第6話 夢をのせて

「それはトロンボーンだよ!」


吹奏楽界では有名人で有る岩崎に褒められて少し照れながらも、一つの言葉を頭の中で繰り返す弘之。

トロンボーン、とろんボーン、とろんぼーん。

なんかとろけて爆発しそうな名前だな「とろん」で「ボーン」

そんなちょっと抜けたこと考えながら。


「わかりました、僕トロンボーンをやります!」

とろん、ぼーん!完全に弘之の頭の中はとろけた爆破になっているのだが…。


「そうか、やりたい楽器が見つかって良かったね。でも体験入部とかでいろいろな楽器をさわってから考えるのも良いからね!焦らずに自分に合った楽器を探してみなよ。」

実際には楽器の人数配分(上級者たちがトランペットが少なくてトロンボーンが多かったり、木管と金管の人数バランスなど)や学校の所有している楽器の数など様々な条件で必ず希望楽器が出来るとは限らないのだけど、その点は中学側の事情なので仕方がない。


話しがひと限りついた所で岩崎は一瞬周囲を確認するかのように視線を動かす。

どうやら弘之達の後ろには岩崎氏と話そうとするOB OGや保護者、吹奏楽関係者など様々な人が並んでいたようだ。


「岩崎先生、ありがとうございました。この子たちも先生のお話しを聞けてとっても参考になったみたいです。特に弘之くんは。」


織絵お姉さんがすかさず空気を読んで締めに入る。流石織絵お姉さん、空気の読める完璧お姉さん☆弘之はまたしーよもないお姉さん妄想しているようだ…。


そんな弘之の脇腹を「弘之もう行くよ」と琴映は突く。ツンツンからガシガシと、あの?琴さん…妄想の内容に気付いてないよね?


「ほら、2人ともちゃんと先生にお礼しなさい」

織絵お姉さんに促された2人は呼吸を整えて

「「せーの!ありがとうございました!」」

バッチリ声を揃えて岩崎に挨拶し、その場を後にする。うん、これで初めての共同作業、ケーキカットも完璧だな!1人変な妄想してる少年もいるけど…。


「おー頑張れ少年少女!」

岩崎はそんな去りゆく2人に声をかけてOBさん達とのお話しを始めた。

織絵お姉さんも同級生やら何やらと話す為人混みの中へとそっと消えて行った。いやちゃんと2人の帰る姿をチラ見しながらだけどね。


そして会場を後にする少年少女、弘之と琴映。

「とろん」「ボーン」「とろん」「ボーン」

「私はクラリネットだからねー」

「とろん」「ボーン」「とろん」「ボーン」

「私はクラリネットー」


芸術館から駅へと続く、川沿いの桜並木の道を2人は歩いていく。

中学入学から始まる吹奏楽ライフを想像しドキドキワクワク、夢を膨らませながら。


まだ蕾の桜はこれから沢山の白や薄桃色の花を咲かせるのだろう。2人の未来の様に















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