あなたの事が好きになったのかもしれません
ひろきち
プロローグ
桜咲く4月のとある土曜の昼下がり。
僕は恋人の香苗に誘われてカフェに来ていた。
大学を卒業し就職したばかりでお互い色々と忙しく会うのは久しぶりだ。
「ねぇ開成君」
「ん?なに香苗」
「別れましょ」
「へ?」
「だから、私たち別れましょ」
「な なんだよ急に?どうしちゃったんだよ。僕が何か気に障ることした?」
「別に・・・何もしてないわよ。というかむしろ何もしなさすぎるの。
何というか開成君って優しいところは素敵だけど刺激が無いのよね」
「そ そんな・・・・」
僕の名前は渋沢 開成23歳。
大学を卒業しこの4月から市内にある出版社に就職した社会人1年生だ。
まだ働き始めて1週間にも満たないけど昔から分野を問わず本が好きだったこともあり小さいながらも出版社で本に関わる仕事が出来ることは今からとても楽しみだ。
さて、そんな僕には自慢できる可愛い彼女が居る。
これといった取り柄のない僕にだ。
大学生2年の時に文芸サークルの集まりで知り合い、翌年告白し付き合うようになった上原 香苗さんだ。
同い年だったけど何処か大人びた雰囲気の彼女に僕は一目惚れした。
高嶺の花と思いつつも勇気を出して告白したらまさかのOK。
中学時代からの友人に話したら自分の事の様に喜んで祝福してくれたっけな。
彼女曰く"優しいし今までに付き合ったことが無いタイプだったから"という理由だった。まぁ彼女はモテたし僕みたいなのは逆に新鮮だったのかもしれない。
その後も順調に付き合ってきたし特に不満を言われたこともなかったんだけど・・・・何で急に。
「とにかく縁を切るとまでは言わないけど、今日からは普通に大学時代の"お友達"って事でお願いね」
「ちょ ちょっと待ってくれよ2年だよ。僕ら付き合ってたの。香苗はそんなあっさりと別れられるの?」
そうだよ。2人で旅行にも行ったし、花火やお祭りとか色々とデートも楽しんだ。それに僕はこれから頑張って働いて将来の事とかも考えていたのに。香苗にとってはそんなあっさりしたことなのか?
「うん。それに2年って言っても最近はあんまり会ってなかったじゃない」
「そ それは僕も就職したばかりで忙しくて・・・それに香苗だって声掛けると忙しいって」
「それは言い訳だよね。結果としてこの数か月は会ってなかったしメールとか電話もあんまりして無かったよね」
「・・・・でも」(それは僕だけのせいなのか?)
「あぁもう。わからないかなぁ~ 私たちはもう終わってるの。
それに開成君が傷つくだろうからあんまり言いたくなかったけど・・・私ね新しく好きな人が出来たの。今の職場の先輩。
まだ付き合ってるわけじゃないけど、優しくしてくれるしカッコいい人よ。
今度告白しようかと思ってるから開成君との仲もちゃんとケジメをつけたかったのよ」
「そ そうなんだ・・・好きな人が出来たんだ・・・だから・・・」
何だよそれ。僕と付き合ってるのに他に好きな人が出来たから別れる?
僕が傷つくから言いたくなかった?
全部香苗の都合じゃないか。
僕の気持ちはどうでもいいのかよ。僕はいったい何だったんだよ。
そもそも僕と付き合っているのに好きな人が出来たって浮気じゃないのか?
そんな軽い気持ちで僕と付き合っていたのか?
僕と一緒に居る時に楽しそうにしてたのあの笑顔も全部嘘だったのか?
僕達の2年間は何だったんだ・・・
楽しかった日々など色々な思いが廻ったが、冷静になってくると僕の中でも彼女への思いは徐々に薄れ気持ちも醒めていった。
そうだよな。そもそも僕なんかじゃ彼女とつり合いは取れなかったんだ。
彼女は最初から僕の事なんて好きじゃなかったんだ。
遊ばれてたんだよなきっと・・・僕にとって初めての彼女だったのに・・・何だか一生懸命になっていた自分が情けなく思えてきたよ。
「ちょっと黙っちゃってどうしたのよ」
「・・・・・あぁ」
「どう?わかってくれた?」
「・・・あぁわかったよ。2年間僕と付き合ってくれてありがとうな。
楽しかった・・・・恋人関係は・・・今日でおしまいだ」
「そ そうわかってくれたのね」
「ああ。でも友達関係には戻れそうにない」
「え?」
「本気で好きだったんだ・・・だから友達としてでも会うのは辛い。
気持ちの整理がつけばまた会えるようになるかもしれないけど今は無理だよ。
だからしばらく会いたくない。さよなら"上原さん"いままでありがとう」
「開成君・・・」
僕は何か言いたげな彼女を振り返らず、その場を立ち去った。
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