第37話 久々のデート
週末。
今日は小春とデートの約束をした土曜日だ。
「ほら 開成。後ろ髪に寝癖がついてるよ。いい歳してみっともない」
「本当?さっき直したんだけどな・・・」
「後でちゃんと直しなさいよ。服装はまぁ・・・及第点ね。
あ、小春ちゃんに今度遊びに来てねって伝えておいてね」
「あぁわかった。じゃ行ってくるよ」
何処で知ったのか(というか多分小春からラインで聞いたんだろうけど)今日のデートの事を知っていた母さんにファッションチェック的な事を受け家を出た。
それより及第点って出掛ける前からテンション下がるんだけど。。。
残業しながらも前日中に何とか仕事を片付けた僕は、小春と待ち合わせをした西川野辺に向かった。
ショッピングモールの最寄り駅。
今日はここのシネコンで映画を見た後、近くの水族館に行く予定だ。
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土曜日の早い時間だけどショッピングモールの最寄り駅ということもあり家族連れやカップルで駅前は混雑していた。
「まだ来てないか・・・」
待ち合わせ10分前。
小春は待ち合わせをするといつも30分近く早く来るから遅くなってしまったかと思ったけど・・・
と、小春からラインが来た。
[ごめんなさい。寝坊しちゃって10分位遅れます]
珍しいな。
でもこの間も朝会社で寝坊したとか言ってたし・・・疲れてるんだろうな。
[大丈夫だよ。慌てないで気を付けてきてね]
とりあえず返信はしたけど・・・今日も無理させちゃったのかな。
誘ったときは小春も喜んでくれてたけど、もしかしたらゆっくり家で休みたかったのかな。
そんな少しネガティブな気持ちで小春を待っていると改札口から小春が僕の方に走ってきた。
「はぁはぁはぁ ごめん開成君。寝坊しちゃって」
「慌てなくていいって言ったのに・・・」
「でも、折角開成君が誘ってくれたのに・・・それに最近デート久しぶりだし」
「・・・そうだね。そうだよな。今日は楽しもうな」
「うん♪」
秋らしい落ち着いた色のロングワンピに珍しく花をモチーフにした可愛らしいイヤリングもしている。
小春は今日のために凄くお洒落もしてきてくれている。
本当に今日を楽しみしてくれてたんだな。
余計な事考え過ぎたかな僕も。
「さ、映画行こうぜ。そろそろ入場できるはずだし」
「そうだね。あの映画って私も気になってたんだよね」
「原作も読んだけど映画版の脚本や配役が上手くまとまってるって評判だもんな」
「うん。私もあの配役はぴったりだと思ったな。楽しみだね」
今日見る映画はラノベ原作の恋愛作品。
高校時代に些細なことで喧嘩別れした恋人同士が数年後ライバル会社の社員として再会。お互いライバル心剥き出しで競い合いながらもいつしか・・・
というお話。
僕らが高校生の頃の作品で、ありふれたストーリー展開ではあるけど表現が面白くキャラクターも個性的で当時は何度も読み返したんだよね。
映画館に入り指定された席に座ると程なくして映画が始まった。
前評判通り原作に忠実ながらも実写ならではの演出や原作の雰囲気にマッチした俳優陣。そして作品の世界観を壊さずに改変されたストーリー展開と見事な脚本で僕も小春も見入ってしまった。
そしてクライマックス。
様々な想いを乗り越えヒロインが主人公に告白するシーン。
恥ずかしながらちょっと感動して泣いてしまった・・・
最後の場面からエンディングテーマを流す演出も涙を誘ったんだよな。
曲も素敵だ・・・
映画館を出ると小春が"お化粧直してくる"と化粧室へと向かっていった。
小春も感動して泣いてたのかな?
