第15話 好きだった人 -大室小春視点-
前の14話も少し改稿しました。
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「はぁ~ 楽しかった」
私は家に着くと着替えもせずにベッドにそのまま横になった。
『まさか帰りに渋沢君に会うとは思わなかったなぁ』
ただ、何となく聞かないでおいたけど会ったとき渋沢君は辛そうな顔をしてた。
多分・・・元カノさん絡みだよね・・・こういうときの私の勘って結構当たる・・・・やっぱり忘れられないのかな。
「渋沢君・・・」
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彼とは中学1年の頃からクラスが一緒だった。
と言ってもほとんど会話したこともなく中学3年の夏までその存在を意識したことすらなかった。
あの夏の日、私はバスケ部が大会で敗退し暗い気持ちになっていた。
前の日に行われた県大会準決勝。私のせいで負けたからだ。
試合終了直前。
1点差で負けていた私達川野中は最後の攻撃に出てシュートチャンスをつかんでいた。このシュートが決まれば逆転できる。
フリーになった私は瑞樹からのパスを受けシュートを放った。
でも・・・ボールはリングに弾かれた。
『小春が気にすることないよ。あの距離じゃ仕方ないし・・』
みんなは慰めてくれたけど私は涙が止まらなかった。
翌日。
気持ちの整理がつかないまま私は学校に来ていた。
正直辛くて気を使って話しかけてくれている瑞樹の言葉も頭に入らなかった。
そんなとき
「はぁ・・・もうダメかも」
いつも明るい有坂君が珍しく弱音を吐いている声が聞こえた。
そういえば、テニス部も昨日敗退したって千歳が言ってたっけ。
有坂君って確かキャプテンだったから責任感じてるのかな。
『辛いよねやっぱり。。。』
と思っていると有坂君に話しかけ慰める声が聞こえた。
「お前、3年になってキャプテンになってから遊びに行く時間も削って練習してたじゃん。自分に出来ることはやったんだろ?県予選3回戦だって十分な成績だよ。誰もお前の事責めないしもっと自信持てよ!」
「そうだな・・・ありがとな開成」
『自分に出来ることはやったんだから・・・自信を持て・・・か』
何だか自分に言われている様な気がして、つい有坂君に話し掛けていた人を見てしまった。
『渋沢君・・・だっけ』
話をしたことはなかったけど同じクラスに居たことくらいは知っていた。
有坂君と仲が良かったんだ。
この時はその程度の認識だったけど渋沢君の言葉には私も救われた気がした。
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そして、川野辺高校に入学。
私にしては結構勉強頑張ったと思う。
もちろん幼馴染の瑞樹と栗田君も合格した。
新学期を迎え瑞樹は当然の如くバスケ部に入るって張り切ってたけど私は正直悩んでいた。
中学最後の大会の事が・・・やっぱりまだ気になっていたんだよね。
実際、それ以外にも伸び悩んでいたこともあったし、いい機会だからバスケを辞めて軽音部にでも入ろかなとか思ってた。
文化祭でバンドやった時凄く楽しかったから。
スポーツしてる時とはまた別の爽快さがあるというか・・・
もっとも瑞樹と一緒に行った部活見学で、中学時代にお世話になった綾子先輩や楓先輩に会って話をしていたら何だかまたバスケがやりたくなってバスケ部に入っちゃったけどね。
でも・・・あの時バスケ部に入ってよかった。
色々な出会いもあったし・・・渋沢君とも仲良くなることが出来た。
あれは2年生の夏休み。
有坂君と栗田君の企画でテニス部とバスケ部合同でバーベキューを行った。
あの時は部員の友人にも声を掛けて構わないって事だったから有坂君の彼女の山下さんや友人として渋沢君や太田君、それに他校に行った鶴間君、それにテニス部を辞めていた栗平さんも参加していた。
バスケ部の方も森下学園の人とかも来てたし結構な規模の集まりだった。
河原でみんなでバーベキューを楽しみ、その後は水遊びしたりゲームしたり、暗くなってからはみんなで花火もした。本当楽しかったな。
ちなみにこの日は校外のイベントということで、私は動きやすい服装をしながらも珍しくイヤリングとか付けてちょっとお洒落をしていた。
誰かに見せたいとかってわけじゃなかったけど瑞樹とか若菜ちゃんとか普段からお洒落で可愛かったし、いつも羨ましく思ってるところもあったんだよね。
ただ、そのイヤリングがきっかけて渋沢君と話をすることが出来た。
バーベキュー序盤。世話焼きな性格の私は特に頼まれたというわけでもないんだけど焼けたお肉や野菜を配ったりと裏方仕事をしていた。
その際に私はイヤリングを片方落としてしまったらしく、皆が水辺に移動して楽しそうにしている中、河原でイヤリングを探していた。
その時にイヤリングを見つけてくれたのが渋沢君だった。
渋沢君は有坂君や若菜ちゃんと一緒に水辺に居たんだけど私に気が付いて探すのを手伝ってくれたんだよね。
お礼を言いながら何となくな流れで2人で色々と話をした。
(というか・・・この集まりカップル率が高くてさ・・・)
普段のイメージで勝手に暗い感じの人かと思ってたけど、話題も豊富で私の話も真面目に聞いて返答してくれるし話していて本当に楽しかった。
そして、その日以来学校でもよく話をしたり、渋沢君お勧めの漫画や小説を読んだりと結構仲良くなった。
まぁ漫画に関しては嵌り過ぎて自分でも色々と新規開拓しちゃったけどね。。。
それにあまり人には言えないけどクラスにいた同じく漫画が好きな子と仲良くなって一緒にコスプレ的な事もしてしまったり・・・楽しかったけどある意味黒歴史かも。
でも・・・多分。
あの頃の私は渋沢君の事を好きだったんだよね。
渋沢君と一緒にいると楽しかったし気持ちが安らいだ。
瑞樹からは"告白しちゃいなよ"とかよくからかわれてたけど・・・結局あの頃は自分の気持ちがよくわからず想いを告げることもなく高校を卒業した。
だけど、あの時はそれで納得していた。適度な距離感も心地よかったしね。
そして、その後は特に連絡を取り合うこともなく・・・
だから、4月に会社で渋沢君に再会したときは本当驚いたし嬉しかった。
それに再会した渋沢君は、前と同じく真面目で優しくて、ちょっと不器用で・・・変わってなかった。
「好きだった・・・今でもやっぱり好きなんだろうな私」
でも・・・渋沢君は元カノさんの事もあるし・・・私の事・・・・どうなのかな
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