第51話 楽しいお片付け♪2
前回の続き。
「じゃあトロンボーンのお掃除開始ねぇ♪」
姫乃の言葉を合図についにトロンボーンのお片付けが開始された(そんなに大袈裟なものでもないが……)。
「先ずはベルの部分とスライドの部分を外します」
姫乃はそう言ってトロンボーンをベル部分とスライド部分に分けてケースに置く。
この時になるべく両方を離して置くか、ベルの部分は一度ケースに入れて置いた方が何かの拍子に両方のパーツが「ごっちんこ」と当たってどちらかが凹むアクシデントが起こる確率が減って安全だ。
特にスライド部分は少しでも凹むと動きが悪くなるので要注意。
注意点も補足しながら実演する姫乃。
一年生達も姫乃のやり方を見よう見真似で
「次にスライドの外管(演奏時に動かす方)を外して、内管(演奏時はベル一体で動かない方)のスライドクリームやスライドオイル(
そう言って姫乃はスライド内管を柔らかい布で拭いていく。
実際には一年生達が試奏で使っただけなのでスライドにはオイルもクリームも着いていないのだが実演なので本来の作業と同じ様に行っていく姫乃。
因みにこのスライドオイル・スライドクリーム絶対に混ぜてはいけない。
スライドオイルの人はスライドオイル。
スライドクリームの人はスライドクリーム。
どちらかを使いましょう。
またスライドオイルも色々なオイルが有るけど絶対に混ぜてはいけないです。
「次はこのクリーニングロッドにガーゼを巻いたので中を掃除だよぉ♪」
内管の外側(紛らわしいな)を拭き取った後、姫乃はクリーニングロッド(長い棒)にガーゼを巻いたものを弘之達に見せると、それを使ってスライド内管の内側を掃除する。
リコーダー等でやった事がある人もいるだろう。
メーカーによってはクリーニングロッドが付いていないのもあるがその時はスワブ(布に紐と重りが着いたもの)でも良い。
このクリーニングロッドでの掃除。ガーゼを巻く時なるべく細く巻かないと抜く時に途中で詰まったり、前に進まずに無理やりやるとスライド内管が平行じゃなくなり大変な事になるので注意だ。
内管の掃除が終わったら次は外管だ。
同じ様にクリーニングロッドをネジネジして中を掃除する。
こちらは最近はスワブを通す方が先端のU字の所も掃除出来るので主流である様だ。
スワブ→重りを先に通してU字部分を通過させ、入れた方と反対の管から出て来る重りを引っ張れば布が中を通って掃除される画期的商品だ。
「外管内側の掃除が終わったら、内管に外管を嵌めてから周りを柔らかい布で拭いてスライド部分は終了よぉ♪」
姫乃はそう言って柔らかい布(ヤマハのポリシングクロス)でスライド外管と持ち手を拭き、終わるとスライド部分を楽器ケースに仕舞った。
※楽器を拭く布はキメが細かい程ピカピカになるが細かい布で力一杯拭いたり、間に細かなゴミが入っていると楽器本体に二度と消えない引っ掻き傷が付くので注意だ。
楽器の傷は心の傷……。
「次はベルの部分ねぇ♪手順はどっちでも良いけど、このU字のチューニング管をベルから外して〜略」
次はベル本体部分のお掃除だ。
まずベル本体からチューニング管(ベル後部に付いているU字の管。ここを抜いたり入れたりして基準音B、ドイツ音名でベーのチューニングをする)を外してそこにスワブを通す。
終わったらベル本体もスワブを通すのだけど、F管ロータリーのある方はロータリーの形によっては布が引っ掛かったりするのでやらない方が良い事もあります。
それが終わると最後にスライドと同じく柔らかい布で全体を拭いてケースに仕舞って終了だ。
今はまだ使うからやらないが、マウスピースを水で洗うのも忘れずに。
「ふぅ。これで終わりね♪みんな出来たかなぁ?」
姫乃はベル本体部分を拭きあげてケースに仕舞うと、そう言って弘之達一年生を見る。
「「わかりました(ましてですわ!)」」
そう言って弘之達も拭き上がったベル本体をケースに仕舞う。
姫乃は全員を見て「うんうん」と頷き、ケースに仕舞われたトロンボーンを確認する。
途中途中で確認しながら説明したし、そんなに難しい作業では無いので特に問題はない様だ。
「うーん。大丈夫そうねぇ♪みんなオッケーよぉ」
「わーい」「良かったぁ」「
一年生3人、それぞれが安堵の言葉をもらす。
1人おかしいのがいるけど。
「よーしっ! じゃあ僕、練習に戻りますねー」
そう言って楽器を片付ける為に床に着いていた膝を上げてその場を立とうとする弘之。
ガシッ
しかしその両肩はいつの間にか後ろに回り込んだ姫乃にがっしりと押さえられた。
「まちなさぁい♪もう一本あるでしょお? 1人2本ずつお片付けって言ったわよねぇ?」
素早い!
