第27話 プールデート①

水着は買いに行ったもののその後は特に有坂からの連絡もなく、僕も小春も仕事に追われる日々が続いていた。


大手出版社と違ってうちの規模の出版社は1人で対応する仕事も多くて結構忙しいんだよね。

特に新人の僕にはまだ馴染みのない業務も多くて小春や先輩方に教えてもらいながら仕事をなんとかこなしていた。


もちろんそんな中でも小春とは一緒に食事に行ったりお互いの家に泊りに行ったりと仲良く過ごしてはいたけどね。


それにこの間は小春のご両親と兄弟も紹介してもらった。

大室に見た目がそっくりで歳を感じさせない優しそうなお母さんとフレンドリーで良くしゃべるお父さん。

お父さんとは一緒にお酒を飲みながら色々と話もさせてもらったけど僕の事も気に入ってくれたみたいだ。大室の明るい性格はお父さん似なのかもしれないな。

弟さんや妹さんはまだ中高生ということで勉強を教えてあげたりもした。

成績はそれなりに良かったから中高生の夏休みの宿題位なら何とか説明出来る。

僕は一人っ子だったということもあるけど"開成兄さん"とか呼ばれて頼られると何だか悪い気はしなかった。むしろ少し嬉しかったりもした。


そういうわけで正直なところプールの件は有坂の社交辞令だったのかなと思いつつも8月も後半となった。

折角水着も買ったし2人で何処か・・・なんて考え始めていたんだけど昨日の晩に有坂から"プール行く日程決まったけど大丈夫か?"とメッセージが来た。


うちの職場は取材何て業務もあるから土日に仕事の日もあるんだけど運が良いことにその日は僕も小春もオフの日。

小春にも連絡を入れ承諾を得たので有坂に"楽しみにしてる"と返事を送った。

試着で見てはいたけど水着姿の小春と一緒にと思うとなんだか緊張する・・・

それに有坂や鶴間は慣れてるかもしれないけどプールデートとか初だよ僕。


ちなみに参加メンバは当初聞いていた通り有坂と山下さん、鶴間と栗平さん、それに僕と小春だ。


行先は高校時代に有坂達がダブルデートしたという川北のプール。

僕も出来たばかりの頃に友達(もちろん男ばかりだけどね)と1度だけ行ったことがあったけど確か去年リニューアル工事をしていたはずだからちょっと楽しみではある。

それに一応は市内だからタウン誌のネタに使えるかもしれないしね。






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8月某日。

8月も終わりが近いというのに相変わらずの真夏日。ここ数年の気温の上昇は正直なところ外を歩くことに危険を感じる暑さだよな。。。


「おいし~  外がこれだけ暑いと冷たい飲み物がありがたく感じるよね」


とオレンジジュースを飲みながらの小春。

今日の小春は涼し気な水色のカットソーにゆったりとした白のパンツスタイル。

贔屓目に見ても僕が隣でいいの?ってくらいに可愛いと思う。


そんな僕と小春はプール入場口脇にあるカフェコーナーで冷たい飲み物を飲みながら有坂達を待っていた。

プール入場口前で待ち合わせしてたんだけど早く着きすぎてしまったんだよね。

でも、前に来た時はこんなお洒落なカフェは無かった。エントランスも随分綺麗になったしプールのリニューアルも期待だな。


「それにしても暑いねぇ・・・・やっと汗が引いてきたよ。

 ありがとうエアコンさん!って感じだね」

「だな。バス停からここまで歩いただけで結構な汗かいたもんな。

 ある意味プールには最適な陽気かもしれないけど・・・・」


などと会話を楽しんでいると


「お待たせ開成」

「こんにちは渋沢君。小春ちゃん」

「有坂。今日は誘ってくれてありがとな」

「こんにちは若菜ちゃん。今日は暑いねぇ~」


有坂と山下さんが到着した。

気持ち山下さんの表情は少し明るくなった気がする。

ミニ同窓会で昔の仲間と再会したことで、気持ちが少しでも楽になったのなら開催した側としては嬉しいけどな。


「はは 開成も誘ってやらないと拗ねられちゃうからな♪」

「え?開成君拗ねちゃってたの?」

「いや あれは話の流れで・・・そ それより鶴間達は?」

「照れるな照れるな♪今日は大室が居るんだしな。

 あ、大和達は電車遅延があったらしくてな。ただ、そろそろ着くんじゃないかな」

「了解。そういえばあいつらって横浜の方で同棲してるんだったよな」

「あぁ大学進学に合わせてだから結構長いな。前に話したときは卒業して仕事が落ち着いたら籍入れる様なこと言ってたけど、もう結婚してるようなもんだろ」

「確かにあいつらみてると息もぴったりだし夫婦みたいだもんな」


などと鶴間と栗平の話をしていると。噂の2人が到着した。


「誰が夫婦みたいだって開成?」

「お、鶴間夫妻が到着したな」

「だ 誰が夫妻よ!」

「ん?栗平は鶴間の奥さんって言われるの嫌なのか?」

「い 嫌じゃないけどさ・・・その恥ずかしいじゃない」


とチラチラと鶴間の覗き見ながら顔を赤くする栗平さん。

相変わらずだなこの2人は。

気が強い感じの栗平さんが主導権を握ってるようには見えるけど実際のところ決定権というか最終判断は鶴間だし、昔から鶴間に栗平さんが付いてく感じなんだよな。栗平さん鶴間にべた惚れだもん♪


「ま、もし式上げるなら呼んでくれよな」

「し 渋沢君!だ、だからそういうの!」

「そうだな。ちゃんと日取りが決まったらもちろん招待状は送らせてもらうよ」


鶴間のセリフを受け栗平さんが鶴間の方に振り向いた。


「・・・ふぇ?大和?招待状って?え?」

「プロポーズはあらためてちゃんとするけど・・・僕もちゃんと春姫の事は考えてるんだよ」

「うん うん・・・・大和・・・大好き」


そう言いながら赤い顔のまま鶴間に抱き着く栗平さん。


え~と・・・・僕らは何を見せられてるんだ?

ここ普通にカフェなんだけど・・・

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