初心者練習編

第17話 合体!とろんぼーん

音楽室に戻る2人。

その短い移動の間にも姫乃は楽器倉庫での会話が無かったかの様に明るく振る舞いながら弘之に語りかけている。


「呼び名はぁ、橋本君だからハッシーにしようかぁ♪」

「ハッシーはネッシーみたいだから嫌です。」

そう弘之が答えると姫乃は足を止め唇に人差し指を当てて首を傾げて「ネッシー?」っとキョトンとした声で言った。

(何それ? 可愛い…美人は何をやってもお得だな! ずるいぞ、くーっ、くやじーっ)と口でハンカチの端を噛む妄想をする弘之…お前は男だろ。


姫乃はそんな妄想で顔が七変化してる弘之を見て「不思議な子だなぁ」と思いながら続ける。


「じゃーあ、えっと橋本君のー、名前はー、ひろ…ひろ…なんだっけぇ?」


(さっき自己紹介したけど、一度で名前覚えられる人もなかなかいないか)弘之はそう思いながらも直ぐに返した。

「ひろゆきです。先輩」


「じゃあ。ひろくん! ひろ君にしよう♪」

(ひろ君かぁ。ひろ君は織絵お姉さんに呼ばれたい名前No.1なんだけどなぁ。しかし美女のお姉さん2人からひろ君と言われるのもやぶさかでは無いぞ。これはあれか…ラノベとかで良くあるハーレム系か。ひろ君、ひろ君、むふふ♪ あと琴ちゃんが居れば最強だな。あれ、そう言えば琴ちゃんまだ来てないな…まっいっか、その内くるでしょ…)


「あの?橋本君…ニヤニヤしてるとこ悪いけど、もう着いたよ」

「えっ?ひろ君は…」

どうやらお姉さんハーレムを想像してニヤニヤしながらブツブツと呟いているうちに席についたようだ。

そして、何故か「ひろ君」呼びは無くなっていた…。何故だろう。


そうやって着いたのは先程姫乃が座っていた席だった。

パート毎に席が大体決まっていて、トロンボーンパートは音楽室に入って直ぐ右手、左手は校庭側窓際でそこに指揮台が置いてあり、其方を前とすると左後方、そこが所定の位置らしい。


席に着くと姫乃は、「よーし、じゃあ楽器出そうかぁ♪」と楽しそうに言った。


そう言われ、弘之が楽器ケースを見ると箱には「Bach」と書かれていた。

「ばっか?」「ばちゃ?」「ばあーち?」

等と弘之が首を傾げて唇に人差し指を当てて呟いている。←やめろ笑


「バックだよぉ」

姫乃がすかさず訂正する。

そう言われて「なる程」と納得しつつも、期待に胸をドキドキとさせながらケースを開ける弘之。


パカッ


ケースを開けて見るとなんと!!

トロンボーンが二つに分かれていた!!


「せ、せ、せ、先輩っ!トロンボーンが二つに分かれてます。」

大袈裟に驚く弘之に姫乃は、「分けないと入んないからねぇ。長いからぁ」と冷静に答えた…。


弘之はそんな当たり前の事で驚いてしまった自分に少し恥ずかしくなり顔を赤くしながらも「ですよねー。それで、ここからどうすれば…」っと姫乃に問いかける。


「えっとね…このスライドの部分をこっちのベルの部分に合体させるの」

そう言って細長い二本の金属棒を先端のU字にして繋げたスライド部分と工場の配管の様にグルグル巻きの管がついた朝顔状のベルを繋げる姫乃。

二つを繋げながらも注意事項を話している。


「その時にスライドはなるべく接続部近くの2本の支柱の方を待ってね。この上下二本の管が凹むとスライドの動きが鈍くなるから気をつけてね」


二つを繋げると繋いだとこに有るリングをグルグル回転させて固定する。


「はい、出来たー♪じゃあ取り敢えず持ってみよー」


そう言って姫乃がトロンボーンを渡してくる。

「あわわわ」

しかし持ち方が分からずオロオロする弘之…。


すると姫乃は自分の楽器を使って手本を見せてくれた。

「あのね、左手で鉄砲を作って…スライドの手前の方の縦の支柱を握るの。そうそう。親指はこのF管のレバーにかけて……右手はもう一個のスライドの支柱を持って……構えるの」


見よう見真似でやって見る弘之…なかなかサマになっている気がする。


「あ、そうそうここにスライドのストッパーが有ってコレをくるっと回すとスライドが動く様になるの。…ちゃんとストッパーがかかってない時は右手を絶対に離さないでね。絶対だよぉ」


(これはあれですかね…押すなよ、絶対に押すなよ。的なやつですかね)

などと弘之が考えていたら、姫乃に「押すなよ的なのじゃ無いからねぇ」とゆるーく注意されてしまった。今といい、さっきといいなんで心の声がダダ漏れなのだろうか…不思議。


そんな風に直ぐに変な方向へ妄想してしまいちゃんと聞いてるからわからない弘之少年に姫乃は念を入れてもう一度注意する。

言葉遣いはゆるーい感じだが真剣な顔で…


「ひろっちぃ、ちゃんと聞いてるぅ? この楽器はね、結構高価で定価41万円だからぁ。ちゃんと気をつけてねぇ♪」



そんな姫乃のサラッと出た言葉に弘之の頭はショートしそうになる。


(まてまてまてまてーぃ! ちょっと情報量が多すぎやしませんかね? 姫乃先輩!

ひろっちって! …まぁそっちはいいや! 良くないけど! それより定価41万円!? ふぁ? うまい棒が4万1千個買えますけど…。てか、えっ?さっき沢山あるって言ってませんでしたっけ…この部活…やっぱり色々おかしい…)























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る