院でいいんだっけ?]

[うん。本当ゴメンね。入り口に着いたら迎えに行くから連絡頂戴]

[了解♪]


編集長に取材の終了と少し早いけど直帰する旨を電話した僕は、駅前からバスに乗り川野辺総合病院へ向かった。

病院は川野辺駅と川北のバスターミナルの丁度中間位にあるこの地区最大の総合病院だ。

大室の実家がある川北団地からも歩いてそう遠くない距離だったはずだ。


バスを降りた僕は病院の入り口に向かいながら小春にメッセージを送った。


[着いたよ。今受付に向かってる]


夕方ということで診察時間も終わり人影もまばらな病院受付。

あまり居心地の良い場所ではないけど、少し待っていると小春が迎えに来てくれた。そして、受付で面会の手続きを行った僕は小春と一緒に病室のある病棟へ。


「ごめんね。仕事終わりで疲れてるとこ」

「気にすんなよ。僕も小春のお父さんは・・・その・・・僕とも家族になるかもしれない人なわけだし・・・容態は気になってたから」

「あ、ありがとう。そ そうだよね。なんか恥ずいね」


少し照れた小春とエレベータに乗り3階にある病室へ。

病院自体は僕が小さい頃からあるけど、この病室がある病棟はまだ数年前に出来たばかりで内装も綺麗だ。

川野辺の町もここ数年で人口も増えてきたし病院も拡張が必要になったんだろうな。


「お父さん。開成君来てくれたよ」

「こんばんわ渋沢です。お体の方大丈夫ですか?」


病室に入ると上半身を起こす形でベッドに入ったおじさんと小春の弟さん(春樹君)と妹さん(春奈ちゃん)と話をしているところだった。


「いや~渋沢君。悪いね仕事終わりに。久しぶりに顔が見たくなってね」

「いえ気になさらないでください。僕も倒れたって聞いて心配でしたので」

「嬉しい事言ってくれるねぇ~。小春もいい人捕まえたよ本当」

「お お父さん!!」

「でも結婚を前提にお付き合いしてるんでしょ?いいじゃない照れなくても」

「お お母さんまで・・・」

「僕も勉強教えてくれるようなお兄さん欲しかったから嬉しいよ」

「ちょ 春樹まで・・・」

「うん。私も優しいお兄ちゃんは大歓迎かな」

「は 春奈~」


何やら顔を赤くして照れまくる小春。

何だか外堀をどんどん埋められてる気がするのは気のせいだろうか・・・

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