第13話 優しい人
気持ちの整理がつかないまま僕は川野辺方面へ向かう電車に乗った。
早くにカフェを出てしまったこともあり、ちょうど帰宅ラッシュの時間帯だ。
混雑する車両の中で僕はドアにもたれ掛かり車窓を見ながら香苗との事を考えていた。
香苗にとって僕は何だったんだろう。
今更だけど本当に彼氏・恋人として見てくれてたんだろうか。
体のいいキープ君だったのか?
それに香苗にとって恋愛って振ったり振られたりあんなに軽いものなんだろうか。僕はそんなに簡単には割り切れない。
あの時香苗に別れを告げられて、ここ数か月は気持ちの整理も付いたし忘れられてたと思ってたけど・・・やっぱり会わなければよかったな。
『家に帰る間に駅前で飲んで帰るか・・・』
と僕の乗った急行は次の停車駅横浜中央に到着した。
この駅ではJRから乗り入れてくる快速電車との待ち合わせがある。
『また混みそうだな・・・』
とドアの方を見て考えていると見知った顔と目が合った。
「あれ?渋沢君じゃない」
「え?大室?なんで?」
「あ、私は打合せの帰りだよ。渋沢君こそ、どうしたの何か予定があったんじゃなかったっけ?それに・・・表情が暗いけどなんかあった?」
大室にはかなわないな・・・
僕の表情をみてなんでもわかっちゃうんだもんな。
「ああ、ちょっと予定してた約束がね・・・」
「・・・・そっか。何か嫌な事とかあったんだね。
じゃさ良かったらこれから飲み行かない?」
「大室と?」
「そ、私以外に誰が居るのさ♪ 渋沢君にフラれちゃったから一人で行こうかと思ってたんだけどね。それとも私と飲み行くのは嫌?」
「フラれたって・・・大室と行くの嫌なわけないだろ」
「ふふ嬉しい事言ってくれるじゃん。じゃさ、嫌な事とか飲んで忘れちゃお!」
「そうだな・・・」
なんだろ。やっぱり大室と居ると気持ちが安らぐな。
香苗と居るときももちろん楽しくはあったけど・・・どこか違うんだよな。
気取らなくていいというか素の自分で接していられるというか。
とうことで一度は予定があるということで断った大室との飲み会だったけど横川の駅前にある大室が行きつけという居酒屋で行うこととなった。
「おっちゃん来たよ!」
「おぅ小春ちゃんか!いらっしゃい。って今日はカッコいいの連れてるじゃないか!そっちのお兄さんもよろしくな!」
「はは どうもよろしくお願いします」
妙にフレンドリーな居酒屋だな。
大室に連れてきて貰った居酒屋は、鉄道高架下にある10人も入ればいっぱいになりそうな小さな居酒屋だ。
大室曰くお酒だけじゃなくておっちゃんの作る料理が絶品とのことで時々夕食がてら飲みに来るんだそうだ。
横川のタウン誌を書いている大室の推薦ということなら確実なんだろうな。
「僕と大室が1杯目のビールを頼むと、お通しということで小鉢に入ったもつ煮込みらしきものが出てきた」
「渋沢君。そのもつ煮食べてみ。メチャクチャ美味しいから」
「うん」
と一口・・・何コレ口の中で溶ける。
それに一緒に入ってる根菜も味が凄く良くしみてて美味しい!
「お世辞抜きで美味しいんだけど!!」
「でしょ!私いつもお通しだけじゃ足りなくて普通に1人前頼んじゃうんだよ。ビールや日本酒にもあうんでこれ」
「この美味しさならわかるな。僕も単品で頼もうかな」
「うん。お勧め色々頼むからシェアして食べよ♪」
「お通しでこれだと期待しちゃうな」
「何だか兄ちゃん嬉しいこと言ってくれるね。これ試作品だけどサービスだ」
とおやっさんがもう一つ小鉢を出してくれた。
「え!おっちゃん何それ私も見たことないよ」
「おぅさっき作った試作品だからな。ローストビーフとセロリのマリネだ。味は結構自信あるんだけど・・・小春ちゃんも食べて見てくれ」
「どれどれ・・・うん美味しいよこれ!ね渋沢君」
「うん。肉も柔らかいし、正直セロリはあんまり得意じゃないんだけど凄くこれは食べやすい味付けで」
「そりゃよかった!でもなぁ・・自信作なんだけどコスパ悪くてな今のところは1日10食くらいの限定かな」
「うわぁ~そんな貴重なものをありがとうございます!美味しかったです」
「おっ嬉しいね。なんかお兄さん気に入ったよ。流石小春ちゃんは見る目があるな」
「ふふん。でしょでしょ♪」
「大室もありがとな。いい店紹介してもらったよ。ここなら会社帰りに寄れるな」
母さんも仕事で遅い時あるし一人の時はここで食べてくのもありだな。
本当大室とは味の好みがあうのか今のところ外れが無いな。
「ふふ 元気になったみたいだね」
「あ、、、、」
そういえば・・・大室に会うまでは香苗の事で嫌な気持ちでいっぱいだった・・
美味しいもの食べて、大室と楽しく話して、いつ位の間にか笑ってたな僕。
「大室は・・・理由とか聞かないんだな?」
「聞いて欲しかった?話したくないこととかもあるかなぁ~と思ったんだけど」
「・・・ありがとな気を使ってくれて」
「いえいえ♪これ位"先輩"ですから」
「そういえば先輩だったな。ありがとうございます大室"先輩"」
「あ、なんだかその言い方 む~か~つ~く~」
「ははは」
そうだよな。今の僕には大室って頼もしい仲間が居る。
それに信頼できる有坂や鶴間っていう友人も居る。
大丈夫だ。
香苗にも言った通り彼女との恋はもう終わったんだ。
楽しい飲み会は終電間際まで続き大室とは駅前で別れた。
「じゃね渋沢君」
「ああ、今日はありがとうな大室!」
本当にありがとう・・・
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