第39話 先輩
「開成君。この書類のチェックお願いできる?別の原稿を今日中に入稿しなくちゃならなくて」
「大丈夫だよ。僕の方は少し手も空いてきたし。他にも何かあれば言ってくれよな」
「ほんと!ありがとう助かる♪」
週末のデートの後も小春は忙しい日々を送っているけど、僕の方は仕事が一段落したこともあり編集長に許可をもらって小春の仕事を一部手伝っている。
中々難易度が高い対応もあるけど僕にとってもいい経験になっているし、何より小春の負荷を少しでも軽減できていると思うと僕としても嬉しい限りだ。
それに・・・
「午前の仕事終わり!開成君♪お昼行こ!」
「おっ もうそんな時間なんだ。今日は何処に行く?」
小春との楽しいランチタイムも復活した。
僕が手伝いを始めたことで小春に余裕が出たこともあるけど、編集長の計らいもあり小春の内勤が増えたからだ。
編集長も小春に負荷がかかってしまっていることは気にしていたらしく・・・
というわけで、今日もまた小春の案内でお馴染みの横川商店街へ。
「今日は何処行こうか?」
「そうだなぁ~ パスタとかどうだ?」
「いいねぇ~ じゃあの店かな。ほら先月ペペロンチーノ食べたお店。あそこの店、トマトクリーム系もオススメなんだよ」
「お、あの店か。美味しかったよなじゃ今日は他のパスタ頼んでみないとな」
お店の看板メニューは色々あるわけで中々全制覇は難しく・・・
それにしても小春とランチを一緒に行くようになって半年以上経つわけだけど、毎日の様に食べ歩いたおかげで何だか食に関しても詳しくなれた気がする。
それに店長さんや常連さんとも知り合いになれた。
これも小春のおかげだよな。
と、隣を歩いていた小春が急に立ち止まった。
「あれ?」
「どうした小春?」
「あそこに居るのって楓先輩じゃないかな?ほらそこの喫茶店」
「あ、本当だ。何してるんだろ?っていうかよく見つけたな」
商店街入り口近くにある喫茶店ミュシャ。
その窓側の席に前に紹介してもらった楓先輩が座っている。
小春のバスケ部時代の先輩で、今は川野辺高校の教員をしている人だ。
まぁ小春の先輩ということは僕の先輩でもあるんだけど、まともに会話をしたのはタウン誌の取材で川野辺高校に伺ったときが始めてだ。
しっかりした感じで部活のコーチとしてはかなり厳しい感じだった。
でも、住んでるのは確か川野辺だよな?横川で何してるんだろ。
あ、しきりに時計見て時間気にしているみたいだし誰かと待ち合わせかな?
と、喫茶店に見覚えのある男性が入店するのが見えた。
「あ、あの人・・・確か小早川さんのお兄さん?」
「え?小早川さん?」
「あ、うん。話してなかったっけ?この間川野辺駅の近くで相良さんが酔っ払って小早川さんって同級生の子に介抱されてたって。その時"送るの手伝おうか"って言ったらお兄さんが迎えに来てくれるからって。で、その時僕と入れ替わりでさっきの人が」
特に紹介されたわけじゃないけど多分あの人がお兄さんなんだろうな。
「え~聞いてないよ。映画のチケットを幸から貰ったとは聞いてたけど。
じゃあ楓先輩って田辺先輩と待ち合わせしてたんだ」
「田辺先輩?ってバスケ部の?」
田辺先輩も話したことはないけど学内じゃ有名人だったよな。
確か小早川先輩の彼氏さん?
「うん。幸の同級生の小早川さんだったら楓先輩の妹の紅葉ちゃんだと思うんだけど、楓先輩と2人姉妹で他に兄弟はいないはず。だからお兄さんって言ってたなら楓先輩の旦那さんの田辺先輩かなって」
「なるほど。お義兄さんか。っていうか楓先輩って結婚してたんだな」
「うん。大学卒業と同時に入籍したの。田辺先輩は就職して落ち着いたらって考えてたみたいだけど、楓先輩が"これ以上待ちきれない!"って♪
もう見てるこっちが恥ずかしくなるくらい当時からラブラブだったから」
「そ そうなんだ」
小早川先輩って男子生徒の中では、どちらかというとクールでカッコいい美人さんってことで人気だったんだけど・・・
この間会った時もイメージ通りだったし・・・でも実際はだいぶ違うのか?
と喫茶店の前で小春と立ち話をしていると先輩達がお店を出てきた。
「あれ?小春と渋沢君じゃない。どうしたのこんなところで」
「あ、楓先輩。どうもです。私達職場がこの近所なんでお昼に。
先輩こそ何で横川に?」
「うん。健吾君と待ち合わせしてたの。
桐洋工業高校って駅向こうにあるでしょ?彼あそこで教員してるのよ」
「え!そうなんですか?うちの弟桐洋工業ですよ!」
「そうなの? じゃぁもしかしたら健吾君わかるかな?」
そういえば小春の弟さんって桐洋工業だったな。
何やら先輩と弟さんや学校の事で盛り上がってる。
でも夫婦そろって教員なんだ。
「楓?どうかしたのか?」
「あ、健吾君。お店の前で偶然小春たちに会って」
「ん?あぁ大室さん。随分久しぶりだよね。隣はもしかして渋沢君かな?」
「あ、はい渋沢です。初めまして?」
先輩とは多分直接話とかしたことなかったと思うけど?
僕が不思議そうに返事をすると小春が先輩に聞いてくれた。
「ご無沙汰してます田辺先輩!渋沢君の事をご存じなんですか?」
「楓から聞いてたし高校の頃のバーベキューでも仲良さそうにしてただろ?
当時は結構みんなで噂してたんたぜ」
「そ そんな昔の事・・・それに・・・噂って・・え?・そうなんですか?」
みるみる小春の顔が赤くなる・・・というか僕も結構恥ずかしいぞ。
「うん。ついに小春にも春が来たって結構みんな話題にしてたのよ。
それにあの時って結構長い時間2人きりだったでしょ?」
そう言いながらニヤニヤする楓先輩。
「うっ・・・まさか」
「そ。私や綾、それに瑞樹で周りを牽制して2人きりの時間を作ってたわけ。有坂君と栗田君もノリノリだったわよ」
「「・・・・・」」
マジか・・・確かに僕らのところに誰も来ないから気にはなってたけど・・・
それにそこまでしてもらっていたのに大室に告白すらできなかった僕って・・・
「そ そういえば田辺先輩は何で川野辺高校の教員にならなかったんですか?」
あ、強引に話題変えてきた。
「う~ん。俺も本当は川野辺高校の教員になりたかったんだけど枠が空いてなくてね。当時は楓との結婚も決まってたし、無職でのんびりもしてられなかったから知り合いの伝手で桐洋工業を紹介してもらったんだよ」
「教員も色々大変なのよ。私もすぐに入れるところが無かったんだけど山口先生が産休で休むっての聞いて臨時教員から入れたんだよね」
「そうなんですね」
確かに最近は生徒数も減って来てるし教員になるのも大変なんだな。
「まぁでも桐洋工業も歴史のある学校だし今となっては良い職場だと思ってるけどな。バスケも結構強いんだぞ」
「だね。それに桐洋工業って共学だけどほとんど男子でしょ?
私としては健吾君の浮気を心配しなくていいから気も楽だしね♪」
「ちょ楓。またそういうことを後輩の前で・・・
それに俺は楓一筋っていつも言ってるだろ?」
「信じてはいるけど・・・ケンちゃんカッコいいから心配なのよ~」
と言いながら見つめ合う先輩方・・・小春の言ってた通りだな。
「あ、相変わらずお熱いっすね先輩方」
「そ!今日もこの後デートなの♪」
「ははは」
「あ、渋沢君。小春の事は大切にしてあげてね!良い子だから」
「は はい!」
「じゃまたね♪」
そう言いながら手を繋いで駅の方へと向かう先輩方。
楓先輩って・・・前に取材したときと随分雰囲気違ったな。
でも・・・結婚か。
「あ・・・」
「どうした小春?」
「昼休み終わっちゃう・・・」
結局、この日の昼飯は事務所近くの立ち食いそばで済ませました。
まぁこの店も美味しいからいいけど。
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