第24話 あの時の君たちと

「直接会うのは久しぶりだな」

「そうだな。あの時は色々と愚痴聞いてもらっちゃったな」

「随分と落ち込んでたもんな。でもよかったよだいぶ元気になったみたいで。

 っていうか俺よりも大室のお陰かな?」

「はは・・・そのことはまた後でな

 ・・・山下さんも久しぶり。来てくれてありがとな。元気そうでよかったよ」


川野辺駅前の喫茶店。

僕は有坂と山下さんと待ち合わせをしていた。

有坂とはメールや電話ではよくやり取りはしていたけど実際に会うのは香苗の件で相談にのって貰って以来だ。

そして、山下さんと会うのは高校を卒業して以来だ。小春から聞いてはいたけど随分雰囲気変わったな。


「あ あの渋沢君・・・ごめんなさい。高校の頃私のせいで色々と嫌な思いさせちゃったよね」

「え?あぁ山下さんが謝ること無いよ。確かにあの時は僕も大室も山下さんを責めたかもしれないけど、あれは有坂の事を思っての事だし有坂が山下さんを許したなら僕が山下さんを責める理由も無いだろ?」

「で でも」

「いいって。はい もうこの話はおしまいな」

「・・・・・」

「な 言っただろ渋沢はもう昔の事とか気にしてないって」


そう言いながら有坂は声を出さず口の動きで僕に"ありがとう"と言ってきた。

・・・前に聞いてたけど山下は相変わらず自分を責めてる感じなんだな。


「で、僕たちに用事って何だ?」

「ん。あぁその前に2人は1月の同窓会は行かないんだよな?」

「同窓会か・・・悩んだんだけどな。

 僕も若菜も3年の時はあんまりいい思い出も無いし欠席にしようかなって」

「ごめんなさい・・・それ私のせいだよね」

「あ、そういう意味じゃないよ。若菜は気にしなくても」


山下さんかなりネガティブになってるな・・・確かに色々とあったけど有坂が前を向いたんだから山下さんもそろそろな。


「良かった・・・って言うのは変かもしれないけど同窓会に出ないって聞いたから2人にサプライズがあるんだ。ちょっと付き合って欲しくて」

「サプライズ?」

「そ。この後案内するから楽しみにしててくれ」

「あぁ」


そういって、僕は少し不安そうな表情を見せる2人をタクシーに乗せ、サプライズを行う会場へと向かった。

川野辺駅前からタクシーで数分。国道沿いにその店はあった。


「開成。ここって・・・」

「そ。レストラン"フルール"鮎川さんの実家であり栗田夫妻が働いてる店だよ」

「・・・そういえば あの2人結婚したんだったな。お祝いも言えてなかったな僕」


タクシーを降り店の入り口前で立ち話をしていると。


「「「いらっしゃいませ!ようこそフルールへ」」」


と店のドアが開き"フルール"の制服を着た3人の女性が僕たちを出迎えてくれた。


「・・・え?もしかして栗平?船橋?下北?どうして?」


「「「・・・・・」」」

「もう!折角瑞樹に制服借りたのにすぐバレちゃったじゃない!」

「本当よ。わざわざ着替えたのに!」

「まぁまぁ私達の事を覚えててくれたってことでいいんじゃない?」


何かブツブツ言ってるけど栗平さん、船橋さん、下北さんの3人は僕と有坂と同じ川野中からの同級生だ。

陽キャグループのメンバーなので僕とは・・・鶴間繋がりで栗平さんくらいしか・・・付き合いはないけど有坂や山下さんとは3人とも仲が良かったはずだ。


「2人とも 久しぶり!」

「あの・・・栗平さん私」

「若菜ちゃん!私達って友達だよね」

「あ・・・・」

「もっと早くに声掛けてあげれたら良かったんだけど私も心配してたんだよ。

 高1の時、若菜ちゃんと有坂が居なかったら私は大和と仲直り出来なかったかもしれない。2人には凄く感謝してる。

 だからさ・・・また昔みたいに仲良くしようよ」

「春姫ちゃん・・・・」


そういえば栗平さんにとってこの2人は恩人でもあるのか。

確かに大和と栗平さんの4人でダブルデートしたとか言ってたもんな。


「有坂、山下さん久しぶり」

「久々だな有坂!相変わらずしけた顔してるな」

「大和?それに豪徳寺まで」

「開成 これっていったい?」


有坂が僕の方を見て問いかけてきた。

そろそろ言ってもいいか。


「有坂と山下さんのためのミニ同窓会だよ」

「僕達の?」

「あぁ。同窓会に行かないって聞いたから小春や栗田に頼んで2人に馴染みがあるメンバだけに声を掛けたんだ。これならあんまり周りを気にすることもないだろ?」

「そういうこと♪最初に開成君に話を聞いたときは驚いたけどね。

 それに・・・他のみんなだって2人の事は心配してたんだからね」

「大室・・・それにみんな・・・ありがとう」

「ありがとう・・・・」


ちょっと涙ぐむ有坂と山下さん。

泣いてもらおうとか思ってたわけじゃないんだけどな。

でも喜んでくれたみたいで良かった。


「さぁ店に入ろうぜ。なにせ今日は栗田夫妻が特別コースでもてなしてくれるらしいからな」

「そ そうか。それは楽しみだ」

「うん。楽しみだね」


2人を伴って店内に入ると有坂達と同じグループで仲が良かった恩田と富田さん、それに山下さんと大学時代にバイト仲間だったという生田さん。

スペシャルゲストとして有坂がテニス部でお世話になった結城先輩と僕らの担任だった相良先生にも来てもらっていた。

一緒に居ると当時を思い出すような懐かしい人達だ。


会場に入ると早速有坂達を取り囲むように輪が出来ていた。

有坂も山下さんも懐かしい仲間との会話を楽しんでる様だ。


少し前に大室の家で見たテニス部とバスケ部合同のBBQ大会の写真。

あの楽しかった頃を思い出せたらって思いで企画したんだけど有坂達は喜んでくれてるのかな・・・


「喜んでくれてるんじゃない?」

「だといいんだけどな・・・」


いつのまに隣に来ていた小春が話しかけてきた。

って僕の考えてたていた事わかったのか小春?

驚いた顔で小春を見ると。


「ふふん。以心伝心ってやつ?開成君の思ってることわかっちゃうんだよね~」

「マジか?」

「どうでしょ?それより私達も向こう行って若菜ちゃん達と話しようよ!」

「そうだな」


何だかうまくはぐらかされた気もするけど・・・まぁいいか。

今日は楽しもう。


その後、フルールの美味しい食事を食べながらの集まりは話題尽きることなく夜遅くまで続いた。

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