伊達家編 

第36話 いざ、伊達家

朝起きると昼だった。

昨日朝から授業・部活と過ごして、夜は「妄想族」として活動した弘之は疲れからか直ぐに寝てしまったものの、成長期の少年の身体は沢山の睡眠を求めていたようで、休日で目覚ましをかけずに寝ると昼ぐらいまで余裕で寝てしまう。


「あわわ、やばいやばい」と弘之は慌てて起きて二階の自室から下へおりて、眠たい目をこすりながら洗顔と歯磨きをする。

それらが終わると鼻歌を歌いながらキッチンへ向かい、取り敢えず朝のコーヒーを入れる。


「琴ちゃんちー♪琴ちゃんちー♪楽しい楽しい琴ちゃんちー♪」


そうやって歌を歌いながらコーヒーを入れていた弘之だが、ハッっと気が付いて口を塞ぐと、ぐるりと室内を見渡し誰も居ないことを確認して安堵の息を吐く。

両親は出かけてて、兄は部活であろう。


「ホッ。危ない危ない。誰かに聞かれてたら絶対からかわれるとこだった。」


思春期の異性についてのからかいは中々ヘビーである。特に少年に対しての母親からのそれはかなりのものだ。

ま、伊達 琴映の家に弘之が行くのは親同士の繋がりで直ぐに母親にバレて、結局からかわれるのだが。

弘之が呟きながらコーヒーを持ってイスに座ると、テーブルの上にラップで包まれた食パンのトースト、サラダ、味噌汁(なぜ味噌汁)があった。

更に脇にはカレー味のカップ麺と一緒に「お昼はこれでも食べなさい。」と書かれたメモもある。


「もうお昼だし、コレも食べちゃお」


冷めたトーストとカレー麺を持ち席を立ち、

トーストをレンジに入れてダイヤルを回し、カレー麺の包装を剥がしてお湯を入れる。

全て用意が終わるとそれらを持って席に戻る。

席に着くとカレー麺がふやける様に3分待つ。その間にスマホのアプリを起動し、昨日琴映から来ていたメッセージを見てまたニヘラっとしながら今日の事を想像する。

余りに長く想像の世界に行ってしまい、蓋を開けるとカレー麺はすでにフニャフニャになってしまっていた。


弘之は食事が終わるとそれはもう入念に歯を磨き、髪をセットして、服をパジャマから自分的お気に入りの1番良いのに着替えて、時間までテレビを見て過ごした。

その間にも落ち着かず何度もスマホを見ては「ふへへ」ニヘラっとしては鏡で髪型を確認する。

鏡に映るニヤニヤ顔が中々に気持ち悪い。


そんなソワソワと落ち着かない時間を過ごしていると15時5分前になったので家を出る。

少しギリギリな気もするが、琴映の家は弘之の家の近くも近く、隣の隣り。徒歩1分も無い。


弘之は緊張した面持ちで伊達家の庭と外を隔てる簡易な門の前に立ち、息を一息「すぅー」っと吐くとインターフォンを押す。

ピンポーン♪


永遠の様な一瞬の後、「はい」と言う短い返事が返って来た。

声の感じからして伊達姉妹の母親であろう。


「あ、橋本です。琴映さんに会いに来ました。」


弘之は琴映の母親が出てきた事でいつものおふざけは無しで、更に緊張した感じで答えた。


「あらぁ。弘くん。ふふふ♪ちょっと待ってね。琴映ーっ?弘くん来たわよー」


「はーい」


琴映の返事とドタドタと階段を降りる音がした後インターフォンが切れ、暫く待っていると玄関のドアが開いた。

制服とは違い普段着の琴映が姿を現し、門の所まで弘之を迎えに来る。

ついこの前まで小学校で見慣れていた普段着も、中学で制服になった今はなかなか新鮮なものに見える。


「お待たせー。取り敢えず入って」


門の所まで来てそう言った琴映。

(琴ちゃん私服も可愛いなあ。こういう時は服を褒めると女の子は喜ぶって雑誌に書いてあったぞ。)弘之はそう思い、さっそく実践しようと口を開く。


「可愛い服だね」


弘之がそう言うと琴映はパァっと明るい笑顔になって答える。


「ホントに?ありがとう。ふへへー」


(やった!効果あるぞ)弘之は調子に乗り服を褒め続ける。そう服だけを。


「ちょう可愛いよ服。服がお嬢様みたい。綺麗だなー服」


すると琴映の顔はだんだんと険しくなり。


「ふーん、弘之もう帰る?」


と言われてしまった。

弘之は(あれ?おかしいぞ?何か間違えたかな?)と思い悩む。

しかし、最後にボソッと「でも、琴ちゃんが一番可愛いよね」と言うと、琴映は顔を耳まで真っ赤にして「あ、あんたばかぁ!?もう。いいから早くうちに入って。」と言ってクルっと反対を向きスタスタと玄関へ歩いて行くのだった。


どうやら弘之の命は何とか救われた様だ。

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