第49話 そもそもF管って?テナーバストロンボーン3
F管(ロータリーとセイヤーバルブ)の仕組みと息の流れを自身の指でなぞって説明した姫乃。
途中、余計な
「じゃあここで問題ね。そもそも、何でF管って必要なのかしら?解る人いるかなぁ?」
姫乃の質問に弘之がゆっくりとゆる〜く手を上げる。
「はーい」
「はいっ、ひろっち!」
ゆる〜い弘之とは対照的に素早くビシッと指を
姫乃にビシッと指を
「んー。なんか便利だから?」
姫乃は弘之のアバウト過ぎる答えを聞いて(何か当たってる様な当たってない様な答えね。ひろっちは相変わらずだなぁ)と思うがその回答は大雑把すぎて正解とは言いがたいので、さらに詳細で具体的な回答を求めてより深く聞いてみる事にする。
「んー、惜しい! 例えば、どう便利なのかなぁ?」
「んー。わかんない。んふふふっ♪」
そう自身のほっぺに人差し指を当てて小首を傾げながら可愛く答える弘之。
ロー◯かっ!
姫乃は何処ぞの元お馬鹿系女性タレントみたいな口調で答える弘之に若干引き立った笑顔で「んー。私もわかんない(ひろっちの言動が)。んふふふっ♪」っとワザと同じ口調で同じく小首を傾げて返したが、色々と仕方がないと(何を?)諦めて弘之以外の一年生2人に顔を向けて問い掛ける事にする。
「頼姫ちゃんと詩子ちゃんは解るかなぁ?」
姫乃の質問に小さく手を上げ、か細い声で答えようとする内気な詩子。
「あ、あの……」
しかし詩子が頑張って答えようとした声は、その上から被される様に発せられた頼姫の大きな声で掻き消された。
「わからないで御座いますわっ! ワタクシ分からない事が有る時はいつも執事の柏木セバスチャンに聞いておりますの。柏木セバスチャンは何でも知ってましてよっ! セバスチャーン! 何処ですのー!? この頼姫が困りましてよー!?」
頼姫は詩子の言葉を掻き消して発言すると、そのままバタバタと柏木セバスチャンを探して音楽室を走りまわる。
そんな頼姫を残された3人は様々な思いでポカーンと見ているのであった。
「「柏木セバスチャン…………」」
大体、何故セバスチャンなのに柏木なのか?いや、柏木なのにセバスチャンなのか?
どっちでも良いけど。
姫乃は遠くで叫びながら柏木セバスチャンを探す頼姫と「柏木セバスチャンは外人かなー?日本人かなー?」等とブツブツ口に出してどうでも良い事を妄想している弘之を見て(おかしな子達ばっかりでこの先本当に大丈夫かしらぁ?)とまるで頭が痛い人の様に額に手を当てて考え込む。
読者の皆様はお気付きだとおもいますが、一年生をエロネタで
しかしチラッと詩子を見て(まだ詩子ちゃんがいる!)と微かに希望を取り戻した姫乃はもはや富士見ヶ岡中学吹奏楽部トロンボーンパート、最後の砦である詩子に恐る恐る質問する。
内心で(この子もおかしかったらどうしよう……)と不安に思いつつ。
「う、詩子ちゃん? えっと。な、なんでF管が有ると便利なんでしょうかぁー? う、うふー。うふふふふーっ♪」
色々考え過ぎて挙動不審だ。
「あ、あのっ。え、F管のレバーを押すと1pos(ポジション)で6pos(ポジション)の長さまで管が伸びるなら、手が届かないとこも吹ける様になるのかなって……」
そう、いつもよりも更に小さな、ほとんど聞き取れない様な声で答える詩子。
答えに対しての自信の無さがありありと伝わっててくる。
「そう!
