第7話 川野辺の町③
川野辺駅に着いた僕と大室は、佐々木編集長に今日の業務報告を行い夕方ということもあり直帰の連絡をした。
僕は川野辺在住ということでここで解散かと思ったんだけど
「ねぇ渋沢君ってこの後少し時間ある?」
「ん?ああ もう家に帰るだけだし時間なら作れるよ」
「じゃあさ、ちょっと付き合ってもらいたい店があるんだけどいいかな」
と大室に誘われ一緒にもう1軒店に立ち寄ることとなった。
踏切を渡り駅の北口側に出てターミナルを横切り川野辺の北商店街に入り少し歩いたところで大室が立ち止まった。
「村田酒店? 何か酒でも買うのか?」
「あ、ここ先輩の実家なんだ。ちょっと挨拶がてら話したくって」
大室って交友関係広かったから知り合いも多いな。
それに比べて僕って川野辺に住んでるのに知り合い意外と少ないかも・・・
仲良くしてるのって行きつけの弁当屋と本屋と床屋のおっちゃん達くらいか?
学生時代の同級生も有坂と鶴間くらいだよなやり取りがあるのって。
と大室が店の入り口で店員さんを呼びだした。
「すみませ~ん」
「は~い」
と店の奥からエプロンを着けた20代半ばくらいの女性が出てきた。
「え~と 何でしょうか? ってもしかして大室ちゃん?」
「久しぶりです綾子先輩!」
「え~ なに どうしたのよ急に!!」
「ちょっと仕事で近くに来たのでご挨拶にと」
「うわっあの大室ちゃんがそんな大人な対応を!!」
「せ・ん・ぱ・い・・・私だってもう社会人そこそこ長いんですからね!」
「ごめんごめん。ところで後ろの彼はもしかして大室ちゃんの彼氏?」
「え、あの、僕は職場の同僚で、高校の同級生で・・・」
ちょっとしどろもどろになってしまったけど、その後上手く大室がフォローしてくれて僕の事やタウン誌の事を説明してくれた。
この人は、さっきの楓先輩と同じくバスケ部時代の人で、中学時代からお世話になった尊敬する先輩との事だ。
「なるほどね。そんな雑誌が出るんだ。うちも載せてくれるならいい宣伝になるわね」
「はい!商店街組合の堀内さんには話をしてあるのでその内取材の件とか話も来ると思います。その際は是非ご協力お願いします」
「うん。わかった。でも大室ちゃんが出版社で仕事するようになるとは思わなかったなぁ」
「意外と楽しいですよ。こう見えて本とか読むの好きですし」
「ふふ そうだったわね。あ、ところで今日って時間ある?うち最近倉庫を改装して立ち飲み屋始めたのよ。良かったら少しどう?奢るわよ」
「え!いいんですか?じゃお言葉に甘えて」
大室は綾子先輩って人と飲むみたいだし僕は帰ろうかな~
と店を出ようとしたところ
「渋沢君だっけ?何やってるの?もちろん君も飲んでくでしょ?
