第27話 春眠、すれ違いを覚える2


朝から琴映と冷戦状態に突入し、時たまどちらかが怒った表情や悲しそうな表情や難しそうな表情等、顔を七変化させながらどちらかを見て、視線が合ったら目を逸らすと言う、お互いにヤキモキとした気持ちで一日を過ごすと放課後になっていた。

そのせいで、弘之はその日の授業は半分心此処にあらずの状態で殆ど耳に入って来なかったのだが、それは琴映も同じであった。


そんな弘之は拓郎に誘われたので、昨日とは違い沈んだ気分ではあるが、部活へと向かう事にした。

教室を出る前に友達とお喋りしてる琴映と目が合ったが、またお互いにプイッっと顔を背けてやり過ごす。


そんな弘之と琴映のやり取りを見て、いつもは茶化してくる拓郎が全くその話題に触れず、いつも以上に明るい声で話しかけてくるのが、弘之には有難かった。


吹奏楽部の活動場所である第一音楽室に付くと、どうやらやはりサックスにする事に決めたらしい拓郎と別れ、トロンボーンの定位置である音楽室へ入って右手直ぐに有る椅子に座り姫乃を待つ事にした弘之。

今日は琴映と同じ教室に居るのが余り落ち着かず直ぐに教室を出た為、先輩より先に着いてしまったみたいだ。


「先に楽器を取りに行こうかな…でもまだ本入部した訳では無いし勝手に触るのも悪いか…」

姫乃を待つ間もソワソワして落ち着かない弘之はそう思ったが、勝手に取りに行くのも悪いかと思い直ぐにその考えは取りやめた。


そうして、手持ち無沙汰になってしまった弘之は何となしにカバンに手を伸ばすとスマホを手に取って画面を確認する。

するとSNSに何件か通知が来ている事に気がついた。

今時、持ってるのにスマホをあんまり見ない子供も珍しいけれども(校則で禁止されてるとこも多い)、朝は遅刻しそうだったし、その後も琴映に顔を背けられたショックから半ば一日中モヤモヤと考え事をして過ごしていたのでカバンに入れっぱなしで見落としていたようだ。


スマホの画面に浮かぶ通知の来ている印である数字が右端に有るアプリをタップする弘之。

そこで初めて琴映から「怒ってる?」とメッセージが来ていた事に気がつく…。

「あちゃー、やってしまったな…琴ちゃんが怒るのも無理ないか…」

そう自分がメッセージを見落としてしまった事に後悔しつつ呟くがまたその後の琴映の態度を思い出し、また自身の態度を硬化させてしまう。

「だからって顔を背ける事は無いじゃないか!こっちだって色々大変(主に寝坊)だったんだから。」

そうやって弘之が過ごして居るといつの間にか姫乃が隣りに座っていた。


「ひろっち、大丈夫ぅ?」


「わぁあ!ひ、姫乃先輩!いつからそこに…」


誰も居ないと思っていた隣りから突然話しかけられてビックリして心臓をバクバクさせながら戸惑う弘之。


「五分ぐらい前からよぉ。何か考え事してるみたいだから暫く見ていたんだ・け・ど♪」


そう言われた弘之は少し恥ずかしく思いながらも早く楽器を吹いて琴映の事など今はわすれてしまおうと姫乃に訴えかける。


「姫乃先輩、楽器取りに行っても良いですか?」


「そうねぇ、もうすぐミーティングが始まるから終わったら一緒に取りに行きましょう。」

しかし姫乃にそう言われてしまい、始めのミーティングで部長の波瑠がわちゃわちゃしながら話しているのを相変わらずヤキモキとしながら見ていたのであった。


そんなミーティングも終わり弘之と姫乃の2人は音楽準備室、通称楽器倉庫にいた。


「うーん、これだ!」


そう言って昨日までと同じ様にBachと書かれたケースを取ろうと弘之が伸ばした手を姫乃が抑える。(因みにこの学校にはBachは二本有る。)


「今日はこっちにしましょう?」


姫乃はそう言うとBachの隣りのケースを指さした。


そう言われて弘之が隣りのケースを手に取るとそこには「YAMAHA」と書かれていた。


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