第18話 壊れて出ない音がある?

「この楽器はね、結構高価で定価41万円だからぁ。ちゃんと気をつけてねぇ♪」


「定価41万円!?」

サラッと言った姫乃の言葉に弘之は驚愕し、いつの間にか楽器を持つ手はガタガタと震えていた。

それもそのはず、ついこの前中学生になったばかりの弘之にはその金額は想像すら難しいものであり、せいぜい「うまい棒と換算して」とか「月のお小遣い何ヶ月分だろ」と考えるのがやっとだったからだ。



そんな驚いている弘之を「ふふふ♪」と微笑み見ながら姫乃は続ける。


「まぁ、取り敢えず、吹いてみましょう♪私と同じ様に構えて息を入れて見てね。」


そう言うと姫乃はトロンボーンを左手で持ち、地面から水平よりやや下に構えて、右手でスライドの支柱を軽く握ると、マウスピースに口をつけて、音を出した。


「パァーン♪」


単音だが、澄んだ、とても響きのある金管の良い音が鳴る。


(あれー?入学式で聴いた時にはもっとこう、バリバリとした良く言えば大きい音、悪く言えばうるさい音だったんだけどなぁ。織絵お姉さんの演奏会で聴いた様な良い音だぞ。むむむ)弘之、耳は良いのである。※第5話参照


その音を聴いて疑問と好奇心からか、弘之の手の震えはいつの間にか収まっていた。

この部活について疑問は増えるものの、今は楽器を吹く方に集中しようと先輩と同じ様に楽器を構えてマウスピースに口をつけて息を入れてみる。


「フー、フー」


「あれ?音が出ないぞ…。先輩っ!これ壊れてます」

音が出ず楽器のせいにしようとする弘之。


「壊れてないわよっ♪貸してごらんなさい。」

そう言うと姫乃は自分の楽器を隣の椅子に置くと、弘之の楽器を手に取ってマウスピースを自分持っていたポケットタオルで良く拭くと、再び楽器を構えて音を出した。


「パァーン♪」

楽器の違いか、先程とは少し違うが響いた良い音が鳴る。


弘之は楽器が壊れて無かった事に驚きもしたが、自分の口をつけたマウスピースを姫乃が吹いたのを見て「あっ、間接キス…」と小声で呟いた。


姫乃はその声を聞いて「大丈夫よぉ、良く拭いたからぁ」(サラッと酷い)とニコッと微笑んで言うと、マウスピースをまたタオルで拭いて、楽器を弘之に渡してきた。

「はいっ、もう一度吹いてみてぇ」

そう言って姫乃は弘之に再度音を出す事を促す。



弘之はドキドキしながらも姫乃から再び楽器を受け取り構えてから、もう一度リコーダーの様に息を入れてみる弘之。

「フー、フー、フーーーーッ」


やっぱり音が出ない…。


音が出なくて焦っている弘之を姫乃は楽しそうにニコニコしながら見ている。

またも、おもちゃを見る様な目で…


「ふふふ♪お・と。出ないでしょお。出したいんだぁ。ねぇねぇ、出したいのぉ?」


最初に話した時と同じ様に煽る姫乃…。

そんな姫乃に弘之はまたも真剣な眼差しで姫乃を見て答える。


「出したいです!」


そんな弘之の真剣な態度に姫乃は(あーこれ、最初と同じパターンになるやつだー。勘違いして、もじもじしたら可愛いかったのに…)と考えて、おちょくるのを辞めて真面目に教える方にシフトする。

そう、姫乃は学習するとても頭の良い娘であった…笑


自分が発言してから姫乃が考える時間で、少しの間が空き、「また何かおかしな事言っちゃったかな」と思い首を傾げる弘之だが、姫乃はそんな弘之に微笑み、「じゃあ、まずマウスピースを外して、楽器を置きましょうかぁ。」

そう言って自分の楽器からマウスピースを外して、楽器を床に広げて置いてある楽器ケースの上に載せた。


弘之は何故楽器を吹くのにマウスピースを外すのか分からなかったが、姫乃に倣いマウスピースを外して楽器を楽器ケースの上に置いたのであった。















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