第14話 好きだった人 -上原香苗視点-
渋沢君が1人カフェを出ていく。
「やっぱり振られちゃったか・・・まぁそうだよね」
渋沢君が帰ってしまったので私は1人お店に取り残される形となった。
もう一度やり直せないかって・・・そりゃ無理だよね。
私はテーブルに突っ伏した。
「はぁ~ やっぱり私性格悪いわ・・・本当自分が嫌になる」
--------------------
彼と出会ったのは学生時代の文芸サークルだ。
自分で言うのもなんだけど私は見た目には自信がある。
ただ、人見知りで人付き合いが下手。尚且つ口下手で口調もキツめ。
正直男性が好むようなかわいらしい女じゃない。
高校時代は見た目だけで告白され彼氏が出来たこともあったけど性格が災いしてかあまり長く続いたことはなかった。
そして、大学に入ってからもモテはしたけど結局特定の人は出来ず、その内"高嶺の花"とか持ちあげられて皆私を遠巻きに見るだけとなってしまった。
そんな中、渋沢君は私の事が好きだと告白してくれた。
正直なところ私は渋沢君の事は名前くらいしか知らなかったし、恋愛感情もなかった。
でも"優しいし今までに付き合ったことが無いタイプだったから"とか偉そうにモテる女を演じ付き合うことにした。まぁ告白してくれたことが素直に嬉しかったんだよね。
渋沢君も凄く喜んでくれたな。
渋沢君にとって初カノとか言ってたしエスコートは上手くなかったけど、私もそれ程経験豊富というわけでもないので一緒に過ごす時間はそれなりに楽しかった。
私の素っ気ない態度や無茶な注文にも一生懸命に応えてくれたし、本人には言わなかったけど過去のどの彼氏よりも付き合いは長く続いていた。
軽い気持ちで付き合い始めたけど私もだんだん彼に惹かれていった。
でも、大学3年となり就職活動が始まるとお互いすれ違いが多くなり、会える時間も少なくなっていった。
就職も私の方が先に決まった。
渋沢君も成績は良かったし内定も取れてはいたようだけど色々とこだわりがあるらしく中々就職先が決まらずに会えない日が長く続いた。
寂しい思いと共に私の事を放置気味な渋沢君に苛立ちも感じていた。
そんな中、私は就職先の研修で指導員をしていた三島さんと出会った。
相変わらずの人見知りで、同期に馴染めなかった私の事を優しくフォローしてくれたんだ。
チョロイ女と思われるかもしれないけど渋沢君とも疎遠気味で寂しい思いをしていた私が好意を持つには十分だった。
優しい大人の男性。
研修の期間中私は三島さんに仕事の相談や時にはプライベートの話までして、すっかり仲良くなっていた。口下手な私にしては上手く会話も出来ていたと思う。
ただ、彼を好きになるという事は私の事を好きと言ってくれた渋沢君を裏切ることにもなる。
色々と悩んだけど、私は三島さんを選んだ。
二股みたいなことだけはしたくなかったから渋沢君には私から別れを告げた。
でも、私としては渋沢君とは友達としてこれからも関係は保ちたかったから
「とにかく縁を切るとまでは言わないけど、今日からは普通に大学時代の"お友達"って事でお願いね」
なんて、言ったけど・・・都合のいいだいぶ上から目線のセリフだよね。
その後も渋沢君の言葉に反応して色々言っちゃったし・・・私を嫌いになるのは当然としても渋沢君を傷つけちゃったよね。
凄く辛そうな顔をしていた。
--------------------
そして、研修が終わり私も正式に部署に配属された。
運よく三島さんの居るグループに所属されたけど・・・着任と同時に三島さんの婚約の噂を聞いた。
同じ部署に居た同期の女性と結婚するんだそうだ。
ショックだった。
部署に配属されたら私から告白するつもりだったのに。
私は自分から告白したことはなかった。
いつも告白される側だったし上手くいくものだと勝手に思いこんでいた。
結局、優しくされて私が勝手に一人で舞い上がってただけだった。
三島さんはただ人見知りな新入社員である私に優しくしてくれただけ。
それからの私は三島さんに気持ちを悟られないように接した。
先輩と後輩。変に気を使わせるわけにはいかない。
だって三島さんは何も知らないんだから。
そんな中、あの日偶然の再会。
私は今更ながらに渋沢君とまた昔みたいな関係に戻れないのかと思ってしまった。渋沢君は優しいし傷付けてしまったことをきちんと謝罪すれば許してくれるんじゃないか・・・・我ながら甘い考えだよね。
だから、"話したいことがある"とメールしてしまったんだ。
正直なところ無視されると思ってたんだけど渋沢君は私に会ってくれた。
だけど、再会した渋沢君は"もう怒ってない"と言いつつも目は笑ってなかった。
そうだよね。やっぱり許せないよね。
だったら・・・もう私に優しくなんかしないで欲しい・・・忘れて欲しい。
そうじゃないと私はこの先も渋沢君の優しさに甘えてちゃうと思うし、渋沢君もきっと先に進めない。
だから・・・私は"敢えて"渋沢君が嫌がりそうなことを言った。
「・・・あのさ・・・・私たちもう一度やり直せないかな?」
何言ってるんだって顔で私を見る渋沢君。
思った通り渋沢君は怒り口調で私を問い詰めてきた。
それに三島さんの事も聞いてきた。
まさか結婚指輪の事に気が付くとは思わなかったけど三島さんは悪くない
余計に渋沢君を怒らせてしまったみたいだけど私は彼の事は話さなかった
そして・・・
「さよなら上原さん」
渋沢君はそのまま帰ってしまった。
当然だ。私でもあんな無神経なこと言われれば怒るよ。
嫌な思いさせちゃってごめんね。
でも今度こそ本当のサヨナラだね。
でもこれでいいんだ。これで彼は私の事を嫌な女としてもう優しくなんてしてくれないだろう。
それに・・・もう会ってすらくれないと思うしきっと私の事も忘れてくれる。
お蕎麦屋で渋沢君と一緒に居た女性。
私と違って表情が豊かで可愛かったな。
渋沢君は"同僚"って言ってたけど、渋沢君凄く優しい目で彼女の事を見てた。
今は同僚なのかもしれないけど渋沢君にとって大切な女性なのかもね。
多分・・・私との事に区切りがつけば・・・
・・・これでいいんだ。これで。
*****************
2020/6/7 後半部分を一部改稿しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます