第8話 大室が家に・・・
川野辺駅の南口側に戻り、商店街の道を外れて住宅街に入る。
5分ほど街灯の灯りだけの暗い夜道の中を歩くと僕の家が見えてきた。
窓を見るとまだ明かりが灯っている。
『母さんまだ起きてるみたいだな』
築40年は過ぎているのだろうか。祖父の代から住んでる木造2階建ての古い日本家屋。母と2人で住むのは少々広過ぎる家だけど父との思い出が詰まったこの家を離れたく無いという母の気持ちを受けて今も住み続けている。
鍵を開け、僕が引き戸を開けると奥から母さんが出てきてくれた。
「おかえりなさい開成。今日は遅かったわね・・・って背中の女性は?」
まぁ驚くよな。遅い時間に息子が女性をおぶって帰宅したら。。。
「ただいま。同僚の子だよ。仕事でこの辺りに来たんで帰りに少し飲んだんだけど酔っちゃって・・・
駅まで行ったけど、電車に乗って自宅に帰るのも危なそうだったから今日はうちに泊まってもらおうかなって」
「そういう事ね。確かに酔っぱらった女性を一人で電車に乗せるのは危ないわね。あんたにしてはいい判断してるわよ。客間に布団と着替え用意しておくからお水でも飲ませてあげなさい」
「うん。ありがとう」
僕は大室をリビングまで連れていってソファの上におろした。
流石に少し疲れたけど頑張ったな僕も。
キッチンでコップに水を注ぎ、ソファにもたれながらまだ寝息を立てている大室に声を掛けた。
「ほら大室。そろそろ起きろ。水だよ」
「ん?渋沢くん?ってここ何処?」
寝ぼけているのか部屋の中を見回している。
「さっきぼくの家に連れてくって言っただろ?今母さんが布団用意してくれてるから少し休みなよ」
「え、あ、その・・・ありがとう。何だかごめんね。迷惑かけちゃって、こんなに酔うとは思わなかったんだけど・・・」
「まぁいいんじゃないたまにはさ。先輩達に会って気が緩んだんだろ。凄く楽しそうにしてたぜ」
「そ そう?そんなに楽しそうにしてた?」
「ああ なんていうかな・・・高校時代の大室みたいだったかな」
「高校時代?今の私と何か違うの?」
「う〜ん、何ていうかな変わらないって言えば変わらないんだけど、高校の頃の大室っていつも明るくて笑顔が可愛くて純粋にみんなと会話を楽しんでたっていうか・・・今日も先輩達と会って凄く自然体で楽しんでるように見えたんだよね。
今ももちろん楽しんでいるとは思うんだけど・・・そうだなこの間の編集長たちとの飲みもだけど何処かで気を張ってる様に見えてな。大室って結構周りに気を使う方だろ?ってどうした?」
と大室を見ると何故か耳まで赤くして俯いている。
「え笑顔が可愛い?・・気を張ってる様にって・・え、なに?渋沢君も結構酔ってる?」
「いや、僕はそんなに飲んでないから。酔ってないけど?」
「そ そういうとこ!う 嘘でも”酔ってるかな”とか言っとくの!」
「は はぁ」
僕何かまずいこと言ったか?
と考えていると支度が出来たのか母さんが部屋に入ってきた。
「あら、起きたのね。大丈夫?だいぶ酔ってたみたいだけど」
「あ、渋沢君のお母様ですね。大室と言います。夜分にご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません。高校時代の先輩に会ったのでつい飲み過ぎてしまって」
「ふふ 美味しいお酒だったのね。でも高校時代の先輩ってあなたもこの辺りの人なの?」
「はい。私も川野辺高校の出身で渋沢君とは同級生だったんです」
「開成の同級生って・・・有坂君と鶴間君、太田君以外にも友達が居たの!それもこんな可愛い女性と知り合いだったなんて!」
「いや・・・母さん僕にだって有坂達以外の友達居るって・・・」
まぁ確かにあいつら以外うちに来たことないし、あんまり母さんとの会話で話題に出したことないけどさ・・・
「あ、大室さん。お布団用意しておいたけど、どうするシャワーとか浴びる?後、着替えは私のじゃサイズ合わなさそうだから開成のTシャツとジャージくらいしか無いんだけど寝るならそっちの方が楽でしょ」
「はい。お借りします。後、シャワーもお借りしてよろしいでしょうか。結構汗かいちゃって・・・」
「ええ。遠慮しなくていいわよ。じゃこっちよ案内するわ」
「あ、開成。覗いちゃだめだからね」
「の 覗くか!」
と母さんは大室を連れて風呂場に向かった。
『誰が覗くかって・・・』
でも、変な感じだよな。同級生が家でお風呂入ってるとか・・・
それに・・・さっきおぶった時・・・あいつ胸デカかったな・・・
『いかん!あいつは仕事の相棒でもあるんだ。それに当分女性とは・・・』
「どうしたの開成?何だか難しい顔して」
「あ、母さん。ありがとな急に友達連れてきて」
「いいわよ。開成が女の子連れて来るなんてこの先あるかわからないしね」
「だ だから僕にだって女友達位・・・」
「はいはい。じゃ今度紹介してくださいね。でも今日の子も可愛いじゃない。お母さんは結構気に入ったんだけど。あんたはどうなのよ」
「え?あ あいつは仕事の相棒で・・・」
「ふ~ん」
ななんだよ母さんその目つきは・・・嘘はついてないぞ僕は・・・
とシャワーを浴びた大室がリビングに戻ってきた。
「シャワーさっぱりしました。ありがとうございます」
「あ、大室・・・・」
「ん?どうしたの渋沢君」
いや、さ、それ僕のTシャツとジャージなんだろうけどさ・・・
「・・・あ、そのTシャツもちょっと小さかったかしら」
「え、あ、大丈夫です。あとは寝るだけですし」
いや、大丈夫って胸の辺りがかなり盛り上がってるし、裾が持ち上がってお腹が少し見えてるし・・・
「じゃ 開成。あんた部屋に案内してあげなさい・・・襲っちゃだめだからね♪」
「お襲うか!」
「怖い怖い。お母さんも寝るからね。明日は土曜だけど7時過ぎには朝ごはん作るからちゃんと起きるのよ」
「わかったよ。おやすみ」
「はい。おやすみ。大室さんもゆっくり休んでくださいね」
「はい ありがとうございます」
「じゃ、大室こっちの部屋だから」
「うん。ありがとう」
「面白いお母さんだね」
「うるさいだけだよ」
「ふふ でも仲いいじゃん」
「まぁそれは否定しないかな」
僕は1階奥の部屋に大室を案内した。
「布団敷いてあるからこの部屋使ってくれ。トイレはさっき使った風呂場の横で、僕の部屋はこの部屋の向かいだから何かあったら呼んでくれ」
「ありがとう」
襖を閉じて客間に消えていく大室。
それを見送って僕も自分の部屋の襖を閉めた。
何だか今日は色々あったな・・・でも何となく紙面の構成とか記事のイメージも沸いてきた。来週大室と打合せだな。
・・・すっかり忘れてたけど大室の実家って川野辺にまだあるんだよな。
もしかしてうちに連れてこなくても実家に送ってけば良かったんじゃないか?
今更だけど・・・
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