第5話 川野辺の町①

大室の家に泊まったあの日。

結局朝食の後も昔話で盛り上がり僕は昼過ぎに自宅に戻った。

大室とあんなに話をしたのって高校時代を含めても初めてかもしれないな。




そして翌週。

僕と大室は午前中に本社でミーティングに参加した後、川野辺駅に来ていた。

今日はスポンサーへの挨拶と実際に街を歩き取材を行う予定となっていた。


「まずは、駅前商店街の組合事務所だっけ?」

「うん。今回のメインスポンサーだからね。ちゃんと挨拶しておかないと」


今回のタウン誌のスポンサーは、川野辺駅前の商店街組合がメインスポンサーとなっていて、後は地区の町内会やバス会社、鉄道会社などが個別支援してくれている形だ。こういう雑誌ではスポンサー次第でページ数や取材の内容にも大きな影響が出て来るので挨拶やコミュニケーションは大切なんだそうだ。


ということで僕らは商店街中程にある組合事務所を訪問した。


「いや~お待ちしてました。商店街組合にて理事をしている堀内と申します」

「よろしくお願いします。横川出版で今回川野辺版のタウン誌を担当させて頂く大室と渋沢です。今日はお忙しいところお時間頂きありがとうございます」


理事というから結構年配の人が来るのかと思っていたら意外と若い方が応対してくれた。僕らとそれ程変わらない年齢じゃないかな。

後、大室は流石というかこういうの慣れてるんだな。

堂々としてる。こういう取材って相手になめられても駄目だろうしな。

でもあの堀内さんって人どこかで・・・


「ん?どうかしましたか?」


堀内さんの顔を見過ぎたのか僕に話が振られてしまった。


「あ、失礼しました。どこかでお会いしたことがあるような気がして。

 申し遅れましたが僕も大室も川野辺高校の卒業生なんです。もしかしたら先輩なのかなと」

「へぇ~ 2人とも川野辺高校の卒業生なんだ。じゃ僕の後輩ですね。

 何か部活とかはされてたんですか?」

「あ、私はバスケ部でした。渋沢君は・・・帰宅部だっけ?」

「失礼な・・・文芸部には入ってたよ。まぁほとんど帰宅部みたいなもんだけど・・」


「バスケ部か。じゃあ恩田や小宮ってわかるかな?あいつ等とは同級生で仲が良かったんですよ。それから文芸部だと小山内ってわかります?」

「え!恩田先輩の同級生の方なんですか!私恩田先輩が3年生で部長の時の1年で凄くお世話になりました。憧れの先輩です!」

「小山内先輩は知ってます。図書委員と兼部でしたけど文芸部にも所属してましたから。学内でも成績が上位だった方でよく勉強見て頂きました」


思いがけない展開になったけど、まさか知ってる先輩の同級生とは思わなかった。


「そうかそうか。あいつらの後輩か。こりゃきちんと協力してあげないと僕が叱られちまうな。あんまり無茶な依頼事じゃなければ何でも協力するから遠慮なく相談してくれ」

「「はい!」」


その後も和やかに談笑が進み。商店街のインタビューなどで僕らが各店に訪問することを組合店舗に周知してもらうお願いなどをして今日のご挨拶は終了となった。


「お疲れ様。緊張した?」

「まぁちょっと・・・でもまさか高校の先輩とは思わなかったね」

「うん。本当に驚いたよ。あそこで恩田先輩の話が出るとは思わなかった。

 でも渋沢君も良い感じに話し出来たよね。この先取材ってことで色々とアポなしで行ったりすることもあるから。今日みたいな感じでよろしくね♪」

「そっか。取材とかもするんだもんな」

「そいうこと。とりあえずちょっと休もうか。私も疲れたよ」


ということで僕らは駅前の喫茶店「ラウム」に入った。

ここの喫茶店もずいぶん昔からあるよな。


「う~ん やっぱりこの店は落ち着くわぁ」

「何かこの店に思い入れとかあるのか?」


確かに昔からあるお店ではあるけど。


「高校の頃にバスケ部の先輩の紹介でバイトしてたんだよ」

「へぇバイトしてるとは聞いてたけど、ここでバイトしてたんだ」

「ふふ そうなのですよ。そっかバイト先は知らなかったかぁ~。

 "当時の渋沢君"は私の事とかあんまり興味なさそうだったもんねぇ」

「え、いや そ そんなことは無いけど、女子のバイト先とかあんまりプライベートな事とか聞いたら駄目かと・・・」

「ふふ そういうことにしておいてあ・げ・る。渋沢君って真面目だったもんね。

 でも"今の渋沢君"は私に興味あるのかなぁ~」

「え! それってどういう」

「ふふ冗談よ。でも私はここでバイトしたおかげで料理とかも上達したし美味しいコーヒーの淹れ方とかも覚えたんだ。思い出の店だよ」


心臓に悪いから冗談でもあんまりからかわないで欲しいな・・・

でもこの店でのバイトの思い出か・・・いいなそういうの。

僕もバイトはしたけど接客業とか無理そうだったから工場で荷捌きのバイトとかやってたもんな・・・


「そういえば、大室は川野辺にはいつ頃まで住んでたんだ?」

「私?高校卒業してから1年は住んでたよ。その後は今の出版社に入社したから横川の方に引っ越しだんだ。

 私さ、弟と妹が居て家もそんなに広くなかったから一人の時間とか中々作れなくて早く家を出たかったんだよね。だから、高校出た後は瑞樹のお店でバイトさせてもらって資金稼いで就職と同時に独り暮らし始めたんだ。

 あ、ちなみに今住んでるのは二軒目の家だからね。最初済んだのは凄いボロアパートだったから・・・とにかくお金なくてさ」

「そうなんだ。いいな独り暮らし。僕も憧れるよ」

「・・・独り暮らしって自由で楽しいけど時々寂しくなる時はあるよ。あ、渋沢君は実家なんだよね?」

「そうだよ。僕は大室の逆っていうか一人っ子でね。小さい頃に親父を交通事故で無くしてるから母親が1人で僕を育ててくれたんだ。だから生活にあんまり余裕がなくて・・・。大学も奨学金で行ってたしバイト代とかも家計に居れてたりしてたから独り暮らしは出来なかったんだよね」

「そうなんだ。大変だったんだね」

「・・・生活も余裕はなかったけど、小さい頃は学校がきつかったな。父親が居なかったせいで、よくからかわれてね・・・ちょっとしたトラウマだよ。子供ってそういうの容赦ないからさ。

 ただね、そういう時に僕の事を毎回庇ってくれたのが有坂なんだよ。昔から変にカッコいい奴で。あいつとは何だかんだそれからの付き合いだ。恥ずかしいから面と向かって言ったことは無いけどあいつには感謝してる」

「そっか 本当にいい奴なんだね」


いつの間にか昔話の時間になってしまったけど、この後はコーヒー1杯とお店にはありがたくない客になりながら、1時間ほどお店で打合せを行い僕らの母校でもある川野辺高校に話を聞きに行くこととなった。

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