第15話 今は昔

 「「「トロンボーンかよ!!!」」」


辺りで聴き耳を立てていた部員達からの盛大なツッコミ。


その反応に弘之はどうして突っ込まれたのか分からずキョトンとした顔でぐるっとあたりを見渡す。(あれー?僕、なんかおかしな事言ったかな?吹奏楽部でトロンボーンがやりたいって普通だよね?)と思いながら。

すると突っ込んだ筈の部員達も弘之と視線が合わない様に明後日の方向を向いて音の出てない口笛を吹いていたり、急に友達とお喋りし出したりしていた。(おかしいなぁ)


「ねぇ、橋本君、取り敢えずトロンボーン、吹いてみる?」


甲斐 姫乃は自分の恥ずかしい勘違いに顔をやや赤くしながらも弘之にその勘違いの内容を気づかれないように努めて冷静な態度を装って話しかけて来る。


「はいっ!もちろんですっ。」

やっと楽器が吹けるのかと即座に反応する弘之。


「じゃあ、取り敢えず楽器取りに行くから、一緒に倉庫について来て。」

姫乃はそう言い立ち上がり、左手に持った楽器を椅子に置くと、「こっち」と小さな声で言うとスタスタと歩き出すのであった。


弘之はその動作を見て「姫乃先輩、さっきまでと全然喋りかた違うなぁ。」と思いながらも、姫乃に遅れまいとトテトテと小走りで付いて行くのだった。


「うんうん、後は若い2人に任せておけば大丈夫ね。」

そんな2人の様子を見て安心した様に頷く波瑠。(お見合いの仲人みたいな発言してるけど…)



音楽準備室

そう書かれた白いプレートのある部屋は音楽室の隣に有った。まあ普通は準備室は隣りだよね、そうだよね。


音楽準備室と言う名前だが、実際には吹奏楽部専用の楽器倉庫になっている様だ。

弘之は姫乃に続いて中に入る。

その中には図書館の様に並んだ陳列棚がありその棚に大小沢山の楽器ケースが置いてあった。


弘之はふと横を見る。

そこにはガラス製の扉が付いた棚がずらりと壁に沿って並んでいた。


「あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。」


竹取物語かよ!!←


上のボケは置いといて…。

ここから続き↓


弘之は気になって近寄り、ガラスケースの中を覗いて見る。

すると中には沢山の賞状や盾が飾って有った。


「第〇〇回 吹奏楽コンクール

 東関東大会

 市立富士見ヶ岡中学校

 金賞」

「第〇〇回 全日本吹奏楽コンクール

 市立富士見ヶ岡中学校

 金賞」

その他、アンサンブルコンテスト金賞、フェスティバル金賞、審査員特別賞、朝日賞…等々


「すごい…」

思わず声に出る弘之。


「すごいでしょう…」

不意に隣から声が聞こえた。

弘之の横にはいつの間にか棚から取り出したトロンボーンの楽器ケースを持って姫乃が立っていた。


そのあと姫乃は、ガラスケースの中を見て驚いている弘之に悲しそうに、そして何かを諦めたかのように、こう言ったのだ。


「うちの部、全国大会の常連校だったんだぁ…2年前…私が入る前の年までは…」





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