第11話 好きだったあの子①
翌日。
午前中の定例ミーティングで昨日の取材結果と今後の予定を報告した後、僕は昨日と同様に大室と昼食を食べるため横川の商店街を歩いていた。
「今日は何食べたい?」
「う〜ん。何かお勧めある?」
「そうねぇお手軽にパスタとかはどう?私がよく行く店があるんだけど」
「おっいいね。最近パスタ食べてないからな。そこにしよ!」
「オッケ〜じゃこっちね」
と大室は商店街の脇道に入り奥へと進んでいった。
車も通れない様な細い路地。
そして、数分歩いたところで壁面をシダで覆われたレンガ作りの家?にたどり着いた。商店街を離れ周りに住居が立ち並ぶ中で少々異質な建物だ。
「ここだよ」
「よく見つけたなこんなところ」
「商店街の人の口コミってやつね。前に取材してる時に美味しいイタリアンのお店ってことで聞いてたらここに行き着いたの。地元民の隠れ家的な店って感じかな」
「へぇ〜 でも雰囲気良さそうなぶん値段とか高く無いのか?」
「大丈夫だよ。結構リーズナブルで私もよくきてるから」
と話しながら店内に入った。
店内は意外と広かったけど、ほぼ満席で中々に活気のある様相となっていた。
なんというかイタリアンと言うよりは大衆食堂な感じだ。
「おっ 小春ちゃんじゃないか!いらっしゃい」
「こんにちわ〜 2人だけど席空いてますか?」
「 席なら奥が空いてるから適当に座ってくれ!隣は小春ちゃんの彼氏さんか?」
「か 彼氏じゃないです まだ・・・会社の同僚ですよ」
「ほぉ〜 じゃそういういうことにしとくから座って注文してくれや」
40代後半くらいだろうか?コック帽かぶってるし店長さんとか料理長さんとかなんだろうけど大室と親しげに喋ってるな。
「あの、大室。今のって」
「あ、ごめん嫌だったよね彼氏とか言われて。あの人はこの店のオーナー兼料理長の須賀さんって人。前にタウン誌の取材で仲良くなってね。来るたびにからかわれて・・・」
「彼氏?あ、そういえば言われてたね・・・僕は気にしないけど」
「え?そうなの。じゃこの店に来た時は恋人同士って事で良い?」
「え!それって」
「う 嘘 冗談よ」
「驚かせるなよ〜」
大室って時々本気なのか冗談なのかわからない様な事言うからなぁ
あんまり言われてると僕も本気にしちゃいそうだよ。
その後、大室オススメのミートソースとボンゴレを注文し大室とシェアしながら食べたけど、大室が常連になる気持ちがわかるくらい本当に美味しい。
パスタ麺も生麺を使っているのかもちもち感があり、ミートソースやボンゴレも絶妙な味付けで結構ボリュームがあったけどもう一皿くらい食べれちゃいそうだ。
カルボナーラやジェノベーゼも美味しいらしいので、次来るのは確定だな。
満足のいく昼食をとり食後のコーヒーを飲んでいると大室が有坂達のことを話してくれた。
「そういえばこの間、若菜ちゃんから電話があったんだけど、有坂君に告白してまた付き合うことになったらしいよ。ありがとうって」
「そっか。有坂は山下のこと許したんだな」
「うん。若菜ちゃんも言ってたよ。許してもらえるとは思ってなかったけど後悔したくないから告白したって。だから、これからは有坂君の気持ちに報いることが出来るように頑張るんだって」
「そっか。山下も苦しんでたんだもんな。でもその気持ちも考えて許してあげられる有坂ってやっぱり凄いわ・・・」
「渋沢君だったら許せなかった?」
「わからないな・・・5年近い時間があったから有坂も許せたのかもしれないけど・・・僕は香苗に謝罪されて復縁できるかって言われると・・・。
まぁ僕と有坂じゃ状況も違うけどね」
「う〜ん まぁいいんじゃない。人それぞれだし。それにあの2人も今は復縁して幸せかもしれないけど、もう大人だしこの先は2人の努力次第だろうしね」
「そうだな。付き合うことがゴールってわけじゃないもんな」
「そういうこと。もちろんこの先も幸せにはなって欲しいけどね。
あ、そろそろ戻らないと昼休み終わっちゃう」
「お、あぶない、早く戻ろうぜ」
店を出て事務所に戻るとちょうど昼休み終了の時間だった。
午後は打ち合わせが入っていたから危なかった・・・
「渋沢君って午後はデザイナーさんと打ち合わせだっけ?」
「ああ この間紹介してもらった吉田さんと打ち合わせだよ」
「だよねぇ〜 本当は一緒に行ってあげたいんだけど、私もこの後は都内でクライアントと打ち合わせなんだよね」
「仕方ないさ。新人の僕と違って大室は3年目の中堅どころなんだから仕事も多いだろ」
そうなんだよな。今日はこの後タウン誌の構成やデザインの打ち合わせがある。デザイナーさんとの顔合わせや大まかな構成説明は終わってるけど、まだまだ不安はあったりする。
正直なところ大室にも来て欲しいところだけど、いつまでも大室に頼ってばかりはいられないから1人でなんとかしないと。
「ほんとうごめん!わからないことあれば遠慮なく電話してきていいからね!」
「大丈夫だって(多分・・・)」
「じゃさ、その、お詫びと言ってはなんだけど、今日の夜飲みにでも行かない?」
「え?今日」(今日は・・・)
「・・・都合悪い?」
「ごめん。今日はちょっと先約があって」
「そっか。じゃ仕方ない。また今度誘うから飲みに行こうね」
「ああ!」
その後横浜市内のデザイナーさんの事務所にて無事打ち合わせを終えることが出来た僕は、大室に何となく罪悪感を感じながらも香苗と約束した横浜のカフェへと向かった。
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