第21話 取材という名のデート②

リバーランドの入口。

僕たちが到着したときには開園待ちの列も皆入園した後で、特に並ばずに園内に入ることが出来た。


「じゃあまずはアレだよね」

「そ。アレだね」


僕達が最初に目指したのはリバーランドでも人気な"森のコースター"

大手の遊園地などと比べるとシンプルなつくりのコースターだけど木々の間をすり抜ける様なコースを走るためスリルがある。

一番人気は抑えておかないとね。


「ん?どうしたの渋沢君?」

「あ、 何でもないよ。こういうの久しぶりでちょっと楽しみでね」

「へぇ意外 コースターとか好きなんだ」

「まぁあんまり激しいのは駄目だけど、ここのは適度なスリルやコースのつくりがちょうどいいって言うか」

「あ、なんかわかるかも」

「はは それにここのコースターって"花咲く川の向こうで"ってラノベの聖地でもあるんだよね。前に来たの時も聖地巡りで当時の友達と来たんだ」

「ええ!そうなの。あの小説私も読んだけど知らなかった!」

「それなら今日はヒロインになったつもりでコースター乗らないとね」

「・・・・その・・・ヒロインって確か」

「あ、僕らの番だ乗ろうよ!」

「え、うん」


"花咲く川の向こうで"は僕らが高校生の頃に発売されて人気だったファンタジー要素アリの恋愛小説だ。

未来から事故で転移してきたヒロインが主人公と出会い恋に落ちるんだけど自分の時代に戻らなくちゃならないってことになって・・・最後に主人公とデートしたのがこのリバーランドをモデルにした遊園地だったりするんだよね。

何でも作者が川野辺出身らしくて。

それで、物語の最後にヒロインは元に時代に戻るんだけど・・・


高校の頃は当時の友達(もちろん男ばっかり)でリバーランドに来てデートコースに沿ってアトラクション乗ったりしたんだけど、まさか数年後に女性と一緒に来て本当にデートすることになるとは思わなかったな。



「きゃぁ~~~ 無理 無理 無理~~」


などと昔を思い出していると横では普段の感じとは違う可愛い悲鳴を上げる大室・・・楽しみとか言ってたけど大丈夫なのか?


「はぁはぁはぁ・・・」

「大室大丈夫か?もしかしてコースター苦手だったんじゃ・・・」


コースターを降りた僕は心配になって大室に声を掛けた。


「すっごく楽しかった!!」

「へ?」

「こういうのって声出しながら乗るのもセットでしょ?」

「そういうもんなの?」

「そ!次行こ次! あ、また後でこれ乗ろうね」

「あ あぁ」


心配はいらなかったようだ。

でも確かに声は出した方がいいって聞いたことあるような気もする。


小説の事を思い出したので、大室と相談し今日は小説の中の主人公たちが回ったアトラクションを楽しもうということになった。

そして、次に行った場所は・・・


「ここに入るの?」

「そうだけど、大室ってこういうのは苦手?」

「ちょ ちょっとだけ苦手かも でも今日は行ってみたいかな」


僕達が次に来たのは、お化け屋敷。

まぁ前に来た時はそんなに怖かった記憶は無いんだけど大室がこういうの苦手って言うのは少し意外だったかも。

でもそれなら


「じゃさ、その・・・よければだけど手繋いでいこうか?少しは安心するだろ?」

「え?あ、うん。手を繋いでね。うん。お願いします」

「じゃ」


僕は大室の手を握り古びた洋館を模したお化け屋敷に入っていった。

少し照れながらも僕の手を握り返す大室。

思ったよりも小さい手なんだな。


薄明りの中、洋館の中のコースに沿って歩くわけだけど、倒れた家具に血の飛び散ったカーテンやベッド。殺人が行われた廃屋という設定の洋館は中々の雰囲気を出していた。前に来た時よりもリアルな感じだしリニューアルされたのかもな。

と余裕を持って歩いていたけど、大室はそうでもないようで・・・


手を握っていた大室は段々僕の近くに寄ってきて、いつの間にか腕にしがみついて歩いてる。小さく震えている様にも見える。

僕的には役得な感じなんだけど、こんなに怖がるんなら無理させない方が良かったかな。


「大丈夫か?大室?あと少しなはずだから」

「う うん。ゴメンね。歩きにくいよね。でも・・・こういうの凄く苦手で」


何だか普段の雰囲気とのギャップが・・・・・メチャクチャ可愛いんだけど。


「大室!」

「ふぇ?渋沢君?な なに!」


あまりの可愛さに僕は思わず大室を抱きしめてしまった。

柔らかい大室の肌の感触。それにシャンプーの良い香りがする。

僕もそれなりに背は高い方だったけど、バスケ部だった大室も高身長で大体同じくらいの高さ。ということで抱きしめるとすぐ近くに大室の顔が。


「そ その・・・・ごめん。少し落ち着いたかな」

「う うん。心配してくれてありがとう。何だか少し落ち着けたかも。

 でも・・・こういう事はもう少しムードがあるところの方が嬉しいかな」

「え~と。。。それはゴメン」


確かに血を流した死体が転がる部屋ではムードも何もない良いな・・・

でもムードのあるところなら嫌じゃないってことだよな?

そう思っていいんだよな?


その後も色々な仕掛けに驚き悲鳴を上がる大室をなだめながら何とか僕たちは出口へとたどり着いた。


「ほん~っとうにゴメン。自分でも思った以上に怖がりだったみたい」


お化け屋敷を出てベンチに座り一息ついたところで大室が急に謝ってきた。

気にすることないのになぁ。


「気にすんなよ。それに・・・その凄く可愛かったよ」

「えっと・・・あ ありがとう」


さっきまで怖さからか青白い顔してたけど今度は赤くなってる。

本当、大室って表情が豊かだよな。

こういうところも魅力だよな。


「あ、あの。。。次は何処行くの?」

「そうだな。少し早いけど昼ごはん行く?遅いと混みそうだし」

「お昼と言うと・・・リバーレストラン?」

「おっ流石。主人公たちが川辺のレストランで食事してたのって、あのレストランがモデルだからね」

「やっぱり!うん。いいよね。あのお店雰囲気も良いし食事も美味しいし」

「おっ!グルメな大室が美味しいって言うならあの店は本物だね」

「ふふん 庶民の舌だけどね♪」


ということで午前中人気のアトラクション2つを堪能した僕らはランチを取るため小説にも出てきたリバーレストランへと向かった。

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