第31話 天才少女はゆるふわ☆
曲の余韻から覚め、音楽室へと入るドアをあけると、教室の窓から差し込む西日に照らされホルンを脇に抱えた1人の少女が立っていた。
弘之はあの美しい旋律を吹いていたのが自分と同じ中学生であった事に一瞬目を開いて驚くも、直ぐに目を細めてその不思議な人物を捉えようとまじまじと観察する。
(顔は小顔。目はとろーんと眠たそうな二重。肩より少し短い黒髪を二つに分けて結いている。身長は150センチぐらいかな。上履きが赤い色って事は一年生!?)
その様に「むむむー」っと時間にして1・2秒程少女を観察していた弘之だが、その弘之の視線に気が付き少女が口を開く。
「あのぉ。何かー、ご用ですかーぁ?」扉を開けて入って来るや直ぐ、まじまじと自分を見つめる弘之を不審に思いそうゆるーく聞いてくる少女。
しかし、その少女は直ぐに弘之を仮入部で見かけた事がある事に気が付いたのか「あーっ。確かー、とろんぼーん吹いてるどーきゅーせーだーぁ♪」
と「ゆるゆるふわふわ」ゆるふわな感じでニッコリとしながらそう言った。
(このゆるふわ少女がさっきの曲吹いてた子?ギャップがすごいなー。)
とそのギャップに再び驚きながらも答える弘之。
「そーだよーぉ。仮入部でー。とろんぼーん吹いてるー。はしもとーひろゆきだおー(橋本 弘之)」
ゆるふわが移ってる弘之。
しかし「だおー」は無いだろ。
「わたしわぁ、いずもー ゆいか(出雲 結花)だよー。えへへ。よろしくね♪」ふわりん♪
と結花はふわふわりんりんで挨拶して来た。
弘之はやはり先程聴こえた美しくも哀しき音楽を目の前のゆるふわ少女、
その場に2人しか居ないのに(もしかして録音? 動画サイト?)等と失礼な事を考えながら。
「あのー、さっきの曲は君が吹いてたの?」
「そうだよー。亡き王女の為のパバーヌ
♪とっても良い曲でしょう?」ふわりん♪
と、相変わらずのゆるゆるふわふわのりんりんで答える結花。(以後ゆるふわの表現はほぼ省きます。誠に恐縮ですが、「結花はゆるふわ」とご自分で脳内変換して下さい)
「そうなんだ。凄く良い曲だね。美しくて、哀しくて、暖かくて」
「でしょう♪私もそう思うんだぁ」
曲の雰囲気を同じ様に感じていた事にちょっと心が繋がった気がして嬉しくなる弘之。
そして今は音出しに苦労してるが、自分もいつか感情豊かに曲を演奏してみたいと結花に助言を求める。
「凄く上手だし。どうしたらそんなに上手に吹けるの?」
結花は二つに結ばれた短い髪をクルクルとしながら「ぽやぁ」っとした感じで答える。
「んーとね。悲しいとこはフーって吹くの。でも途中で明るくなったり、複雑になったり、悲しいけど暖かいでしょ?そこは息をぶわぁーってしたり細くしたり暖かくしたりするのー。あとはー、時間をゆっくりにしたりー、早くしたり無限に使うのー♪」
「んー。わかったっ! ありがとう! やってみるね」
ホントは全然分からないけれど、教わった感謝も込めてそう元気よく答えた弘之。
(ダメだ! そう言ったものの、何言ってんのか全く理解出来ない。天才ゆるふわ娘?でも何か凄いヒントがあるような…。んー、やっぱりわからない)と思いつつ。
すると結花は弘之を見てまたふわふわにっこりと微笑むのだった。
そうやって2人でゆるゆるふわふわとお話しをしていたら、だんだんと人が集まって来ており、そろそろミィーティングが始まりそうになっていたので2人はお互いに自分のパートの席へと向かった。
弘之が席に着くと斜め前にいる結花が後ろを向いてふわふわーっとゆっくり手を振って来た。
弘之もまたふわふわーっと手を振り返すと結花はゆっくりと頷いて前を向きミィーティングの内容を聞き取り始めた。
1番前の指揮台では相変わらず部長の波瑠が小さな手足をバタバタさせてわちゃわちゃとミィーティングの司会をやっていたので、弘之は「頑張れ、小学生♪」と小声で呟き応援するのだった。
もうすぐ始まりのミィーティングも終わる。
さあ、今日も楽しい部活の始まりだ!
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