第24話 「普通」の基準
「部活でぼーんでランランラン♪とろんでぼーんで大爆発♪」
剣道対決を終えて、ウキウキと廊下を進む弘之。
対決後、トロンボーンを吹く事しか頭に無かった為、着替えをするのを忘れて胴を付けたまま剣道着姿で鼻歌を歌いスキップしていた。
弘之がそんな格好でスキップしながら歌ってるのを見てすれ違う生徒達が「剣道部員が変な歌歌ってるぞ」とか「あの子見たこと無いから1年生だよ。剣道部終わったな…」等と囁き合っている。
それを聞いた弘之は(失礼な!僕は剣道部じゃ無いのに…。)と見当違いな反論を心の中でしている。
弘之!自分の格好を良く見ろ!
あと、剣道部は弘之が入らなくても、リア充シネシネ教の儀式(前話23話参照)をしてる時点で終わっているから!
そんなこんなで、色々と思想して歩いている内に気がつくと弘之は吹奏楽部の活動場所にである第一音楽室のドアの前に立っていた。
ドアの前に来たは良いが、中から聴こえてくる様々な楽器の音に自分がここに来るのが部活開始の時間からだいぶ遅くなってしまった事に気が付いた弘之はもじもじとして中に入るのを躊躇している。
「まいったな。もう部活が終わる30分前ぐらいだし、今から中に入るのはなんか気まずいなぁ」
しかし、入らなければ先には進めないし、トロンボーンを吹く事もできぬと、意を決してドアを開ける弘之。
ギィィー
相変わらず木造校舎にあるドアの様な古臭い音と共にドアが開くと、波瑠先輩が「待ってましたー!」と飛び出して…
は、来なかった。
どうやら初日のインパクトが強すぎたみたいで、また波瑠がシュバッっと飛び出して来る様な想像をしてしまった弘之。
頭の中で青く丸っこいタヌキ(猫)が「どこでもはるー」と言っている…。
弘之はブンブンと頭を振りそんな妄想を吹き飛ばすと、音楽室の中をぐるりと見回して見る。
すると各楽器にパラパラと赤い上履きを履いている新入生らしき人達が緑の上履きを履いている上級生と話したり楽器を吹いたりしている。
二年生は10人一年生は15人ぐらいだろうか。
(へー、結構仮入部いるじゃん。あの入学式の演奏で入部希望者は少ないんじゃないかと思ってた…)
そんな上から目線な事を考えている弘之。何を偉そうに(←)
確かにあの演奏を聴いて入部を躊躇ったものもいるだろう。
しかし、よくよく考えると弘之は全国大会常連校と言う言わば「かなり高いレベル」の演奏を聴いてから、ポンコツと言われる「最低レベルの演奏」を聴いた為、その格差からより強いショックを受けたのだ。
所謂「普通」に対しての基準が上がっていたのである。
それに対して、入部希望者には入学式で初めて吹奏楽部の演奏を聴いた者も多くいるのである。
その者たちはその「最低レベルの演奏」が「普通」の基準となるのである。
そう考えると、仮入部生が多いのもそんなにおかしな事では無いのであった。
話しを本編に戻そう。
弘之はそう偉そうな事を考えながらゆっくりと辺りを見回していたのだが、ふと何故かほんの少し漠然した不安を心に感じ、気になってクラリネットパートの方に視線を移すと、そこでは知らない上級生と新入生が楽器吹いたりお喋りをしていた。
弘之の不安が的中した。
(やっぱり今日も琴ちゃんが来ていない。)
弘之はやや目線を下げ瞼を細めるとほんの1・2秒程クラリネットパートを見ていたが、ハッと目開くと視線をトロンボーンパートへと移す。
するとそこでは姫乃が此方を見ながら左手に楽器を持ち右手で「おいでおいで」と手招きをしていた。
おいで〜♪おいで〜♪
そのおいでおいでに釣られるように弘之は姫乃の隣りへと歩く。
おいで〜おいで〜♪
すると姫乃が手招きをやめて心配そうな顔をすると話しかけて来る。
「ひろっち、大変だったわねえ?藤村君に聞いたわぁ。剣道部に拉致られたんですって?大丈夫ぅ?」
「全然大丈夫でした!剣道部か吹奏楽かを掛けて兄と勝負になったんですけど、コテンパに(されて)やりましたよ。はっはっはー」
弘之は自信満々に、でも(されて)のとこは聞き取れないくらいの小声で言った。
「それは大変だったねぇ…私はひろっちが剣道部に行ってしまうんじゃ無いかと思って…心配で…」
そう言って姫乃が悲しそうな顔をする。
「先輩…」
(去年自分が入った年に上級生がいなくなったってのがコンプレックスになってんのかな…)弘之はそう思いながら姫乃に掛ける次の言葉を探そうとする…
すると下を向いて悲しそうにしていた姫乃が急に顔を上げニコパァっと破顔すると。
「まあ良いわ!さ、楽器吹きましょ!ひろっちのやつはもう組み立て用意してあるから」
そう言って、楽器を渡してくる。
えぇー!?えー!?切り替えはやっ!
流石魔性姫乃で有る!
切り替えの早さに驚きつつも「は、はい」と言って姫子から楽器を受け取る弘之であった…
次回(こそは)
楽器を吹きます!
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