姫乃はやっと出たまともな答えに感激し、とびっきりの笑顔で詩子を讃える。
語尾に「姫乃お姉さん、もうどうしようかと思って……」等と付けているし、その目尻には光る物が見えている。
詩子は「えへへ♪」と恥ずかしそうに少しハニカミながら、しかし何処か誇らしげに笑っている。
「ねぇ! 聞いてたぁ? みんなぁ! 詩子ちゃん凄いわよねぇ!? 」
姫乃はやっと妄想から現実世界に戻った様子の弘之と、いつの間にかセバスチャンを捜すのを諦めて席に戻っていた頼姫に呼びかける。
弘之と頼姫の2人は姫乃の呼びかけに「わー凄いー」パチパチ。「詩子様。大変素晴らしくてよー」等と棒読みのテキトーな褒め言葉を言っている。
そんな2人を(どうせ聞いていなかっただろう)と諦めの表情で見た姫乃は詩子の答えをもう一度きちんと「分かりやすく」説明する事にする。
「ひろっちと頼姫ちゃん。今から詩子ちゃんの答えを要約するから、ちゃ・ん・と・聞いてね!」
とぼけた顔をしている2人をグッと眉根を寄せて見て視線で釘を刺し、ちゃんと聞くようにしっかりと言い聞かせてから……。
「さっき詩子ちゃんが言ってくれた通り、F管が有るおかげでF管のレバーを引けば1pos(ポジション)で6posの音が出せるのよぉ。つまり下のC(ド)の音とかが、私みたいに手が短くて6posがギリギリ届くかどうかの人も簡単に吹けるの。あとその一個下のH(シ)の音も本来は7posだけど2posでレバーを引けば出せるようになるの♪ 因みにひろっちはクロマティックスケール(半音階)の練習で経験済みの筈なんだけどねぇ」
「ふむふむ」とメモを取りながら姫乃の言葉を聞く一年生3人。
弘之は「おお。くろまてぃ! そう言えばやったな」とか言ってるけど。
3人の顔を見て理解度合いを確認しながら話しを進める姫乃。
塾の先生みたいだね。
「でね、詩子ちゃんの答えとは別なんだけど、更にあってね」
その言葉にメモを取っていた顔を上げて姫乃を見る3人。
各々首を傾げたりしているが、その目が続きを促しているかのようだ。
「さっきひろっちがテレビとかで見たって言ってたF管が付いていないトロンボーンは『テナートロンボーン』っ言うのね。今、もしくはこれから私達が使うのはF管が付いている『テナーバストロンボーン』って言うのよ。でね、バス(bass)ってのは『低い音』って意味が有るの。つまりF管が付いているとテナートロンボーンより、テナーバストロンボーンは更に低い音が出るのよぉ」
そこまで言うと姫乃は自席の横に置いたケースの上にある楽器を手に取り、実際に音を出して説明する。
姫乃は下のB(♭シ)の音から手の届く6posまで腕をいっぱいに伸ばしF(ミ)の音を吹くと楽器を離して「F管のないテナートロンボーンだとこの下の7posのE(ドイツ音名でエー、イタリア音名でミ)の音までしか出ないんだけど」と言う。
その後、再び楽器に口を付けるとF管のレバーを引いた状態で息を入れて、さっきの6posで吹いたF(ファ)より低い音を2posで(ミ)3posでEs(♭ミ)4posでD(レ)5posでDes(♭レ)6posでC(ド)と吹いて行く。
吹き終わると「こんな感じでF管を使うとテナートロンボーンでは出ない音が出るの」と説明する。
※強制倍音(ブラックトーンとも言う。口の形を音に合わせて本来出ない音を出す)と言うやり方でテナートロンボーンでも出す事が出来る人も居ます。
姫乃の説明に「ひょえー」っと感心した様子を見せる一年生3人。
しかし姫乃は感心する3人を前に、身も蓋もない事を言う。
「まっ、吹奏楽でそんな低い音は殆ど使わないんだけどねっ♪バストロンボーンのパートはたまに使う事もあるけどぉ」
そうなんです。
実際吹奏楽で曲吹く時、F管使う低い音とかあんまり無いんです。
かと言ってオーケストラだと低い音はバストロンボーン(更にもう一個管が付いているトロンボーン)奏者が固定で吹くので、1st2ndはよりF管で低い音を吹かなくなると言う……。
姫乃の「今までのF管の講義なんだったの?」と聞きたくなる様な発言に明らかに「えー」っと言いたそうな顔をする弘之達一年生。
そんな一年生達に姫乃はゆっくりと諭すように柔らかい声で語りかける。
「でもね。早いスライディング(スライドを動かす腕の動き)とか、私みたいに手が短い人とかはやっぱり6pos7posはキツイからF管結構使うのよ。ひろっちも半音階やる時に沢山使ったでしょう?」
姫乃の声に弘之は「うんうん」と首を動かして反応し肯定の意思を表す。
頼姫と詩子もそんな弘之を見て、ほっと安心するのであった。
まぁ使わないなら要らないもんね。
※因みにF管ロータリーを間に挟む事によって管が直管で無くなり、それが逆に利点になる事もあるのですが、その話しはまた別の機会があれば。
姫乃はその後少しだけ質問タイムを挟んで、弘之、頼姫、詩子の顔を順番に見ると、その表情から全員が大体理解したと判断し「じゃあみんなで練習しましょう」と言って練習を開始させるのであった。
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