さっきまで弘之の目の前に居たのに。
もしかして姫乃の先祖は伊賀か甲賀の忍者か!?
いや、武田忍軍である。
何この全く要らない記述←
「あははー。バレましたかぁー♪」
弘之は自分の逃走作戦が失敗に終わった事に少し落胆するも特に悪びれもせず、おちゃらけたようにそう言うと、大人しく上げかけた膝を再び床に着く。
弘之を無事確保した姫乃だが今度は頼姫が騒ぎ出す。
「そうですわぁ!
ガシッ
今度は柏木セバスチャンを探しに行こうとして立ち上がる頼姫の後ろに回り込み両肩をがっしりと掴み抑える姫乃。
素早い!
もしや姫乃の先祖は武田忍軍か?
甲斐だけに……。
いや、
←マニアック過ぎるし、結局姫乃の先祖は何処の忍者なのか?そもそも忍者なのか?
まぁどちらでも良いけど。
姫乃は無事確保した頼姫の肩にがしっと掴んだ両手を置いたまま、ゆっくりと顔を頼姫の左耳に近づけ耳元で優しく
「頼姫ちぁんっ♪ これからはぁ、自分の楽器はぁ、自分でお片付けするのよぉ♪ 」
頼姫は耳元に姫乃の優しい吐息とゆっくりと背骨をなぞる細くしなやかな指先を感じると、背筋を伸ばして体をブルブルっと震わせた。
何故か顔はやや赤くなり、ハァハァと少し息を上げて「姫乃お姉様♡」と小さく呟いている。
「わかったぁ?」
駄目押しの様に先程より更に近く、触れるか触れないかギリギリまで頼姫の耳に唇を近づけてそう
頼姫は左手を胸の所でギュウっと握り右手をその上に添え、顔を真っ赤にして無言でコクコクと頷いている。
ゴクリ
「こ、これが百合……」
弘之と詩子は、姫乃と頼姫の2人が作り出すその
姫乃は後ろから頼姫のコクコクという無言の頷きを確認すると「良い子ねぇ♪」と言いながら頼姫の頭を優しく撫で始めた。
「「「ハァハァ。姫乃お姉様♡」」」(弘之、頼姫、詩子)←
暫く頼姫の頭を撫でていた姫乃だが、手を止めると今度は
そして「詩子ちゃんはぁ、ちゃーんともう一個のお片付けするよねぇ?」と言ってにっこりと微笑む。
「わ、わ、わた、私はわわわ、ちゃ、ちゃ、ちゃんと、やりままますすすす」
妖しい
姫乃はそんな詩子の反応に「うふふ♪」と少し微笑むと自分の片付け担当のトロンボーンの前に戻る。
その様子を見た詩子は(じ、自分も他の皆んなみたいにワガママにすれば
その後、姫乃は一年生達を一度ぐるりと見ると「じゃあ、みんなでもう一本ずつお片付けしましょうねぇ♪今度は出来るだけ1人でやるようにねぇ」と言って後輩達にお片付けを促すと自分の分のトロンボーンの片付け始めた。
それを見て一年生達も各々ドキドキと早くなっていた鼓動を落ち着かせてから、割り当てられたトロンボーンを掃除していくのだった。
それが終わると各自掃除を終えたトロンボーンを姫乃が一つ一つ点検する。
なんとか無事に全員オッケーだったみたいだ。
安心して、ほっと胸を撫で下ろす一年生達。
しかし、わちゃわちゃと楽しい楽器選びや指導を受けながらのお片付け、途中のお喋り等なんだかんだ時間がかかってしまった為そのまま部活終了の時間となり、終わりのミーティングの時間となってしまった。
