第56話 拓朗の知的好奇心(?)

琴映に割と本気で殴られて意気消沈し、手に楽器を持ちながら、ヨタヨタフラフラと歩いていつもの席に到着した弘之は、「ふーっ。 フニフニとクマさん。」 と疲れた様に一つため息を吐きながら着席した。 

ちょっと変な一言が有る様な気もしないでも無いが……。


グリグリ。 グリグリ。


半分蕩け顔で半分落ち込み顔と言うヘンテコな態度で反省しているんだかしていないんだかわからない器用な顔をしている弘之。そんな弘之の左肩にグリグリと拳を回転させながら押し込んでくるような感触が伝わってくる。


グリグリ。 グリグリ。


「羨ましいなー。 はっしーはラッキーだなー。 なあ? 女の子のオッ◯イってどんな感触だった? 柔らかかった? 教えろよー。 このこのー。 グリグリー。 ウリウリー。」


本当に男子中学生のそっち方面の「知的好奇心」は旺盛だ。


気色ばった声と左肩の感触に弘之が横を向くと、 拓朗がニヤニヤとした笑みを浮かべながら下世話な質問をしてくる。


「はーっ。」


そんな拓朗を一瞥した後何も返事を返す事なく弘之はまた一つため息を吐いてまた下を向いた。

(それどころじゃないだよー。 琴ちゃんと仲直りするの大変なんだから。 大体さっきの事故の原因の一つには拓朗だって……。フニフニ柔らか肉まんだったけど……。)


「はーっ。」


この先の事を考えて弘之はもう一度深くため息を吐いてから左を向くと、いつの間にか座席に座っていた拓朗が大きく目を開いたニヤけ顔で手をgooっとしてサムズアップしていた。


拓朗の反応と今後琴映にどう対処して良いか分からず、すがるような目で右の姫乃先輩を見る弘之。 


姫乃はいつもと変わらず。 いや、いつも以上に優しい救いの女神様のような慈愛に満ちた笑顔で弘之を見るとその口を開く。


「うーん。 ひろっち。 流石に女の子的にあのフォローの言葉は無いと思うよ……。 お姉さんも擁護しずらいなー。 あはは。 まあ、頑張ってね♪ 」


しかし、一瞬の思考では救いの女神とさえ思えた姫乃の言葉と表情はそれとは程遠い感じだった。 がっくしorz


「フニフニ肉まん。 くまさん……。 」←?


そんな風に弘之が反省と「フニフニ肉まんクマさん。」ついて深く考えていると(割と軽い)

クマさんパンツ…いやクマさん部長の波瑠がいつも通りに音楽室の先頭に立ち始まりのミーティングを開始する。


「えーっと、ちょっと開始前にバタバタ……バタ子? としたけれど……。 今日はまだまだ新入生の基礎が出来ていないと思うので、取り敢えずは基礎練とこの前配った曲を元にした個人・パート練習にします。 1年生は先輩の言う事をよ〜く聞いて、2年は1年生の面倒をよ〜く見ながら、自分の練習もこなしてね。。 3年生の先輩方は……いる訳ないと……。 」


波瑠はいつものようにバタバタバタ子と今日の予定を身振り手振りで説明すると、最後に弘之を一瞥すると再び前を向くと言葉を付け加えた。


「それとくれぐれも、教室と廊下は走らない事。 特にはしもっちーとたくろーくんはね。 それじゃあ練習開始。 」


波瑠ことクマさん部長がパンッと手を叩いてミーティングを締めると、教室の皆んなが各々の練習を始めようとザワザワと動きだす。


拓朗はSAXパートの自席で「なんで俺まで怒られるのかなー。 」等とブツブツと言っている。


当の弘之は。 

「ク、クマさん部長に名指しで怒られた。 ガーン。 まあいいや(←)。 」と一瞬落ち込んだものの、直ぐに切り替えて。 と言うか諸々は面倒臭いから一先ず置いておいて、楽しい練習モードに入ろうとしていた。

「さあーって、今日も楽しい音楽の時間だ♪」


今日も「楽しい音楽の時間」が始まります。






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