第3話 お姉さんはロマンだよ


「弘之!ねぇ弘之ってば!」


演奏会の余韻と妄想に浸る弘之を幼なじみの琴映が呼んでいる。


「トリップタイムは終わった?おねえのとこに挨拶行くよ! てか客席空けないと舞台の片付け出来ないってさ」


琴ちゃん……トリップタイムって……。


という訳で織絵姉さんに挨拶する為にロビーに移動する2人。


(はぁー、織絵お姉さんかぁ☆僕も吹奏楽部に入ります!って言ったら、ギュっからの撫で撫でに……)等と弘之は優しい織絵お姉さんに甘やかされる妄想をしながら歩く。


スパァーン!


軽快な音がホールのロビーに響く。

弘之は隣を歩く琴映に手に持った演奏会のプログラムでいきなり頭を叩かれた。


「痛ったいなあ、何すんだよ!」


「もう! 弘之の妄想。全部声にでてるからねっ!」


(え?全部声に出てた?あちゃー。なんでちょっとほっぺ膨らんでんのかな琴ちゃんは……。まあいいや←)

弘之は頭を掻くと「あはは」っと笑って誤魔化した。


「織絵おねーえ♪」


琴映がロビーにいるお姉さんに駆け寄っていく。

僕はそれにニコニコ(にやにや)しながらついて行く。

気持ち悪い……。


「琴映。来てたんだー。どうだった?」

「すっごい良かったよー」

etc…


お姉さんが琴映と話している。うん、家族の会話だね。

弘之は邪魔にならないように近くをふらふらとしている。(僕は風景……。僕は風景……)織絵お姉さんをチラチラ見ながら……。

うん更に気持ち悪い……。


「うん?琴映、一緒に来てるのって弘くん?」

どうやら弘之はやっと織絵お姉さんに気付いて貰えたようだ。


「お久しぶりです織絵お姉様」


緊張してつい「お姉様」と言ってしまった弘之。


「お姉様?相変わらず弘之君って面白いわね」


くすりと笑う織絵お姉さん。(めちゃくちゃかわゆす。ギガかわゆす。てらかわゆす)


「どうだった今日の演奏会?」


「はいっ、と、とても感動しました!!」


照れて、つキョどりつつ弘之は答える。


「最初の方でキラキラ楽器がドババーンとなって、ゆったりになって、最後もドーンで……二部も演劇みたいでヤバかったです!三部は更にダイナミックで、それで、えーと、えーと」

語彙力なしで……。


「ごめんね、おねえ。弘之、楽器の名前とか良くわかんないみたいで…」


語彙力ゼロで擬音を混ぜ抽象的に話す弘之を琴映がすかさずフォローする。


「そんなこと言って、琴ちゃんは楽器の名前とかわかんのかよ?」


つい昔の呼び名で話す弘之に琴映は少し顔を赤らめる。


「(こ、琴ちゃん?)わ、私だっておねえがやってる楽器ならわかるわよ! クラリネットよ!」  


そんな2人の初々しいやり取りを見て、織絵お姉さんが優しく微笑みながら返してくれる。


「うふふ、まあ2人とも大体おんなじようなものね」


織絵お姉さんまじ天使、ギガ天使、てら天使……いや女神様だ! 女神は天使を超える!


弘之は今がチャンスと思いあの言葉を切り出す。そう撫で撫でワード……いや違う。


「織絵お姉さんっ! ぼ、僕、結婚しますっ!」


(えっ?誰と?)言われた内容の意味がわからず、きょとんとする織絵お姉さん。


間違えた。

テイク2。


「ゴホン。間違えました。僕、中学で吹奏楽部に入ります!」


言ってやったぜ……。






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