第46話 弘之専用とろんぼーん♪
明くる日。
楽しかった楽器決めとレクレーション大会も終わり、第一音楽室では通常通りの部活動が始まろうとしていた。
しかし弘之も含め新入生の殆どが初心者の為、仮入部の時と同じく一年生は基礎練習、二年生はその指導と言う地味で根気のいる内容が
弘之は楽器倉庫に行き姫乃先輩が指定した楽器ケースを探す。
事前に姫乃が弘之の名前の書いた紙をケースに付けてくれたらしい。
「えーっと。ほぼ全部じゃん!」
見ると陳列棚に並んだトロンボーンケース、
その殆どに「ひろっち」とデカデカと書いた紙が貼ってあった。
その全てを何度も往復してえっちらおっちらと音楽室へ運び、それを組み立ててケースの上に並べる弘之。
左からBACH《バック》YAMAHA《ヤマハ》 CONN《コーン》 GETZEN《ゲッツェン》HOLTN《ホルトン》 A.Courtois 《クルトワ》が二本づつ……。(ホルトンのみ一本)の総勢11本! 圧巻だ。
「うわー、凄いなぁ。楽器屋さんみたいだ。行ったこと無いけど」
自分で組み立たものの、トロンボーンがズラリと並んだその光景に感動する弘之。
「パシャ♪ パシャ♪」
弘之は折角だからとカバンからスマホを取り出して並べたトロンボーンを撮影する。
「あらぁ、こうやって並べてみると凄いわねぇ♪」
すると弘之が11本の楽器を必死に組み立てて並べるている間、他の一年生(
「ですよね。で、先輩、今日は何をするんですか? 楽器の展示会ですか?」
「今日はねぇ、ひろっちの専用の楽器を決めて貰おうと思ってねぇ。毎回違う楽器も大変でしょお? 楽器によって癖も違うしぃ」
「僕専用の楽器!? やったあ! えーっとあの形がグルグルしてるのにしようかなぁ」
姫乃から自分専用の楽器を決めると聞いて舞い上がる弘之。
専用って響きがカッコいいからね。朝専用。シャ◯専用等々。赤い楽器で3倍速!
そんな弘之を見て姫乃は(あらぁ初々しいわねぇ)と思い微笑むも、形だけで選んでは折角楽器を組み立てて並べた意味が無くなってしまう為、弘之に楽器を試奏する事を促す。
「ひろっちぃ。形で決めるのも悪く無いんだけど。取り敢えず一通り吹いて自分が一番良いと思ったのにしようねぇ」
「わかりました! 取り敢えず吹いてみます。どれから吹こうかな〜♪」
鼻歌交じりで楽器選びを始めた弘之。
先ずはセオリー通り左から、バック(42BGL)を吹いてみる。
黄色い色をした方でベルの横にF管がグルグル巻いてある。
上の音から下の音までをパラパラ♪プープー♪と。
「ふむふむ」
次もバック(42GBO)
隣りにあった少し赤みのかかった色の方でF管がグルグル巻いてなくて後ろにビヨーンと伸びている。
「ふむふむ……」
そう言いつつ少し首を傾げる弘之。
次はYAMAHA(YSLー882)。
ベルの色が黄色い方でF管グルグル。
「ふむふむ……?」
またまたそう言いながら、今度はやや大きく首を傾げる弘之。
更にYAMAHA(YSLー823G)
ベルの色が赤くF管グルグル。
「ふむふむ……?あのー?先輩?」
そして、今度は大きく首を傾げてから姫乃に問い掛ける弘之。
姫乃はそれを面白そうに見ながら答える。
「なあにぃ?」
「良いってのが良くわからないのですけど。どれも良い様な気がして……」
試奏を始めたが「良い」の基準が判らなくて混乱する弘之。
「例えば、どんな所が良かったのぉ?」
姫乃は直ぐにアドバイスをせずに弘之にどんな所が良かったのか説明させる。
「うーん。黄色い方が赤いのより音が鳴らしやすいんですけど、赤い方がまるーくてしっとりとした音の様な気もするし……バックよりYAMAHAの方が全体的に吹きやすいし均等に吹けるんですけどバックの方が音が太くて深い様な気もするし。全部良いけど、一丁一短で」
弘之の言葉を聞いて姫乃は(あらぁ。掴む所は掴んでいるわね)と思い少しだけ褒める。
もっと褒めてあげてよ。
パチパチ♪
「とっても良く特徴を捉えてると思うわぁ。そうねぇ。全部良いのよねぇ」
(全部良いって同意されてもなぁ。アドバイスが欲しいのだけど)
姫乃から何か的確な情報やピンっとくる様な助言が欲しかったのに同意されてしまい、より困惑する弘之。
姫乃は弘之のそんな様子を見て、もう少しだけヒントを出してあげる事にする。
「そうねぇ。一般的に黄色い方、黄ベルって言われてる方は息を入れてからの
「なるほどー」
姫乃の説明になんとなーく頷く弘之。
解っているような解って居ない顔をしている。
すると姫乃は楽器選びをする上で一番大事な事を弘之に伝えた。
「でもね、響きとか音色とか反応とか操作性とかスライドの動かし易さとか色々判断基準はあるけど、結局はひろっちが楽器を吹く上で『何を一番大事に思うか』が肝心なんじゃないかしらぁ?」
「『何を一番大事に思うか』かぁ」
弘之は姫乃の言葉を復唱して、自分の中に落とし込む。
そして何かを納得したような顔をすると短く「わかりました」と言って顔を上げて姫乃を見た。
姫乃はそれを見ると小さく頷いてから「じゃあ他の楽器も吹いてみましょう」と弘之に楽器選びの続きを促した。
「はいっ!」
弘之はそう元気に返事をすると一度楽器を置いて、急いで自分の荷物が置いてある席に行って鞄から筆記用具を取り出す。
そして戻って来るとまた1番左のバック42BGLから吹き始め、吹き終わるとその特徴を箇条書きで書き移していく。
※楽器の感想は弘之の感覚です。
万人に共通しているものではありません。
弘之が順番に吹きながらブレインストーミング的に思った事書いてるので省略されてたり、付け足しだったりもします。
BACH《バック》
42BGL黄ベル、トラディショナル(ベル横F管がグルグル巻いて有るタイプ)。
やや明るい音。何となく大雑把と言うかおおらか。細かいのは苦手?
