第35話 「妄想族」明日の予定

部活も終わり一緒に帰る拓郎が楽器を片付けているのを待っている間に琴映から来ていたメッセージ

            琴映)明日ひま?


このメッセージの返信をどうするか、弘之は下校の間は勿論、家に着いてからも暫く悩んでいた。

(確かに明日は特に予定は無くひまなのだが、余り食い気味に「ひまひまー♪」と返したり、直ぐに返信するのも何だかカッコ悪いしなぁ。でもあんまり遅く返信するのもやっと仲直りしそうなのにまた拗れそうだし)


ご飯をモニュモニュと食べながらもスマホと睨めっこしていた弘之だが、意を決して「飛んでけ紙飛行機!びゅーん」と言いながら返信ボタンを押す。


弘之)暇だよー(((o(*゚▽゚*)o)))ちょうひま!


そんな十分がっついてて気持ち悪い(笑)メッセージを送り暫く待つ弘之。母親からは「あんたご飯食べながら何言ってんの?」と不審がられた。


その後、食後のコーヒーをもモキュモキュ飲みながら、暫く画面と睨めっこしてると琴映から返信が来た。ピコリン♪


     琴映)じゃあ、15時にウチにきて


ブオッ

弘之は驚いて思わず、もきゅもきゅ飲んでいたコーヒーを吹き出した。

(え?家に行くの?僕が?琴ちゃん家に?昔は良く遊びに行ったけど、最近は殆ど行ってないのに?)


弘之が吹き出したのを見て、キッチンで洗い物をしていた母親が「もう汚いわねえ。これでちゃんと拭きなさい」と言いながらテーブル拭きを投げて来た。

それを受け取りニヤニヤデレデレしながらテーブルを拭く。

そんな弘之を見て母親は「この子、本当に大丈夫かしら?」と半分本気で心配していた。


テーブルを拭き終わると、再びコーヒーを入れてイスに座り、スマホの同じ画面をデレデレしながら眺めていた弘之だが、すぐに「いかんいかん」と取り直して返信する。

クールに冷静に。


弘之)わかった!直ぐに行くぽよ(๑>◡<๑)


全然、冷静じゃない。


          琴映)なにぽよって?

   琴映)いや、今は来なくて良いから…


直ぐに返信が来た。若干、いやかなりドン引き気味で。


「ヤバい、引かれた?」焦る弘之。今度こそ冷静に返さなければ。


弘之)明日の15時ね。わかったぽよ(≧∇≦)


またしても全然冷静じゃないのだが、まあその辺は昔からの付き合いでわかって貰えるだろう。


            琴映)宜しくね

 琴映)えへへ、見せたいモノがあるんだ♪

       琴映)照れた感じのスタンプ


ブオッ

弘之は琴映からの返信にまたしてもコーヒーをテーブルに吹き出した。

「見せたいもの、見せたいもの」と言いながらテーブルを拭きだす。


(見せたいものってなんだろう?もしかして琴ちゃんがリボンを付けて、見せたいのは、わ・た・し♪みたいな?くーぅ)両目をギュッと閉じて手を胸のとこで握りモジモジしながら、ヤバい妄想をしている弘之だが、小学生から中学生になったばかりの男子なんてこんなものだ。

(「私の事よーく見てね。」とか言って服を…。)「わーっ、困る困る!」と言いながら顔をブンブンと左右に振って一生懸命にテーブルを拭き妄想を打ち消す弘之。

しかしその顔は行動と反して満更でもなく、「いやーまいったなぁ」とでも言いたげだ。


側を通りかかった母親はそんな弘之を見て「うちの子、最早手遅れか…」と額を押さえ呟いていた。


その後ルンルン気分で鼻歌を歌いながらお風呂に入り、少し勉強してから、いつもの様に「とろんぼん練習ノート」にその日やった内容を記入する弘之。

今日は新しいこと(クロマティックスケール)をやったので書くことがいっぱいだ。

しかし明日の事を考え、書いては妄想、書いては妄想と休み休み書いていたので結構時間が掛かってしまった。


弘之はベッドに入り目を閉じると疲れからか直ぐに眠ってしまった。


窓の外には大きな月が輝いて、夜の街を優しく照らしていた。

全てを見守るような柔らかさで。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る