第23話 会社にて

大室との取材という名目のデート翌日。

僕はいつも通り通勤の為に川野辺から横川までの電車に乗っていた。

横浜市内へ向かう通勤・通学の足として車内は乗客で今日も混雑している。

そんな中ドアにもたれ掛かりふと車窓を見るとちょうどリバーランドが見えた。

もちろん観覧車も。

昨日の記憶がよみがえる。

"僕と結婚を前提に付き合ってください"

・・・結構頑張ったよな僕。

今思うと恥ずかしいセリフとかも平気で言ってたし・・・あの時は勢いというか大室も喜んでくれてたけど・・・今日は普通に一緒に仕事なんだよな。


リバーランドで告白し僕は小春と正式に付き合うことになった。

ただ、帰り際の話で"何だか恥ずかしいから"ということで会社ではもう少し内緒にしておこうということになったんだ。

でも・・・あいつ顔に出やすいし隠し事とか無理だろうな多分。


そんなことを思いつつ、事務所に入ると大室がイヤホンで音楽を聴きながら仕事をしていた。

家が近いとはいえ相変わらず出社時間早いよな。

と僕に気が付いたのか飛び切りの笑顔で僕に手を振ってきた。

"うん。直ぐにバレそうだな"


「お おはよう開成君」

「え、あ、うん。おはよう小春」

「・・・何だか名前呼びって照れるね」


自分で名前で呼びたいとか言っておきながら。

でも、この会社に就職して初めて小春と再会したとき言われてたんだよな

"私の事は "小春"って呼んでくれればいいよん♪"

ってあの時は軽く流してたけど、本当に名前呼びすることになるとは不思議な気分だな。


「どうかした?」

「いや 何でもない。でもさ会社では付き合ってること隠すんだろ?それなら今まで通りに呼び合った方がいいんじゃないのか?」

「え~~折角名前で呼び合える仲になったのに~」

「じゃ2人でご飯食べに行くときとか職場外で2人きりの時は下の名前ってことではどうだ?」

「うん!それならいいかな。じゃそういうことでよろしくね渋沢君♪」


そして始業時間を過ぎたところでいつもの様に編集長との朝会。

小春は別件の打合せで今日は僕と編集長の2人だけだ。

一応"取材"という名目もあったので次月のタウン誌の特集記事としてリバーランドの話を写真交えて説明した。ちょうど行楽シーズンでもあるしね。


「いいんじゃないかな。時期的にも良いと思うしイルミネーションやレストランの情報も他の雑誌で良く特集されているけど需要はあるからね」

「はい。後はタウン誌らしく地元向けの情報を盛り込めればよいかなと」

「うん。そこまで出来れば最高ね。それに・・・」

「それに?」

「2人とも良い笑顔じゃない。カップル向けって記事でも受けるかもねぇ~」

「え??」


編集長が見ていた僕のスマホを覗き込むと・・・

そこにはリバーランドの見晴台で撮影したツーショット写真が。


「あ あのそれはですね。その」

「いいじゃない。大室ちゃんと渋沢君が仲良いのはみんな知ってるし、むしろ今更な感じよ」

「そ そうなんですか?」


何?僕らそんなふうに見られてたの?

だとしたら隠すとかそれ以前の問題じゃ・・・


「大室ちゃん見てれば渋沢君の事が好きだってすぐわかるわよ。あの子わかりやすいから。それに渋沢君が入社してから笑顔も増えたしね。

 あ、うちは別に社内恋愛禁止とかじゃないから変に気を使わなくて大丈夫だからね。ただ、仕事とプライベートはしっかり分けて、社内であんまりイチャイチャしちゃ駄目よ」

「職場でイチャイチャとかしませんから!」

「しないの? 後、大室ちゃん泣かすような真似は絶対しちゃだめだからね!」

「はい。それはもちろん」

「ん。よろしい!じゃ今説明してくれた内容をもとに大室ちゃんと構成決めといてね」

「はい」


ってバレバレじゃん。




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そして昼休み。

今日は昨日の約束通り小春に昼飯を奢ることになっていた。

あんまり高いお店は勘弁して欲しいなぁ~と思っていたけど連れていかれたのは予想外に見た目はごく普通のラーメン屋。


「"ラーメン横川家"ってここでいいの?もっと高そうな店でも大丈夫だよ?」

「うん。ここが良いの。ここのラーメン凄く美味しいんだから!」

「へぇ~小春オススメっていうなら楽しみだな」


お店の中に入ると昼時ということもあり席は満席。

壁際のベンチに列も出来ていた。


「お勧めとかあるの?」

「私はシンプルな醤油ラーメンがオススメかな」

「じゃ僕はそれにチャーシュー追加かな。小春も醤油ラーメンでいいの?」

「うん。あ、私はメンマ追加で!」

「了解」


僕達は入り口近くの券売機で食券を購入し列に並んだ。

結構回転も早そうだしそんなに待たないかもな。


「そういえば小春。やっぱり有坂達って同窓会には来ないのかな?」

「う~ん。有坂君も若菜ちゃんも高校3年はあんまりいい思い出無いだろうしクラスのみんなとも色々あったからね。特に若菜ちゃんは・・・」

「そっか有坂の事だから山下に気を使って自分も出ないって言いそうだもんな」

「そうだね・・・でもそれがどうかしたの?」

「いや ちょっとね」


あいつ等にも今回色々と世話になったし恩返ししたいんだよな。

なんてことを考えていると意外と早く僕らの順番となった。

食券はあらかじめ店員さんに渡していたこともあり席に着くと程なくして美味しそうな香りのラーメンが運ばれてきた。


「お待たせしましたラーメンです!」

「おぉ!美味しそう!」


僕らの前に運ばれてきたラーメン。

醤油の香りが食欲をそそる。

そして早速一口。


「旨!」

「でしょ♪」

「魚介系のスープに醤油が凄く馴染んでるし中太麺もスープにぴったりだ」

「うん。さっぱりしてるから後で胃もたれもしないし」

「だな。ありがとう。何だかリピーターになっちゃいそうだ」

「喜んでくれてよかった♪ あ、来るときは私も誘ってね。私もこのお店のラーメン好きだしね」

「もちろん!」


また1軒小春と行く店が増えたな。

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