42GBO赤ベル、オープンラップ(F管がグルグル巻いて無いタイプ)。
音色が柔らかくて深い(気がする)!黄ベルと同じく大雑把で大らか。息は入れ易いかな。やっぱり細かいのは苦手?BACHは大型の車っぽい。
YAMAHA《ヤマハ》
YSLー882黄ベル、トラディショナル。
反応が早い。上の音も下の音も全部が均一に鳴る?小回りが効く。でもバックより持った感じがコンパクトに感じる。
YSLー823G赤ベル、トラディショナル。
黄ベルより暖かい音。ホントに少しだけ反応が遅くなる。音は均一。やっぱりコンパクト感が。黄よりは好み。
YAMAHAは小型の日本車みたいな感じ?
CONN《コーン》
88HY黄ベル、トラディショナル。
バックとYAMAHAの中間みたい。反応は良い。少し繊細な感じ。持った感じはコンパクト。
88HR赤ベル、トラディショナル。
柔らかくて暖かい良い音?黄ベルより赤ベルの方が好きかなー。
コーンは小回りが効くけどミスると直ぐスピンするレーシングカートみたい?
GETZEN《ゲッツェン》
3047AFY黄ベル、アキシャルフローバルブ(円錐形のロータリーで管はグルグル巻かず
オープン)
正確さと音の太さを両立? 音程にシビア? スライドの位置をピッタリ合わせないと大変。
3047AFR赤ベル、アキシャルフローバルブ。
黄ベルより音が深い。息の量がバックぐらいいる?
ゲッツェンは速度が速いのにハンドルがクイックなF1マシンみたい。
HOLTN《ホルトン》
ホルトン?パオパオ吹ける。コーンっぽい。
????
ダークホース?
※ホルトンはホルンの一流メーカーです(最近トロンボーンも人気出てきたみたいですね)。
A.Courtois 《クルトワ》
AC420BM黄ベル、トラディショナル。
バックに似てる。吹いた感じもバックに似てる。バックより音がやや明るい?バックよりすこーしだけ楽に吹ける気がしないでもない。
AC420MBH黄ベル、ハグマンバルブ(F管は巻かないオープンタイプ)。
バック感が消えた。花の都パリ?明るい良い音。息を沢山吹き込むと暴れる。おフランスざます。エレガント。
クルトワは優雅な高級車?
一通り全部吹いてみて特徴を書き出した弘之。
「さて、どれにしようかなー?」っと腕を組んで考えている。
暫くの間、メモと楽器に視線を往復させて考えている弘之。
(んー、難しいなぁ)
どうしたものかと考えながら、もう一度姫乃にアドバイスを求めようと、視線で彼女を探す弘之。
すると姫乃は弘之から少し離れた所で他の一年生達にマウスピースを使った音出しを教えていた。
それを見た弘之はそちらへ向かおうとして一歩踏み出すが、先程姫乃が言っていた事を思い出し足を止めた(「でもね、響きとか音色とか反応とか操作性とかスライドの動かし易さとか色々判断基準はあるけど、結局はひろっちが楽器を吹く上で『何を一番大事に思うか』が肝心なんじゃないかしらぁ?」)。
(僕にとって1番大事にしたいもの……)
「
弘之はそう小さな声だが自分を納得させるように強く呟くと並べられた楽器達の中からBACH42GBOを手に取り姫乃達の方へと歩き出した。
※バック正規代理店 野中貿易ホームページより。
42BO■GB
銘器42BのFアタッチメントの巻きを緩やかにしたオープンラップの太管テナーバストロンボーン。
Fアタッチメントのレイアウト以外は42Bと同じ仕様で、42Bの音色を持ちながら、よりオープンな吹奏感を得ることができます。
GB(赤ベル)イエローブラスよりも銅の割合が多い真鍮で、見た目は銅が多い分だけやや赤味かかっています。イエローブラスよりも暖かくて柔らかい感じの音を持っています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます