第40話 駄菓子のコンドウ

「え!あの駄菓子屋さん再開するんですか?」

「おぅ。俺も小さい頃よく買い食いとかしてたし2人も行ったことくらいあるんじゃないか?」

「はい。もちろんです。小さい頃は僕もよく通ってました。でも、ずっとシャッターがしまってたし気にはなってたんですよね」

「う~ん。行ったことはあるけど、私は家が川北寄りだったから・・・」


今日はタウン誌の取材で商店街組合の事務所に来ているんだけど、到着早々堀内さんに"駄菓子のコンドウ"再開の話を聞いた。

川野小の近くにある駄菓子屋で川野小の生徒には馴染みのあるお店だ。


ただ、随分前にお店を経営していたお婆さんが体を壊したとかでシャッターが閉まったままとなっていたんだよね。


「でもお店は誰が?身内の方ですよね?」

「お婆さんのお孫さんが結婚してあそこに住んでるんだよ。建物も老朽化しているし壊して売りに出す話もあったらしいんだけど思い入れがあるらしくてな。

 お店も本当はもっと前に再開の計画はあったらしいんだけど、リフォーム含めお金もかかるし色々と調整してやっとって感じらしい」


確かに建物も古かったもんな。

でも何だか懐かしい。

あの頃は良く学校帰りに有坂達と買い食いしたっけ。


「そうなんですね。でもその話をしてくれたってことは今日紹介いただくのは」

「そういうこった。来月リニューアルオープンだし記事の目玉にもなるだろ?

 それにお店側としても宣伝につながるからな」

「「はい!」」


お店の方には堀内さんが連絡を入れておいてくれるということで後日取材に行くことになった。本当堀内さんは仕事も早いし協力的で助かる。



--------------------

翌日。

僕は会社へ向かわず家から川野小方面へと向かった。

今日は例の駄菓子屋の取材日だ。


久しぶりに来た駄菓子屋。

店の外観は昔の面影を残しているけど壁も塗りなおしてあるし耐震補強などもされてしっかりした形にリフォームされているように見える。

"さてと早速行って見るかな"

店の外観写真を何枚か撮ったあと僕はお店へと向かった。

今日は小春も一緒に来る予定だったんだけど、急な対応が入って来れなくなったんだよね。残念がってたけど今日は僕一人での取材だ。


「こんにちわ~ どなたかいらっしゃいますか~?」

「は~い」


昔ながらの木の引き戸を開け無人の店内に入って呼び掛けると、レジ奥の居住スペース?から男性の声が聞こえ、少し待つと細身の男性が出てきてくれた。


「何かお求めでしょうか?」

「あ、いえ、堀内さんから紹介されましてタウン誌の取材で」

「あぁ川野辺のタウン誌の方ですね。聞いてます。聞いてます」

「横川出版の渋沢です。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。私は内村と申します。今日はよろしくお願いします」


内村さんにレジの脇にあるテーブルを案内され早速取材を開始させてもらった。

ちなみにこのテーブルは駄菓子を食べたり、流行りのカードゲーム等を行えるようにと設置しているらしい。


「それにしてもこのお店が再開するとは思いませんでしたよ。堀内さんに紹介いただいたときは驚きました。僕もこの町の出身で小さい頃よくお世話になってたので」

「そうなんですか!ここは僕と妻にとっても思い出の店だったんです。だから是非再開させたくて・・・

 実は妻は当時お店をやっていたおばあさんのお孫さんなんです」

「え!そうなんですか?じゃあもしかして奥様って近藤生徒会長?」

「生徒会長って・・・もしかして渋沢さんは川野辺高校出身なんですか?」

「はい。僕が入学した年の生徒会長が近藤先輩で。凛々しいというか凄く綺麗な方で学年でも有名だったんです」


堀内さんにお孫さんって聞いたときは、すぐに思い出せなかったけど、小春と話してて思い出したんだよな近藤先輩の事。


「はは それはありがとうございます。妻も喜びますよ。

 実は僕も卒業生で妻とはクラスメイトだったんです。本当は今日一緒に取材を受ける予定だったんですが、どうしても外せない用事が入りまして。もうそろそろ帰ってくるとは思うんですが・・・」


それは残念。一目でもお目にかかってみたかったかな。

学生時代は高嶺の花過ぎて声とか掛けられなかったもんな・・・


などと思いながら内村さんから色々とお話を聞いていると店の引き戸が勢いよく開き綺麗な女性が入ってきた。


「ただいま 冬彦さん!!!聞いて!聞いて!女の子だって!順調だって!!」

「なに!本当か!そうかぁ~女の子かぁ~名前何がいいかな~」

「もう!冬彦さんったら。後で一緒に考えましょ♡」


見た目、綺麗系でおとなしそうなのに賑やかな人だな・・・でももしかして。


「あの~ 取り込み中のところ申し訳ないのですが・・・取材の方あと少しだけご協力を・・・」

「「あっ!!」」

「す すみません。お騒がせしてしまい。あ、妻の夏希です」

「あ あのお見苦しいところを。内村 夏希です」


やっぱり近藤先輩だった。

当時持っていたクールなイメージとは変わっていたけど何処か当時を思わせる雰囲気もあった。そして何よりも幸せそうな笑顔をしていた。


「いえいえ。こちらこそお忙しいところ・・・

 お子様が生まれるんですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます。僕も夏希も子供が大好きなので楽しみで♪」


その後、僕が知っている当時の駄菓子屋の話やお2人が商売を再開するまでの経緯や想いなどたっぷりと取材させていただいた。

お店は従来の店舗販売だけでなく、サイトでの販売や店の一部を改修してあらたに用意したハンドメイド作品販売用のレンタルブースなど、今の時代を意識した経営も考えているようだ。


「今日はありがとうございました。いい記事が書けそうです。

 出来上がったらサンプルをお持ちしますので、またよろしくお願いします」

「ええ、楽しみにしてます」

「でも本当お2人は仲が良さそうで・・何だか僕も結婚したくなってきちゃいましたよ」


本当自分はまだ先の事とか考えていたけど、この間の田辺先輩達もだけど仲良さそうで少し羨ましいし何だか自分自身の結婚も意識してしまう。


「・・・失礼ですがそう思うお相手が?」

「実は僕も川野辺高校時代のクラスメイトと付き合ってまして・・・」

「あら、それは元生徒会長として是非お話を聞きたいわね~」

「はは 逆に取材されちゃいそうですね。じゃその話は今度サンプルをお持ちした際にでも」

「楽しみにしてますよ。じゃぁ今日はありがとう」


お店を出た僕は帰社するために川野辺駅へと向かった。

家が近所なので正直このまま帰りたい気もしたけど、流石にまだ帰宅するには早い時間だしね。

それに・・・何だか無性に小春に会いたくなった。


****************

「左の席のあの子は僕の事が好きらしい。でも僕は右の席の子が気になるんだけど。」のエピローグの開成視点の話となります。

ちなみに「7年目の約束」でも駄菓子屋の事は少し語られています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る