終わりのミーティングでは部長の
弘之は相変わらずそれを「頑張れ」っと胸の前で右手を握り小学生を応援する様な気持ちで見ていたであった。
そんな風にしていつもの様に遊んで過ごしていた弘之だが、ミーティングの最後に楽譜が数枚配られた。
どうやら体育祭の行進の際にやる曲で、直ぐにはやらないけど暫くしたら合奏があるので練習しておく様にとの事だった。
弘之は深くは考えず(ふーん。楽譜の読み方がわからないけど、姫乃先輩や琴ちゃんに教えて貰おう)と思いそれをクリアファイルに入れてカバンにしまった。
ミーティングが終わると部員全員が楽器を片付けたり帰り
結局、弘之達トロンボーンパートの面々は先程みんなで片付けた2本づつの後に自分専用のトロンボーン1本づつも続けて片付ける事になってしまった。
これには流石の姫乃も少し
その日の帰り、弘之は琴映と拓郎の3人で帰っていたが、途中直ぐに拓郎の家は2人とは別方向の為に別れて、弘之と琴映の2人は家へとつながる長い下り坂を歩いていた。
2人でゆっくりと坂を下りながら、琴映はクラリネットの事や同じパートの
楽しそうに話していた2人だが、弘之が姫乃と頼姫の
どうやら弘之が「頼姫ちゃんがちょっと羨ましいなぁ♪」と言ったのが良くなかったようだ。
「どうしたものかなぁ?」と困惑する弘之。
ふと気が付けば2人はもう琴映の家の前まで着いてしまっていた。
弘之は(うーん。なんかぎこちないけど、まぁ明日には普通に治るでしょ?)と思い琴映にサヨナラの挨拶をする。
「琴ちゃんまた明日ねー」
琴映も手を上げて弘之に挨拶を返そうとするが途中でそれを辞める。
そして両手でスカートの端をギュっと握ると「ねぇ、弘之?」っと少しだけ大きな声で問いかける。
それに弘之は「なぁにー?」と特に何の気も無しに返事をする。
すると琴映は今度は聞き取れないくらいの小さな声で「そんなに頼姫ちゃんが羨ましいなら、その、わたしが弘之に姫乃先輩とおんなじ事してあげようか?」とボソボソと真っ赤な顔を下に向けて呟いた。
しかし、その声はその時たまたま上を通ったジャンボジェット機の「ゴー」という音にかき消されて弘之の耳には全く届かなかった。
全く間の悪い飛行機だ。
「ごめん、全然聞こえなかったからもう一回お願いしていい?」
そう弘之がもう一度お願いすると、琴映はばっと顔を上げて今度はご近所中に聞こえるような大きな声で「弘之のバカバカバカバカ! スケベ! 変態!って言ったの!」と言って、ガチャリと大きな音を立てて自宅前の門を開け駆け足で門から玄関へと続く道を行き、家の中に入っていった。
暫くの間ポカーンとその場に立ち尽くす弘之。
弘之がしばしの放心から立ち直り家に帰ると、やはり伊達家の隣りの隣りである橋本家にいた母親にまでバッチリと聞こえていた様で「あんた琴映ちゃんに一体何をしたの?」としつこく聴取される羽目になった。
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