第16話 追憶
「うちの部、全国大会の常連校だったんだぁ…2年前…私が入る前の年までは…」
ガラスケースに並んでいる賞状を見ながら、遠くの方を見るような視線で言う姫乃。
「それが今はポンコツ吹奏楽部でポン部だって…可笑しくて、笑っちゃうよねっ?」
そう最後に語尾を上げて明るく笑顔で言った姫乃の顔は、笑顔なのに全然可笑しそうじゃなかった。
弘之は何も言えなかった。
幼馴染の姉の演奏に感動して吹奏楽部へ入る事を決めた弘之…その後の入学式での期待からの落胆。
弘之と同じ様に姫乃も自分の未来に期待して入部したのでは無いか…それも全国大会常連校…その期待も一入(ひとしお)だったのでは…
2人の間にほんの少しの沈黙が流れる。
遠くで聞こえるボールを打つ金属バットの音、運動部の出す声。
隣りの音楽室から聞こえるザワザワとした話し声。
弘之は意を決して姫乃に話しかける。
「あの?先輩…一体どうして…」
「橋本君っ!はいっ!これっ!…これが君の楽器よ!あ、まだ他にも沢山あるんだけどー、取り敢えず今日はこれねっ!これ、吹いてみよっか♪うちの部活、楽器だけはいっぱいあるんだー。うふふ」
弘之が話し出すと急に姫乃は手に持った楽器ケースをグイッと弘之に押しつけて来た。
「え、あ、はい。」
戸惑いながらも弘之は楽器ケースを姫乃から受け取る。
ズシリとした重みが腕を通して伝わる。
「じゃあ、音楽室に戻るわよぉ。先輩がぁ♪優しく教えて、あ・げ・る・か・らっ♪」
そう最初みたいに弘之をからかう様な口調で言うとクルッと出口の方を向いて楽しそうにして歩き出す姫乃。
その後ろ姿は、何故かやっぱり全然楽しそうじゃ無かった。
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