まぁ~さか先輩のお誘い断って帰ったりはしないわよね~」
「はい。。。飲ませていただきます」
見た目可愛い感じの先輩なんだけど・・・何か迫力あるなこの人。
断れない空気だったよな今の。
と店の奥の扉を入るとカウンターに立ち飲み用のテーブルが数個並べられた居酒屋スペースがあり、既に数人の人がお酒を飲んで楽しそうにしていた。
お店で取り扱っているお酒は基本全種類飲めるらしく珍しい日本酒やビールも飲めるということで近隣の酒飲みには結構人気らしい。
思わぬところでという感じだけど、タウン誌の記事に隠れ家居酒屋ということで載せるのにいいかもしれないな。
「おっ綾子ちゃん!今日も綺麗だね。おっちゃんと飲まない?」
「はいはい。そんなこと言ってると奥さんに言いつけますよ」
綾子先輩は、声を掛けてきた酔っ払いのおっちゃんを軽くかわしてカウンター奥に居る若い男性に声を掛けた。
「太一ちょっといいかな?」
「ん?なんだ綾子」
「あ!!福島先輩!」
「あれ、大室さんじゃないか。久しぶりだな」
「大室?この人もバスケ部の先輩?」
「うん。男子バスケ部の部長だった福島さん。で、綾子先輩の彼氏さん」
へぇ~綾子先輩って綺麗だもんな。やっぱり彼氏さんとかいるんだ。
っていうか高校の同級生同士で卒業してからもずっと付き合ってるのか。
なんかいいなそれ・・・僕の高校時代は女っ気なかったもんな。まともに話してたのって大室と山下と栗平くらいだよな多分。
「あ、はじめまして。僕は渋沢開成と言います。高校時代大室さんの同級生で、今一緒の職場で働いていて」
「どうも はじめまして福島太一です。大室さんと同級生で同じ職場か。不思議なめぐりあわせだな」
「はい 僕も入社して驚きました」
何だか話しやすい優しい感じの人だな。
「ということで、大室ちゃんとの再会と渋沢君との出会いを祝して奢っちゃおうかと思うんだけど、太一のセレクトでいいから何か見繕ってくれないかな」
「おっ!そういうことか。2人共日本酒とか大丈夫か?ちょっと知り合いから仕入れたばかりのお勧めがあるんだけど」
と福島さん。後で聞いたけど酒屋で働くということで学生時代に日本酒やワインのソムリエ的な資格を取ったらしくお酒にはちょっとうるさいらしい。
「日本酒ですか!もちろん大丈夫です! 渋沢君も大丈夫だよね?」
「はい。大丈夫です!」
「よ~し 綾子の奢りみたいだし、お勧めを色々と持ってくるからたっぷりと飲んでってくれ!」
「「はい!」」
福島さんお勧めということもあり美味しい日本酒だった。
全体的に少し甘めで飲みやすく香りもさわやか。
アルコール度数は強そうだけど結構沢山飲めちゃいそうなお酒だから気を付けないとな。
この間は飲んで寝てしまい大室に迷惑かけたということもあり、この日は加減して飲んでいた。
が・・・今日は大室がつぶれてしまった。
久々に気心の知れた先輩方とあって油断したのか、酒屋を出たところまでは良かったんだけど、駅に着いたところで座り込んでしまった。
「お~い 大室 大丈夫か?水買ってこようか?」
「う~ん。全然大丈夫!酔ってないしまだまだいけるよ~」
酔っ払いの"酔って無い"宣言程信じられないセリフってないよな・・・
仕方ないか・・・このまま帰らせるのも危ないしな。
「大室、このまま帰るの危ないから、うちに泊まってけ」
「え~ 渋沢君エッチなことでするんでしょ!」
「しないって・・・それに母さんも一緒に住んでるんだから心配すんな」
「あっそっか~実家だもんねぇ~ じゃお言葉に甘えちゃおうかなぁ」
と了承を得られたので僕はしゃがんで大室に背を向けた。
「ん?どうしたの?」
「ほら、歩くの危ないだろ?おぶってやるから早く乗ってくれ」
「え~ 私って結構重いよ~ 渋沢君におぶれるの~」
「ぼ 僕だって男だし大室位大丈夫さ」
と言ってはみたものの結構心配だったりはする。
「じゃお言葉に甘えて んしょっ」
背中に重みを感じる。
ん。何とかいけそうだな。
思ったより体力あるな僕ってと思いながら、大室をおんぶして自宅に向かった。遅い時間の住宅街ということもあり辺りに人影はなく街灯の灯りだけの真っ暗な夜道。いつの間にか背中からは寝息が聞こえる。
『大室寝ちゃったんだな。相変わらず無防備な・・・』
にしても・・・思ったより大室は軽くておんぶするのも全然大丈夫ではあったんだけど・・・結構大きな胸の感触が色々とヤバかった。頑張れ僕の理性!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます