第32話 クロマティックスケール
「はしもっちーぃ!」
ミィーティングが終わり、弘之が楽器を取りに行こうと席を立とうとした所で部長の
が弘之の所に二つ結びのおさげをフリフリ手をパタパタとさせて小走りでテトテトとやって来た。
「はしもっちー…。それは、初めて言われたあだ名です。何かもっちもちですね?」
ミィーティングが終わって直ぐに波瑠がやって来たので、ミィーティング中に一人小学生応援団をしていたのがバレたのかと思い内心ドキドキしながらも「もっちー」呼びについて感想を述べる弘之。
もし一人応援団を叱りに来たのだったら話題を逸らし、笑って誤魔化そうと言う打算も含んでいるのだが。
波瑠はそんな弘之の打算に気づきもせず素直に答える。
「そうだよっ。もっちもちだよ。もっちもっちのはしもっちー!」
ビシッと左手を腰にやり右手の人差し指を突き出し、探偵のポーズを決めながら答える波瑠。自信満々だ。
(なかなか似合っているぞ。やはり探偵は小学生に限るな。もちもちちびっ子探偵波瑠! おもちの様に粘り強く解決します!)
等と弘之がもちもち探偵少女について「ふむふむ、もっちもち」と妄想してるのを横目に波瑠は話しを先に進める。
そもそも、もちもちは「はしもっちー」の弘之なのだが。
「もっちもちのはしもっちー。はい、これ。姫乃から預かった楽譜とメモだよ。今日は姫乃お休みだから。」
そう言うと波瑠は弘之に何やら楽譜のコピーとメモを差し出して来る。
弘之は手を伸ばしてそれを受け取ると波瑠にお礼を言う。
「ありがとうございます!そうだった…姫乃先輩お休みなんだった。」
「そうだよー。姫乃は今日トロンボーンのレッスンを受けに…あ、何でもない! 今の無しで! この話は内緒なんだった! あわわ」
姫乃から口止めされてた事をうっかり忘れて口を滑らし、両手で口を押さえて慌てる波瑠。
その話しは前にも波瑠が口を滑らせていたので弘之は全部知っているのだが。
波瑠はあわあわと動揺していたが「ゴホン」っと一つわざとらしい咳をすると。
「まぁ、そう言う事だからー。ではでは、わ、私はやる事がー」
といって誤魔化す様にそそくさとその場を立ち去って行く。前と逃げ方も似てるぞ。
しかし、数歩歩くと思い出した様に振り返り「あっ!私は小学生じゃ無いからねー」と弘之に一言言ってまた歩き出した。
「バ、バレていた…」
弘之はそう呟くと渡された楽譜とメモを見つめる。
すると、どうやらメモは手紙の様である。
中を開くとこう書いてあった。
「やっほー、ひろっち。昨日言ってた通り私は今日はお休みでーす。お姉さんと遊びたかったかなぁ? 残念! また今度遊びましょうね。それで今日は昨日と同じくマウスピースで音出ししたらレミントンのロングトーンを昨日注意した所に気を付けてやってね。それと楽譜を1枚渡しておくから、それもやる様にね。ポジションとアドバイスも書いておくから初めはゆっくりと確実にやるのよ。要所要所でチューナーを使って音程もしっかり取ってね。(でもチューナーを見過ぎでもダメだぞぉ。)あ、楽器は好きなの使って良いからね! それじゃあ、ま・た・ねっ♪」
手紙を読みながら今日やる内容を確認する弘之。
「ふむふむ、レミントンのロングトーンをやる。これはメモを見ながらやれば平気かな。
後はこの楽譜か…なになに、クロマティックスケール(半音階)?ぬぬぬ。まぁ先ずは楽器を取りに行こう」
弘之はそう言い、そのメモの様な小さな手紙を制服のポケットにしまうと、楽器を取りに席を立った。
「くろまてぃ♪くろまてぃ♪半音階かい?くろまてぃ♪。くろまてぃ♪くろまてぃ♪くろまてぃって何だっけ?♪」
相変わらず謎の歌を歌いスキップしながら楽器倉庫へと向かう弘之。
くろまてぃじゃなくてクロマティックだからね。
楽器倉庫に着くとトロンボーンケースが並んでいる棚の前で立ち止まり楽器を選ぶ弘之。
「ど・れ・に・し・よ・う・か・な♪
て・ん・の・か・み・さ・…やっぱり辞めた。」
指差して「なのなのな」をやっていた弘之だが、やっぱり辞めたようだ。
賢明な選択(?)である。
「うーん、コン(コーン)とかゲットゼン(ゲッツェン)とか書いてあるケースが有るけど、先輩居ない時はよく分からないから、やっぱり今日もヤマハにしよう。安心安全安定の世界のYAMAHA!」
選んだYAMAHAを棚から出して音楽室に戻る弘之。
音楽室の中からはもうパラパラと楽器の音が聴こえ始めて来ていた。
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