第48話 そもそもF管って?テナーバストロンボーン2

前回の続き。


「簡単に言うとF管って、F(ファ)の位置までスライドを伸ばした分の長さをベルの横にグルっと巻いてある管の事よぉ」


「「Fの位置?」」


姫乃の説明に。

一年生3人が声を合わせて聞き返す。

声は合っているが、本当に分かってない者、分かったが確認の意味の者や声に出す事で頭に落とし込もうとする者等、声のトーンは様々だ。


姫乃は3人の言葉を受けると全員の顔を一瞬見回してから、無言でひとつ頷き、話しを続けた。


「そうよぉ。1pos(ポジション)でB(ドイツ読みで、べー)の音が出る倍音列からポジションを6posまで落とす、腕を伸ばすとFの音が出るでしょ?あっ、頼姫ちゃんと詩子ちゃんはまだやって無かったわね」


説明していた姫乃だが、頼姫と詩子がまだちゃんと楽器の練習をしていなかった事を思い出すと、席の横にあるケースの上に置かれた自分の楽器を手に取ると1posでチューニングBの下のBの音を吹く。


「Bーー♪」


やや暗いが深みのある音が他の楽器の音やガヤガヤとした話し声が聞こえる音楽室に鳴る。


姫乃はBの音を吹くと一度口をマウスピースから離して「今のが下のBの音ね。ここからポジションを下げて……」と言い。

3人の返信を待たず直ぐにまたマウスピースに口をつけて、そのままBからFの音までタンギングをせずに(音の間を切らずに)吹いた。


「BーFー♪」

パーアー↘︎とコントのオチに出て来そうな感じの音だ。

姫乃は6posの位置で腕を伸ばしたまま、マウスピースから口を離して楽器をずずいと弘之達に見える様に前に出す。


「この腕を伸ばした分の長さの管がぁ、ベルの横のグルグルにになっているのよぉ。わかるぅ?」


「何となーくわかりました。びょーんの分がグルグルなんですね?」


弘之が代表して発言すると他の2人も「うんうん」と首を動かして頷き肯定の意を表す。


姫乃は弘之の質問と2人の頷きを見ると(大方理解した様だけどぉ。一応もう少し補足しておこうかしらぁ)と考えて続きを話そうと息を吸う。

しかし(あんまり真面目に説明しても面白くないわねぇ。主に、私がぁ♪)と思い、吸った息を声に変えるのをやめると、すーっと細く吐き出しながら(せっかくだから説明のついでにちょっと揶揄からかって遊んでじゃお)と考えて、目を細めて「うふふふ♪」と妖しい微笑みで弘之達を見るのだった。


揶揄からかいモードの姫乃は手につけられませんで旦那っ!

誰が旦那やねん!



そしてその後、姫乃はスライドを伸ばした右腕を元の1posの位置に戻すとストッパーで固定してから、今度は左手に持ったベルの方を弘之達三人に見せ、何故か唇に右手の人差し指を軽く這わせてから、F管レバー(ロータリー)の中とグルグル巻かれた管を細く長い人差し指を非常に遅い速度で「つつーっ」っと、途中から中指も一緒に二本の指でゆーっくりとつやっぽくなぞって空気の流れを説明する。


「だからねぇ、このF管のレバーを親指で引くとぉ、このぉ、円錐えんすい形のセイヤーの内部。ひろっちの楽器だと丸いロータリーの内部が回転してねぇ。電車の線路の切り替えの様に息の流れが変わってぇ。わ・た・し・の指の動きみたいにぃ、空気がこのグルっと巻かれた管の方に流れてその分管の長さが長くなって音が低くなるのよぉ♪うふふ」


「「…………」」

ゴクリ


姫乃の説明の仕方と指の動きがとてもなまめかしくて、視線を姫乃の右手から伸ばされた二本の指先に固定し、ゴクリと喉を鳴らす一年生三人。

弘之以外は女の子なのだが……。


三人を見た姫乃は軽くにっこりと微笑む。

そして少し間を置くと、更にもう一度、今度は無言で最初から二本の指でゆっくりとなまめかしくエロい感じでF管をなぞった。


そんな姫乃の指に視線をむけ、とろけた顔でぼーっとしている様子の一年生達を満足そうに見ている姫乃。

後輩を揶揄うのが楽しくて仕方がない様だ。


(もっと揶揄って遊んじゃおうかしらぁ♪)


姫乃はそう思い、弘之達に「うふふ♪」と艶っぽく微笑み、今度はわざと自身の太ももと細く長い足が良く見える様にスカートをトロンボーンを持っていない右手の指先で摘むと、ゆっくりと少づつ上に上げながら脚を組み替えて三人の顔を見る。


刑事長デカちょう! この女、わざとやってますぜ!

だから誰が刑事長や!


姫乃がわざと見せた太ももと長い脚に視線を釘付けにし、またもゴクリと喉を鳴らす一年生三人。


姫乃は初心うぶな三人の視線や動きが、もう面白くて仕方がなくて、ずっと揶揄からかって遊んでいたくなるのだが流石にこれ以上やると、いつまでたっても説明が終わらなくなるので(やっと)少しだけ真面目な方向に戻す事にして、スカートの先を引っ張ってその長さを元に戻す。


「「あっ」」


一年生三人の残念そうな声が聞こえる。

もう一度言おう、弘之以外は女の子だ!

そして弘之っ!

KOTOE(琴映)がしっかり見てるぞ!


姫乃は「ふふ」っと軽く微笑むと話しを再開した。


「こうやってねぇ、1pos(ポジション)で下のBの音を吹いたまま」


そう途中まで言うと、下のBの音を吹いたままF管との切り替えレバーを押す姫乃。


「B→F」

すると間の音が入らずにBからFに音が直ぐに変わる。


「「おお!」」


一年生の驚きの声が揃う。


「わかったぁ?」


「「分かりました(ましてよ)!」」

一人だけ語尾がおかしいが。


姫乃は一年生達三人の返事とその表情から大体内容が理解されたと認知し(うーん。大体全員説明の内容を理解したようねぇ)と感じて、更に話しを「テナートロンボーンとテナーバストロンボーンとの違い」までもっと先に進める事にする。


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