第26話 春眠、すれ違いを覚える

弘之は怒っていた。

それはもうプンスカである。

プンスカ弘之→プンヒロである。


家に帰るといつものルーティン(ご飯、お風呂、テレビを見る、ちょっと勉強をする)をこなしてから今日の部活で教わったこと、気が付いた事を「とろんぼん練習ノート」に記録していく。


「えーっと、倍音ってのがあって一つのポジションで出る音は沢山ある。良く分からないけど1番ポジションでB→F→B→D→F→As→Bの音が出ると…」

姫乃に質問をしながらメモをしたが、やっぱりまだ良くわからず「うーん、うーん」と言い眉をハの字にしながら練習ノートに書き移して行く弘之。

それもそうである。ドイツ音名とイタリア音名(ドレミ読み)の違いとかも説明されて無いのだから…。


「ま、今は分からなくても大丈夫って先輩も言ってたし…えーっと、あと手をびよーんって伸ばすと音程が低くなって、戻すと高くなったな…ふむふむ。ここはきっと大事だぞ…」


その様に独り言を呟きながら練習ノートを書いて今日一日を遡っていると、だんだんとあの事を思い出してきた…そう剣道対決である…じゃなくて…幼馴染の琴映が今日も来て無かった事を。


そしてプンスカ弘之→プンヒロの誕生であった。


「今日は来るって言ってたのにっ(多分としか言ってない琴映…)。朝は手をフリフリして挨拶したじゃ無いかー!(只の朝の挨拶である…)」

そうプンプン、スカスカと頬を膨らませ若干目尻に涙を浮かべながら怒るプンヒロ。

とっても女々しいぞ…。


そしてプンヒロは決めたのだった「もう絶対琴ちゃんが謝って来るまで知らないんだから!」

さてさて、いつまで持つことか…。


心のがモヤモヤとして、なかなか眠りにつけなかったが、ようやく夢の世界へと旅立った弘之は、琴映からの

             琴)怒ってる?


と言うメッセージが眠りに付くのとすれ違いで来ていた事に気付くことは無かった。


翌朝、前日夜遅くまでプンスカしていた弘之は春の眠気に負け、遅刻ギリギリの時間に起きてしまった。

春眠暁を覚えずとも言うからね…

因みに弘之の場合、春眠暁を覚えず、夏眠暁を覚えず、秋眠暁を覚えず、冬眠はクマさん…

最後は良く分からないけど、割と年中寝坊だ。


ドタバタと急いで着替え、口に食パンをくわえて中学へと続く岡を駆け上がって行く弘之。

何を期待してるか(角から出てきた美少女とぶつかるイベント)は判るが…冗談抜きで食べながら走ると命の危険が有るからやめよう…。


そんなギリギリの登校となってしまった為、朝も琴映のメッセージを見る事が出来なかった弘之であった。(食パンくわえる小ネタ仕込むならメッセージ見ろ、と突っ込まないで…)



一方の琴映はいつもと同じ時間にちゃんと登校して友達とお喋りしながらも、弘之から返信がないかどうかスマホを何度も確認し、モヤモヤとした時間を過ごしているのであった。

(もー弘之。せっかく今日は吹奏楽部に行こうと思ったのにっ!何で既読が付かないのよっ!まさか無視!?あー、知らない。もう知らない。絶対知らない。こうなったら吹奏楽部なんて絶対行かないんだから!)

プンスカ琴映→プン琴の誕生である。


「琴映?何か怒ってる?」

そんな心のプンスカ状態が顔に出てしまったのか友達から心配されてしまった琴映は。

「全然っ♪朝だから眠いだけだよー」とニッコリと満面の笑顔で友達に返していた。

(目が笑ってないし、持ってるスマホ砕きそうなくらい力入ってるんだよねぇ。友達談)


朝ホームルームが始まるギリギリの時間、琴映が相変わらずプンプンしながら教室のドアの方を気にしていると、ハアハアと息を切らして弘之が駆け込んで来た。


「間に合ったー」と言いながら自分の席に向かう弘之。

弘之は途中で琴映の席とすれ違いざまに目を合わすと昨日の事を思い出したのか、不機嫌でぶっきら棒な口調で「おはよう」と言って来たのだった。


琴映はそんな弘之の態度を見て「あー、へー、そう言う態度なんだ?もう本当に知らない」っと、弘之に挨拶を返さずプイッっと横を向いてしまう。

そんな琴映を見て弘之もプイッっと横を向いて足でドンドンと音を立て、大股で歩き自分の席に着くとドシンと音が鳴りそうな勢いで座った。


そしてここに、弘琴(ひろこと)東西冷戦が開幕したのであった。

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