第1話 再会

5月 若葉が芽吹く新緑の季節。

香苗と別れてからもうすぐ1か月が経つ。

その後、彼女からの連絡は特にない・・・

正直今でも香苗の事を思い出すと辛いというか苦しいというか色々な感情が押し寄せてくる。忘れるにはまだ少し時間が掛かりそうだ・・・

ただ、そんな気持ちも仕事に没頭することで紛らわせることが出来た。


「渋沢君。この原稿の締め切り明日だからこの間やり方教えた通りに担当のライターさんに連絡してデータ送ってもらって」

「はい わかりました」

「それ、明日でもいいからね。最近毎日帰り遅いでしょ。うちはそんなにブラックじゃないんだからたまには早く帰りなさいよ」

「はい。ありがとうございます。

 でも・・・早く仕事覚えて一人前になりたくて」

「まぁ真面目なのはいいけど、まだ1か月なんだから焦らなくてもいいわよ。

 むしろ私が入社したころよりも渋沢君の方が仕事出来てると思うわよ」

「そうなんですか? 今の佐々木編集長を見てると想像つかないですね」


佐々木編集長は僕が配属された編集部の室長さんだ。

年齢は多分僕より少し上なくらいだと思うけど、この若さで編集長をしているってのはかなりのやり手だ。

この編集部では旅行ガイドやタウン誌を主に取り扱っていて、ライターさんや作家さんとやり取りし記事を構成する対応を行っている。

ちなみに今僕は編集長自ら親切丁寧に教育を受けている。小さい部署ということもあって、ここ数年は新人の配属も無かったらしく辞めないようにとフォローしてくれているらしい。


「今日は後どれくらいかかるの?私も そろそろ上がるけど無理しないようにね」

「あ、はい後30分くらいで終わります」

「そ。じゃそれくらいなら私も待とうかな」


[ガチャ]

と編集部のドアが開き誰かが入ってきた。こんな時間に誰だ?


「あ、佐々木先輩がまだ居る!!」

「え?大室っち?って戻ってくるの明日じゃなかったっけ?」

「そうだったんですけど最終の新幹線に乗れそうだったんで戻ってきちゃいました。何だか横浜が恋しくて♪」

「そう。確かに今回の出張は長かったもんね。本当大阪出張お疲れ様。

 それにしても久しぶりな感じよね。向こうはどうだった?」

「あぁもう食い倒れてきちゃいましたよ。体重計乗るのがこ・わ・い♪」

「な~に言ってるのよ!相変わらずスタイル良いじゃない。嫌味かそれは!」

「スタイル良くないですって。背が高いから痩せて見えるだけですよ。。最近は運動不足だし見えないところがヤバすぎで・・・って佐々木先輩この人は?」


何だか賑やかな人だなぁ・・・・良くしゃべる。

それに背が高い。僕と同じ位?いや170以上あるか?

後は・・・胸デカいな。あ、何処見てんだ僕は。

でも佐々木編集長と親しそうだし、もしかしてこの部署の人なのかな?


「あ、そうか大室っちは3末からの長期出張だったもんね。

 彼は今年の新入社員の渋沢君よ。うちの編集部に配属されてね今は私に就いて研修してるのよ。確か大室っちと同い年よ」


と佐々木編集長は僕に目線を送ってきた。

"挨拶しろってことだよな"


「あの渋沢です。まだ研修中で不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いします」

「・・・渋沢?」


ん?睨まれてる?僕何かまずいこと言ったか?


「ん?どうしたの大室っち」

「・・・もしかして川野辺高校に居た渋沢君?」

「え?はい川野辺高校の卒業生ですけど」

「やっぱりそうだ!私よ覚えてない?同じクラスだった大室よ」

「おおむろって・・・大室 小春か!」

「そうそう小春さんですよ」

「・・・え~と2人って知り合いなの?」

「「はい。高校の同級生です」」


"大室 小春"

彼女とは中学時代から何故かずっとクラスが一緒だった。

と言っても彼女は明るいクラスのムードメーカー的な存在でバスケ部でも活躍していた所謂陽キャグループのメンバー。

対して僕はゲームと本が大好きな地味系の陰キャグループのメンバー。

まぁ普通に考えると同じクラスというだけで接点は無いし、話すことも無い関係なんだけど僕らには"有坂 忍"という共通の友人が居た。

有坂は僕の小学校の頃からの親友だ。

彼は明るくてイケメンのモテキャラなのに僕みたいな地味キャラとも分け隔てなく接してくれた。

(まぁ・・・あいつも隠れオタク的なところもあったからなんだけどね)

で、そんな有坂は普段は見た目通り大室達のグループに居たんだ。

だからお互いの名前も知っていたし時々話をしたり皆で遊んだりすることもあった。何だか懐かしいな。


「でもまさか大室と就職先で再会するとは思わなかったな」

「それは私もだよ。渋沢君は確か都内の大学に進学したんだよね?」

「ああ、あっちで就職も考えたんだけど、ここの出版社の面接官の人が凄く親身に僕の話しを聞いてくれてな。都内の出版社の内定も貰ってたんだけどここに決めたんだ。大室は、編集長との会話の感じだと結構長いのか?」

「私?私は4年目かな。高校卒業した後1年間はぶらぶらバイト生活してたんだけど、その時にこの出版社でもバイトして、そのまま正社員にって感じかな」

「そっか。じゃあ呼び捨てじゃ悪いな"大室先輩"って呼ばせてもらった方がいいかな?」

「大室先輩って・・・相変わらず渋沢君はお堅いねえ~

 私の事は "小春"って呼んでくれればいいよん♪」

「いいよんって・・・ 何バカなこと言ってんだよ!先輩を名前呼びは無いだろ」

「はは冗談よ。普通に大室さんとか大室でいいよ」


相変わらず人を食ったような奴だな・・・・でもある意味変わってない。

と、それまで黙っていた編集長が会話に入ってきた。


「え~と・・・2人の仲がいいのはわかったんだけどさ・・・

 積もる話は後でしてもらうとして・・・渋沢君には早く予定の仕事を片付けて欲しいかな。もう約束の30分すぎてるからね」

「す すみません!すぐ片付けます!」

「邪魔しちゃってごめん・・・」

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