その後モール内のレストランに入りランチをとりながら見てきた映画の話で盛り上がった。1人で見る映画も良いけどこうやって感想を言い合えるのも楽しいよね。
そして、隣接する公園施設を少し散歩した後、次の目的地である水族館へ。
この水族館も新しいとか思っていたけど僕たちが高校生に入る頃に出来たはずだからもう7,8年は経つんだよな。
確か出来たばかりの頃にクラスの友達に誘われて行ったっきりだ。
あの時は僕以外なぜかみんな彼女持ちで・・・何だか寂しい思い出が・・・
「ん?どうしたの開成君」
「あ、あぁ僕の黒歴史が・・・」
「黒歴史?」
「あ、何でもない。小春はここ来たことあるんだっけ?」
「う~ん。出来たばかりの頃に妹たち連れてきたきりかな。水族館は好きなんだけど中々行く機会無くて」
「そっか。じゃぁお互い久しぶりということで楽しんでこようか」
「ふふ そうだね。面白かったらまたタウン誌にも載せられるしね」
大阪旅行の時に行った大規模水族館と比べちゃうと規模ははるかに小さいけど、職員さんや地区の中学校の生徒が書いたと思われる魚の解説や可愛らしいPOPが目を楽しませてくれる。それに水辺で遊べる施設や小動物とのふれあいコーナーなど水族館の展示物だけでなく各所に工夫が盛り込まれた作りとなっていた。
「派手さは無いけどゆったりと泳ぐ魚とか見てると和むよね」
「そうだな。ライティングの効果もあるんだろうな。クラゲとかも凄く綺麗だ。
ほんと落ち着いた気分になるな」
僕らはどちらともなく手を繋ぎ、2人で水族館の魚達をのんびり見て回った。
そしてマッタリした気分のまま中庭にある水辺の広場のベンチで休憩。
「何だか癒されたね」
「あぁここ最近の疲れもぶっ飛んだ気がするよ」
「ふふ だといいけどね。開成君はまだしばらく忙しいの?」
「う~ん。一応頼まれてたアシスタントの仕事は一区切りついたから、そろそろいつものタウン誌の作業に戻る感じかな。小春こそ年末号の編集だよな?」
そう小春が振られた業務は年末向けの雑誌だからまだ発行までに色々とやることも多いはずなんだよな。
「うん。一応大きな山は越えたんだけどまだ少し忙しいのは続くかな。でも社内での仕事がメインになるはずだからお昼は前みたいに一緒に行けるようになると思うよ♪」
「そっか!じゃまた美味しい店巡りしような。小春と食事すると何だか楽しいんだよな」
「そ そうなの?じゃあまた私が美味しいお店紹介してあげるから、お・た・の・し・みに♡」
「楽しみにしてるよ」
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日も傾きだした頃、水族館を後にした僕らは川野辺の駅に向かい前に有坂達と飲んだ"呑兵衛横丁"に顔を出した。
あれ以来何となく行きつけになっていて仕事帰りとか遅い時間だと1人でも立ち寄ったりしてるんだよね。
「おぅいらっしゃい!今日は大室ちゃんも一緒か!」
「はは。仕事が忙しくって久々のデートだよ。とりあえず僕は生お願いします。小春はどうする?」
「あ、私も生で。後お腹空いたから"今日の店長オススメ"も2人分下さい」
今日の店長オススメ?
壁をよく見ると"今日の店長オススメ唐揚げとポテサラのセット"という張り紙がしてあった。
良くチェックしてるな。でもここの店って唐揚げもポテサラも絶品だからな。
ということで美味しい料理を食べながら2人で楽しく飲んでいたわけだけど
「ははは~ 開成く~ん 楽しいねぇ~」
「おおぃ 小春流石に飲みすぎじゃ・・・」
「渋沢君。それそろ終電の時間だし締めた方がいいんじゃないか?大室ちゃんもちょっと飲みすぎみたいだし」
と店長。ここの店は良心的で客に深酒させないように注意して見ててくれるんだよね。そういうところもこの店を気に入った理由だったりもする。
「ですね。このまま1人で帰らすのも危ないので今日は家に泊まってもらいます」
「あぁそれが良い。じゃお勘定よろしくな」
「はい ほら小春行くよ」
「う~ん 開成く~ん」
何だか前にもこんなことがあったような・・・
背中に小春を背負って家までの道を歩きながらふと思う。
だけど、母さんも"今度遊びに来てねって"伝言した当日に小春を連れてくるとは思わないだろうな。
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