第10話 会いたいらしい

美味しくお昼にお蕎麦を食べた日の午後。

大室は別の打ち合わせがあるということで、僕は1人で川野辺の堀内さんとの打ち合わせに向かった。今日は取材するお店を紹介してもらうのと堀内さんのインタビューが目的だ。


「今日はよろしくお願いします」

「おぅなんでも聞いてくれ!」

「それでは早速・・・」


という事で考えてきた質問事項についてインタビューさせて頂いた。

ありきたりだけど、商店街の魅力や将来の展望、近隣のショッピングモールとの差別化など商売に関わる話から、堀内さん個人に関する話など結構な取れ高の取材を行わせてもらった。


「どうもありがとうございました。今日のインタビュー記事は原稿がまとまったらメールさせて頂きますので確認お願いします」

「ああ、よろしくな。で、今日は後何をすればいいんだっけ?」

「はい。紙面に掲載するお店についてですかね」


今回は見開き2ページを使って、堀内さんのインタビュー記事を載せるんだけど、それ以外に商店街のお店を数件紹介することとしていた。

僕や大室で掲載する店を決めてもいいんだけど、一応不公平にならないように堀内さんに掲載を希望するお店を聞いてもらっていたんだ。


「そうだったな。掲載の希望は結構あったんだけど、初回だし君達が話やすそうなお店を選んでみたんだけどどうかな?」


と僕にお店の情報が掛かれた資料を渡してくれた。


「喫茶店ラウム、レストラン フルール、村田酒店の3店ですか?」

「ああ。そうだ」


確かにどれも聞いたことある名前の店だ。


「フルールは商店街からは少し離れてるけど組合には入っててな。確か君達の同級生の実家だろ?鮎川さんだっけ?

 それとラウムは駅前にある喫茶店で、川野辺高校の学生が多くバイトしているから話しやすいだろうし高校生の視点で情報とかも聞けるかと思ってな。

 最後の村田酒店は老舗の酒屋さんだけど長女の綾子ちゃんは確か大室さんの部活の先輩だろ?僕も小さい頃から知ってるけど、君たちが来た次の日に大室さんから話を聞いたって会いに来てくれてな。協力するからなにかあったら連絡くれって」

「そうですか。何だかそう言ってもらえると心強いし嬉しいですね」

「地元初の情報誌だし皆期待してるのさ。それに編集が川野辺高校の卒業生だとしたら応援したくもなるさ」

「ありがとうございます。期待に沿えるよう頑張ります!」


堀内さんに見送られ商店街の事務局を出た僕は、紹介してもらった店の1つ喫茶店「ラウム」に向かった。

ついこの間大室と入った店だけど今日は取材だ。


[カランコロンカラン]

「いらっしゃいませ~」


店に入るとかわいらしい制服を着た店員さんが出迎えてくれた。

あらためて見ても落ち着いたいい雰囲気の喫茶店だよな。

重厚で落ち着いた雰囲気の店内は今時のチェーン店には無い良さがある。


「すみません。横川出版の渋沢と申しますが、商店街の取材でマスターにお話をお聞きしたいのですが」

「え!雑誌社の方?ちょ ちょっとお待ちくださいね」


僕はとりあえず出迎えてくれた店員さんに挨拶をして店長さんを呼び出してもらうと思ったわけだけど、取材という言葉に慌てたのか店員さんは慌ててバックヤードに走って行ってしまった。


「店長代理!早く来てください雑誌のインタビューらしいですよ!」

「何?取材?うちの店にか?」


何やら大騒ぎになってるな・・・

そして、少し待っていると先程の店員さんが、若くて背が高い男性を連れて戻ってきた。


「はじめまして。店長代理の長谷部誠です」

「はじめまして。横川出版の渋沢です。商店街組合の堀内さんに紹介を受けてお邪魔させていただきました」

「堀内さんってことは、タウン誌の件か!雑誌の取材っていうからなにかと思ったよ。

じゃあ君が川野辺高校の卒業生なのかな?」

「はい」

「了解だ。できる限り協力させてもらうよ。じゃ奥の席で話しようか」

「よろしくお願いします」


話を聞くと長谷部さんは僕の1つ上の先輩でバスケ部にいたそうだ。

横浜市内の大学に進学後、食品関連の企業に就職し、空いた時間や休みの日は店長代理としてお店に出ているとのこと。

いずれはお店を継ぐ予定だとか。

もちろんバスケ部所属で店でもバイトしていたという大室のことも知っていたし、男子バスケ部ということで栗田のことも知っていた。

色々と昔話に脱線しながらもお店の名物メニューや展望、バイト募集の話など、雑誌に掲載する情報も色々と仕入れることが出来た。

ちなみに最初に案内してくれた女の子も川野辺高校のバスケ部員だそうだ。


「今日はありがとうございました。インタビュー記事は後程メールで送らせていただきますので確認をおねがいします」

「よろしくな!」


インタビュー後、美味しいコーヒーを頂き喫茶店を出ると時刻は17:00。

『今日はまだ早いし、インタビュー記事をまとめたいから一旦事務所に戻るかな』と駅に向かって歩き出すとスマホからメール着信の音が聞こえた。

目線をスマホの液晶に向けるとまさかな送信者名が表示されていた


『香苗から?』


別れてから特にメールも電話も来なかったからブロックはしてなかったけど今更何の用事だ?

慌ててメールを開くと『今日は久しぶりに会えて嬉しかった。良かったら明日の夕方会えないか?』という内容だった。


昼間は大室の手前、吹っ切れたといったものの・・・恋愛感情とは少し違うのかもしれないけど何処かまだ未練の様なものはあり気持ちが揺らいだ。

もっとも僕は振られたわけだし今更元の関係に戻るとか戻りたいとかは考えてないけど。


それに"今更会えない"と言いたいところではあったけど、昼に一緒に居た人が香苗の想い人だったのかは気になった(あの人だとしたら・・・不倫になるよな)


悩んだ結果、僕は約3ヵ月ぶりに香苗と会う事にした。

場所は最後に会った横浜のカフェだ。

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